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ジュスタン・テイラー(チェンバロ)|藤堂清 

ジュスタン・テイラー(チェンバロ)
Justin Taylor (Clavecin)

2023年1月10日 王子ホール
2023/1/10 Oji Hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 横田敦史/写真提供:王子ホール

〈プログラム〉        →foreign language
フランソワ・クープラン:
陰気な女 /青春 /神秘的なバリケード /牧歌
スペイン風 /傲慢な女、またはフォルクレ夫人 /小さな風車
アントワーヌ・フォルクレ/J.テイラー:3つのヴィオール組曲
アルマンド /クーラント /サラバンド
ジャック・デュフリ:ラ・フォルクレ
ジャン=バティスト・フォルクレ(編):
ラ・ラモー /ラ・シルヴァ /ジュピテル
—————-(休憩)—————-
ジャン=フィリップ・ラモー:
雌鳥 /3連音 /レジプシエンヌ /未開人 /鳥のさえずり
クロード=フランソワ・ラモー:ラ・フォルクレ
ジャン=フィリップ・ラモー:
クラヴサン曲集 第1巻より アルマンド/クーラント
新クラヴサン組曲より ガヴォットと6つの変奏
————-(アンコール)————-
バッハ:協奏曲 ニ短調 BWV974より 第2楽章
ロワイエ:スキタイ人の行進
スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K27
バッハ :平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調 BWV846より 前奏曲

 

なんという華やかな、そして煌めきに満ちた音だろう。これがジュスタン・テイラーの音、というものを聴かせてくれる。
使われた楽器は、1992年にRyo Yoshidaが製作した18世紀のフレンチモデル。レンタル機材としてさまざまな場面で活用されているので、他の奏者で聴いたことはある。テイラーが、楽器から個性的な音を弾きだす能力はすぐれたものといえるだろう。

ジュスタン・テイラーは30歳の若手。ピアノ、チェンバロともに学んできたが、ブルージュ国際古楽コンクール・チェンバロ部門での優勝を契機に、チェンバロ奏者としての経歴を積むこととなったという。

この日はフレンチ・プログラム。フランソワ・クープラン、フォルクレ父子、ジャン=フィリップ・ラモー、そして彼らと関係する作品で組まれた。
最初のブロックはクープランの作品。弾きだされてすぐに感じたのは、低音域を受け持つ左手の音が軽やかなこと。一音一音が軽いというのではなく、撥弦のスピードが速いといえばよいのだろうか、右手のしっかりした音と比較すると印象が異なる。聴く機会の多い〈神秘的なバリケード〉では、そのようなバランスの違いはなかったので、曲により表現を変えていたということだろうか。いずれの場合でも音の一粒一粒がしっかりしており、きっちり響く。王子ホールという小規模の会場ということもあって、チェンバロの音としては大きめに聴こえる。
第2ブロックは、アントワーヌ・フォルクレの3台のヴィオール用の組曲をテイラー自身が1台のチェンバロ向けに編曲したものから始まる。3曲がそれぞれ異なる曲想で書かれている。2曲目のクーラントでの技巧のさえが聴きもの。続くデュフリの《ラ・フォルクレ》は年代的に息子を想定した曲であろうか。ジャン=バティスト・フォルクレの3曲も父のヴィオール曲をチェンバロ用に編曲した形をとっている。2曲目の〈ラ・シルヴァ〉のダイナミクスを抑えた静かな曲想に引き込まれた。
休憩後の第3ブロックはジャン=フィリップ・ラモーの作品が中心。〈雌鳥〉〈未開人〉など聴きなれた曲が続く。打鍵のコントロールで響きを制御していく。それによって、テンポをいじったりせずとも表情の変化を生み出すことができる。

アンコールは、「フランスの作品ばかりだったので、バッハを」といって〈協奏曲 ニ短調 BWV974〉のアダージョ。たしかにそれまでの音とは違い、くすんだ印象の音楽。それも彼にとっては普通に引き出しに入っているもの。続いてロワイエの〈スキタイ人の行進〉、こちらは指の動きのはやさ、ダイナミクスの幅の広さといった技巧を示すもの。最後に《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》より〈第1番前奏曲〉でしっとりと。

フランスからまた一人若い優秀なチェンバロ奏者が出てきたことを、強く印象付けられた一夜であった。

(2023/2/15)

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François Couperin : La Ténébreuse / L’adolescente / Les Barricades mystérieuses / Les Bergeries /
          L’espagnolète / La Superbe ou la Forqueray / Les Petits Moulins à vents
Antoine Forqueray : Suite pour trois violes, transcrite pour clavecin par J. Taylor
Jacques Duphly : La Forqueray
Jean-Baptiste Forqueray : La Rameau / La Sylva / Jupiter
—————(Intermission)—————
Jean-Philippe Rameau : La Poule / Les Triolets / L’Égyptienne / Les Sauvages / Le Rappel des Oiseaux
Claude-François Rameau : La Forcray
Jean-Philippe Rameau : Allemande / Courante (Premier Livre de Pièces de Clavecin)
            Gavotte et 6 Doubles (Nouvelles Suites de Pièces de Clavecin)
——————(Encore)——————
Alessandro Marcello / Johann Sebastian Bach : Konzert in d-moll BWV974  2.Satz “Adagio”
Joseph-Nicolas-Pancrace Royer : La Marche des Scythes
Domenico Scarlatti : Sonata h-moll, K27
Johann Sebastian Bach : Das Wohltemperierte Klavier I, BWV 846 Präludium