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撮っておきの音楽家たち |ロナルド・ブラウティハム|林喜代種

ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)
Ronald Brautigam (Fortepiano)

2022年11月28日 武蔵野市民文化会館小ホール
Photos & Text by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

オランダのフォルテピアノの名手ロナルド・ブラウティハムが2台のフォルテピアノでベートーヴェン作品とシューベルト作品を弾き分けるコンサートを行なった。
Ⅰ部はベートーヴェンのエロイカ変奏曲とピアノ・ソナタ第23番「熱情」を、アントン・ワルター(1752~1826)が制作した楽器の複製で演奏。5オクターブ半の音域、68鍵を備える。2002年に製作した1800年頃のワルターモデルである。足ペダルはなくひざ式ペダルであり、楽器上部の鍵盤の下にある。シンプルで小型の印象を受ける。ベートーヴェンの「熱情」などで深遠なる音楽芸術の世界へといざなう。
後半のⅡ部のプログラムは、シューベルトのピアノ・ソナタ第21番。これは彼の最後のピアノ・ソナタである。使用フォルテピアノはヨハン・ゲオルグ・グレーバーがインスブルックで1820年に制作した6オクターブのウィーンアクションのオリジナル楽器。5本のペダルを持つ。古色美立ち上がる音の妙味。まさにシューベルトが生きた時代の楽器である。
ロナルド・ブラウティハムはオランダで最も尊敬されている演奏家である。アムステルダムとロンドンでピアノを学び、アメリカでルドルフ・ゼルキンに師事する。ハイティンク、シャイー、ブリュッヘン、ヘレッヴェッヘ、ホグウッドなど著名な指揮者のもと、主要ヨーロッパのモダン、ピリオド両方のオーケストラと共演してきた。2019年来日の時はエド・デ・ワールト指揮NHK交響楽団と共演したピアノ協奏曲「皇帝」、リサイタルのベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番など記憶に残る名演を残している。これまでにフォルテピアノでのモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンのピアノ曲全集など60以上のタイトルをBISレーベルからリリースしている。
ベートーヴェンが生きた時代のフォルテピアノとシューベルトが生きた時代のフォルテピアノというピリオド楽器を弾き、名手ロナルド・ブラウティハムがそれぞれの時代の音楽の世界へと誘う貴重な体験だった。

(2023/1/15)