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Pick Up (2022/11/15)|Promusica Baroque Academy 第4回定期演奏会 アレマン人エンリコ・サジッターリオ|大河内文恵

ハインリッヒ・シュッツ没後350年アレマン人エンリコ・サジッターリオ:処女作『マドリガーレ集第1巻』(1611年)と同時代のヴェネツィアの音楽を集めて

2022年10月15日 ウェスレアン・ホーリネス教団 淀橋教会インマヌエル礼拝堂
2022/10/15 Wesleyan Holiness Yodobashi
Text by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
写真提供:プロムジカ 

今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、視聴者が心を寄せるとその人物が次々と死を迎えて退場してゆくという容赦ない展開に心を抉られながらも、かといって見ないという選択肢はなく、毎回「つらいつらい」と言いつつみんな見るというTVドラマ史上稀有な作品である。
このドラマと同じ三谷幸喜脚本による2016年の大河ドラマ「真田丸」では、大阪夏の陣に敗れ生涯を終えた真田信繁の一生が描かれたが、関ケ原の戦いの回の前には、「今年は西軍が勝つのではないか?!」と期待する視聴者が後を絶たず、話題になった。史実としては「関ケ原の合戦では東軍が勝利した」と1センテンスで終わる出来事のはずだが、それまでのドラマの積み重ねを経て、見る人たちにとって信繁がまるで自分の身内や親しい友人であるかのような実体感がもたらされたためであろう。

歴史書の1文に、どれだけ実感をもたせる描きかたができるかがドラマの出来を示す指標だとすれば、音楽史の1文にどれだけの現実感をもたせて聴かせられるかが問われるのが演奏会の一側面だと言えるかもしれない。

そう思ったのがこの「アレマン人 エンリコ・サジッターリオ」だった。

「ハインリヒ・シュッツはドイツにイタリアの音楽をもたらした」という1センテンスに、どれだけの現実感と意味が込められたことか。プロムジカ使節団代表の圓谷が、公演プロデューサーとして菅沼を抜擢したのは、それができる人物だと確信したからであろう。

しかしながら、三谷脚本の大河ドラマも1本目は不評だったことによく現れているように、いい脚本があればいいドラマになるかといえば必ずしもそうではないのと同様、いいプロデューサーがいれば一件落着、いい演奏会の出来上がり!ではない。

当日有料販売されたパンフレットに掲載された、10頁にわたる「プロダクション・ノート」にぎっしり詰め込まれたプロデューサーの意図は、ここでは敢えて繰り返さないが、何重にも張り巡らされた「意図」によって、精巧な建築物のようにがっちり組み立てられたプログラムであることを如実に示している。

そして本当にすごいのは、そのプロデューサーの意図を16人の出演者全員が着実に理解し、それを音にしてみせたということである。この公演の後、偶然プロムジカ使節団代表の圓谷氏と話す機会があり、演奏の現場でどういうことが起きていたか話を聞いた。出演者のなかには古い時代の音楽に慣れていないメンバーもいたが、互いにアイデアを出し合ってリハーサルを乗り越え本番を迎えたという。もちろん、普段古楽を聞き慣れている人にはお馴染みの猛者たちが多数含まれていたということもあるだろうが、上手い人を集めればいいアンサンブルができるとは限らないところが音楽の難しいところでもある。

圓谷氏から聞いた話で興味深かったことを最後に1つ。プロムジカ使節団は、クラウドファンディングで修復したポジティブ・オルガンを所有しており、リハーサルの最初からこのオルガンを使用したという。オルガンというのは、ホールに設置されているものはリハーサル室に持って来られないし、ポジティブ・オルガンを運ぶのも手間や費用がかかるため、リハーサルでは使用せず現地リハーサルと本番のみで使用するということも多いという。今回の公演で、最初からアンサンブルががっちりはまっていたのは、このためだったのかと目から鱗が落ちた。
神は細部に宿る。

(2022/11/15)


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<出演>          →foreign language
ソプラノ:澤江衣里、小林恵
アルト:曽禰愛子、中嶋俊晴
テノール:大野彰展、金沢青児
バス:菅谷公博、山本悠尋

リコーダー:菅沼起一
ヴァイオリン:朝吹園子
サックバット:小野和将
ドゥルツィアン:長谷川太郎
バロック・ハープ:伊藤美恵
テオルボ:上田朝子
オルガン:石川友香理
チェンバロ:圓谷俊貴

<曲目>

アンドレア・ガブリエーリ:第二旋法のイントナツィオーネ(オルガン・ソロ)
ジョヴァンニ・ガブリエーリ:主に向かって新しい歌を歌え
チプリアーノ・デ・ローレ:ラ・インコスタンツィア(器楽)
A. ガブリエーリ:キリエ(5声)―クリステ(8声)―キリエ(12声)
A. ガブリエーリ/G. ガブリエーリ:高貴な血潮に慎ましく物静かな生命/愛は気高さと結ばれ
G. ガブリエーリ:第九旋法のカンツォン(器楽)
ハインリヒ・シュッツ:幸せな木々よ

~~休憩~~

H. シュッツ:春は笑い
モーエンス:ペザセン:さあ、春が来た
G. ガブリエーリ:第十二旋法のカンツォン(器楽)
H. シュッツ:貴方は大理石のような人
H. シュッツ:広大な海よ、その懐で
G. ガブリエーリ:第八旋法のフーガ(ハープ・ソロ)
G. ガブリエーリ:第七旋法のカンツォン(器楽)
H. シュッツ:全地よ、主に向かって喜びの声をあげよ

アンコール
H. シュッツ:主に向かって新しい歌を歌え SWV 463

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Soprano: Megumi KOBAYASHI, Eri SAWAE
Alto: Aiko SONE, Toshiharu NAKAJIMA
Tenor: Akinobu Ohno, Seiji KANAZAWA
Bass: Kimihiro SUGAYA, Yukihiro YAMAMOTO

Recorder: Kiichi SUGANUMA
Violin: Sonoko ASABUKI
Sackbut: Kazumasa Ono
Dulcian: Taro HASEGAWA
Baroque Harp: Mie ITO
Theorbo: Asako UEDA
Organ: Yukari ISHIKAWA
Harpsichord: Toshiki TSUMURAYA

Producer: Kiichi SUGANUMA

Andrea Gabrieli: Intonazione del secondo tono
Giovanni Gabrieli: Cantate Domino canticum novum a 8 C. 61
Cipriano de Rore: La inconstantia
A. Gabrieli: Kyrie a 5 – Christe a 8 – Kyrie a 12
A. Gabrieli / G. Gabrieli: In nobil sangue – Amor s’é in lei a 6 c. 180
G. Gabrieli: Intonazione del nono tono C. 240
G. Gabrieli: Canzon noni toni C. 173
Heinrich Schütz: Selve beate SWV 3

— intermission—

H. Schütz: Ride la primavera SWV 7
Mogens Pedersøn: Ecco la Primavera
G. Gabrieli: Canzon duodecimi toni C. 178
H. Schütz: Di marmo siete voi SWV 17
H. Schütz: Vasto mar, nel cui seno a 8 SWV 19
G. Gabrieli: Fuga ottavi toni
G. Gabrieli: Canzon septimi toni C. 171
H. Schütz: Jauchzet dem Herren, alle Welt a 12 SWV 36a

— Encore—
H. Schütz: Cantate Domino canticum novum SWV 463