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Antonio Caldara Kinen Ensemble Presents 知られざる名曲を求めて Vol. 2 アレッサンドロ・スカルラッティ 器楽付き室内カンタータ|大河内文恵

知られざる名曲を求めて Vol. 2 アレッサンドロ・スカルラッティ 器楽付き室内カンタータ
Le cantate da camera con vari strumenti di Alessandro Scarlatti
2022年9月14日  HAKUJU HALL
2022/9/14  HAKUJU HALL

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
写真提供:アントニオ・カルダーラ記念アンサンブル

<出演>        →foreign language
細岡ゆき(リコーダー、監修、企画制作)
阿部早希子(ソプラノ)
池田梨枝子(ヴァイオリン)
廣海史帆(ヴァイオリン)
中島由布良(ヴィオラ)
島根朋史(チェロ)
佐藤亜紀子(テオルボ、バロック・ギター)
矢野薫(チェンバロ)
中島恵美(リコーダー)
佐々木なおみ(音楽学、プログラム解説)

<曲目>

A.スカルラッティ:2本のリコーダー付きコンチェルト・グロッソ形式のシンフォニーア第1番
  リコーダーとヴァイオリン付きソプラノのための室内カンタータ「かの心地よき平安は」
  2本のリコーダーと2つのヴァイオリン、チェロのためのソナタ イ長調

~~休憩~~

A.スカルラッティ:リコーダー付きソプラノのための室内カンタータ「まこと、君ゆえ愛に身を焦し」
  オルガンのためのトッカータとバレット イ短調
  〈2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによるチェンバロを伴わない4声のソナタ〉より ソナタ第4番
  高名なるマッダローニ公爵に捧げる室内カンタータ「エウリッラ、あの花をごらん」

アンコール
A.スカルラッティ:すみれ

 

昨年6月におこなわれた「知られざる名曲を求めて」シリーズの第2弾である。前回とりあげたカルダーラに続き、今回はアレッサンドロ・スカルラッティ。鍵盤作品で知られるドメニコの父である。といっても、声楽やオペラに親しむ人にはナポリ派オペラの創始者としてお馴染みの作曲家ではある。

ではあるが、アレッサンドロの作品は「イタリア歌曲集」におさめられているアリアを除くと、現代ではほとんど演奏されておらず、ましてやカンタータや器楽曲の存在はほとんど忘れられていると言っていいだろう。奏者の布陣は前回を概ね踏襲しており、アンサンブルは万全である。さらに、今回の選曲では、リコーダーが他の楽器に埋もれないように、弦楽器とリコーダーの演奏部分をうまく分けて配置された曲が選ばれていることが、まず第1曲目のシンフォニア1番から聞き取れた。

次にカンタータを1曲。解説で佐々木が「寂寥感」と表現しているが、初期バロックに特有なルネサンスの名残りともいえる半音を駆使した悲しみや苦しみの表現が秀逸。また、べっとりと同じテクスチャーになりがちな器楽伴奏を歌詞の表現に応じて調整しているところがさすがである。

前半の最後は2本のリコーダーのためのソナタ。さすがにリコーダー奏者が選ぶだけあって、リコーダーが映えるのはもちろん、2楽章が始まった途端、イタバロ来たーー!と叫びたくなるような軽快なメロディーと、3楽章のかわいらしさに唸る。休憩前のつかみはこれでOK。

休憩後はリュートとチェロのみの伴奏でレチタティーボが始まる。続くアリアの前奏はリコーダーでおこなわれるが、おや?カルダーラの《たとえつれなくても》に旋律と和声進行が一瞬似てないか? これはもしかして細岡の遊び心か? まぁそれはいいとして、中間部には大胆な和声が聞こえたり、次のレチタティーボでは「毒」という言葉に強烈な和音が充てられるなど、ナポリ派の元祖と言われるスカルラッティも、後の技巧重視のアリアではなく、ルネサンスや初期バロックのように言葉と音楽との対応関係を重視していたことがわかる。この2つめのレチタティーボはリュート伴奏で歌われ、とくに後半の阿部の表現が見事だった。

後半は名曲が続く。ソナタ4番はヴァイオリン2,ヴィオラ、チェロと編成だけ見れば、古典派以降の弦楽四重奏と同じなのだが、音楽の作り方がまったく異なる。まず、フーガのテーマから曲は始まるというところからもわかるように、弦楽四重奏のような第1ヴァイオリンがメインで他がそれを支えるという構造にはなっておらず、4人は対等である。浮遊感が印象的な2楽章、フォリアの旋律に彩られた3楽章、イタリア的快活さをもつメヌエットの4楽章と、ドイツ圏のものとはまったく異なる四重奏が新鮮だった。

最後は録音もなく本邦初演ではないかと細岡が語った珍しいカンタータ。1つめのアリアにおける高い音域のチェロ、2つめのレチタティーボのリュートと阿部による究極の言葉の表現が見事だった。2つめのアリアではここぞというところのリコーダーの音色と「死ぬ」という言葉につけられた半音の表現に胸に迫るものがあった。

ナポリ派というと、ダ・カーポ・アリアが確立されて、レチタティーボとの対立構造が明確になっていくイメージがあるが、スカルラッティにおいては、レチタティーボとアリアとの果たす役割は後の時代とは異なっているように感じた。図式化された定型に落とし込むのではなく、楽譜や歌詞と向き合って、作品のもつ世界を1から立ち上げていくこのグループならではの問題提起と筆者は受け止めた。今後の展開に目が離せない。

(2022/10/15)

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Yuki HOSOOKA (recorder, supervisor, planner)
Sakiko ABE (soprano)
Rieko IKEDA(violin)
Shiho HIROMI(violin)
Yura NAKAJIMA(viola)
Tomofumi SHIMANE(violoncello)
Akiko SATO(Theorbo, baroque guitar)
Kaoru YANO(cembalo)
Emi NAKAJIMA(recorder)
Naomi SASAKI(program)

Alessandro Scarlatti: Sinfonia prima con due flauti da 12 sinfonie di concerto grosso
  “Quella pace gradita” cantata da camera per soprano con flauto, violin, e basso continuo
  Sonata in la Maggiore a due flauti, due violini e violoncello

— intermission—

A. Scarlatti: „Ardo, è ver, per te d‘amore“ cantata da camera per soprano con flauto e basso continuo
  Toccata & Baletto la minore
  Sonata quarta a quattro
  „Vedi, Eurilla, quel fior” cantata per camera per l’ecc. mo Duca di Maddaloni

— Encore—
A.Scarlatti: Le violette