エリーナ・ガランチャ リサイタル2022|藤堂清
エリーナ・ガランチャ リサイタル2022
Elīna Garanča Recital 2022
2022年6月29日すみだトリフォニーホール
2022/6/29 Sumida Triphony Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
[出演] →foreign language
エリーナ・ガランチャ (メゾ・ソプラノ)
マルコム・マルティノー (ピアノ)
[曲目]
【第一部】
ブラームス(1833-97)
「愛のまこと」 Op. 3-1
「秘めごと」 Op. 71-3
「僕らはそぞろ歩いた」 Op. 96-2
「ああ、帰り道がわかるなら」 Op. 63-8
「昔の恋」 Op. 72-1
「五月の夜」 Op. 43-2
「永遠の愛について」 Op. 43-1
ベルリオーズ(1803-69)
劇的物語《ファウストの劫罰》より 「燃える恋の思いに」
ドビュッシー(1862-1918)
「月の光」(ピアノ・ソロ)
サン・サーンス(1835-1921)
歌劇《サムソンとデリラ》より「あなたの声で心は開く」
グノー(1818-93)
歌劇《サバの女王》より「身分がなくても偉大な方」
——————-休憩Intermission——————-
【第二部】
チャイコフスキー(1840-1893)
歌劇《オルレアンの少女》より「さようなら、故郷の丘」
ラフマニノフ(1873-1943)
「信じないでほしい、恋人よ」 Op. 14-7
「夢」 Op. 8-5
「おお、悲しまないで」 Op. 14-8
「春のせせらぎ」 Op. 14-11
アルベニス(1860-1909)「タンゴ ニ長調」 (ピアノ・ソロ)
バルビエリ (1823-1894)
サルスエラ《ラバピエスの小理髪師》から「パロマの歌」
ルペルト・チャピ(1851-1909)
サルスエラ《エル・バルキレロ》より「とても深いとき」
サルスエラ《セベデオの娘たち》より「とらわれし人の歌(私が愛を捧げたあの人のことを思うたび)」
——————-アンコールEncore——————-
ビゼー《カルメン》より「ハバネラ」
プッチーニ《ジャンニ・スキッキ》より「私のお父さん」
ラフマニノフ「美しい人よ、私のために歌わないで」
マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》より「ママも知る通り」
チレア《アドリアーナ・ルクヴルール》より「自分は芸術の神に仕える卑しい僕です」
ラフマニノフ「ジ・アンサー」
ファリャ「ナナ」
エリーナ・ガランチャ、1976年ラトヴィア生まれ、メゾ・ソプラノ。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場、ロンドンのロイヤル・オペラ、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場などなど、近年出演したorする世界の主な歌劇場は限りがない。それだけではない、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルといったトップクラスのオーケストラ公演への出演やリサイタルでも欧米を飛び回っている。
そんな彼女がほぼ20年ぶりに来日し、日本では初めてとなるリサイタルを行った。歌手として絶頂期にあると思えるその充実に驚かされ、またおおいに堪能した。
まずプログラムである。休憩をはさんでの二部構成、4つの部分からなり、それぞれ、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語の曲が並ぶ。歌曲もオペラ・アリアもあるが、すべてが19世紀中期から後期の作品。ドイツ歌曲がシューベルトやシューマンではなくブラームス。ロシア歌曲がチャイコフスキーやムソルグスキーではなくラフマニノフという選択にも意表をつかれる。フランス語はオペラ・アリア、スペイン語はサルスエラからというのも思い切りのよさとみられる。このプログラムについては事前に情報がなく、オペラ・アリア中心のリサイタルではないかというイメージであったため、良い意味で裏切られた。
ブラームスの歌曲は、曲ごとに拍手を入れることなく7曲通して歌われた。すみだトリフォニーホールという広い空間にもかかわらず、声を張り上げず、弱声の響きを大切にした表現で聴かせた。例えば「永遠の愛について」、初めの低音域の抑えた表情から次第に盛り上げていき、最後の”私たちの愛は消えたりしない”というフレーズを自然に高い圧力の響きで歌う。ダイナミクスの幅も詩の流れへの対応は見事。
第一部後半はフランス・オペラのアリア3曲。ベルリオーズ、サン・サーンスのように全曲でも出演機会の多い曲の中のアリアの完成度の高さ。グノーの歌劇《サバの女王》より「身分がなくても偉大な方」のようにアリア単独で歌われる曲でも、低音域から高音域まで声の色合いを変えずに歌う、そのチェンジボイスの自然さ。
第二部の《オルレアンの少女》のアリアとラフマニノフの歌曲はロシア語の詩、彼女の世代の人にとっては母国語のようなものだろう、実に自然に響く。ラフマニノフの雄弁なピアノの前後奏に彩られ、技巧的なフレーズもまったく無理なく歌いあげていく。
最後のブロックはサルスエラからの3曲。チャピの「とても深いとき」でのたっぷりと伸ばす声の美しさ。弱声でも強声でも無理なく響くのが心地よい。
アンコールはさながら第3部。7曲が歌われた。プログラムになかったイタリア語の曲はこちらで披露された。
「ハバネラ」は彼女の持ち役カルメン、そして「ママも知る通り」は本人が「とてもとてもとても好きな役」というサントゥッツァであるから、アンコールで歌うだろうと予想がつくが、「私のお父さん」「自分は芸術の神に仕える卑しい僕です」といったソプラノのアリアを取り上げたのにはビックリ。しかもその2曲も彼女の声域との違いなどまったく感じさせないもの。
最後は「もうお休み」といってファリャの「ナナ」で打ち止め。
2003年に新国立劇場で《ホフマン物語》に出演したとき有望な若手歌手とは感じたが、今回のリサイタルでは、プログラム構成、声の多様さ、そして表現の幅広さ、そういったすべての点で最高ランクの歌手となったことを示してくれた。
マルコム・マルティノー のピアノが、実に見事に彼女の歌を支えていたことも忘れてはならない。歌手の喉休めのためと思われがちなピアノ・ソロの充実も。
(2022/7/15)
—————————————
[Players]
Elīna Garanča(Mezzo Soprano)
Malcolm Martineau(Piano)
[Program]
【First part】
Johannes Brahms(1833-97)
Liebestreu Op. 3-1
Geheimnis Op. 71-3
Wir wandelten Op. 96-2
O wüßt ich doch den Weg zurück Op. 63-8
Alte Liebe Op. 72-1
Die Mainacht Op. 43-2
Von ewiger Liebe Op. 43-1
Louis Hector Berlioz(1803-69)
“D’amour l’ardente flamme” La damnation de Faust
Claude Achille Debussy(1862-1918)
Clair de lune (Piano Solo)
Charles Camille Saint-Saens(1835-1921)
“Mon cœur s’ouvre à ta voix” Samson and Dalila
Charles François Gounod(1818-93)
“Me voici… Plus grand, dans son obscurité” La reine de Saba
——————-Intermission——————-
【Second part】
Pyotr Ilyich Tchaikovsky(1840-1893)
“Da, čas nastal … Prastite vy” The Maid of Orleans
Sergei Vasil’evich Rachmaninov(1873-1943)
Ne ver nine drug Op. 14-7
Son Op. 8-5
O, ne grusti Op. 14-8
Vesennie vody Op. 14-11
Isaac Albéniz (1860-1909) Tango in D (Piano Solo)
Francisco Asenjo Barbier (1823-1894)
“Canción de Paloma” El barberillo de Lavapiés
Ruperto Chapi (1851-1909)
“Cuando esta tan hondo” El barquillero
“Carceleras” Las hijas de Zebedeo
——————-Encore——————-
BIZET “Habanera” from Carmen
PUCCINI “O mio babbino caro” from Gianni Schicchi
RACHMANINOV Oh, never sing to me again! Op. 4-4
MASCAGNI “Voi lo sapete, o mamma” from Cavalleria Rusticana
Francesco Cilea “Io son l’umile ancella del Genio creator” from Adriana Lecouvreur
RACHMANINOV The Answer Op. 21-4
FALLA “Nana” from Siete canciones populares españolas