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森谷真理&大西宇宙 Viva Verdi! II 中期|藤堂清

森谷真理(ソプラノ)&大西宇宙(バリトン)Viva Verdi! II 中期
Mari Moriya(Sop) & Takaoki Onishi(Bar) Viva Verdi! II

2022年5月27日 トッパンホール
2022/5/27 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大窪道治/写真提供:トッパンホール

<出演者>        →foreign language
森谷真理(ソプラノ)
大西宇宙(バリトン)
河原忠之(ピアノ)

<プログラム> ヴェルディ:
《シチリア島の夕べの祈り》より[森谷]
  〈アリーゴよ! ああ、心に語れ〉
  〈ありがとう、愛する友よ〉
《仮面舞踏会》より[大西]
  〈希望と喜びに満ちて〉
  〈立て! ~お前こそわが魂を汚す者〉
《シモン・ボッカネグラ》より
  〈貧しい一人の女に~娘よ、その名を呼ぶだけで〉[森谷&大西]
——————–(休憩)———————-
《椿姫》より〈神様は私に、天使のような娘を〉[森谷&大西]
《トロヴァトーレ》より
  〈君の微笑みの妙なる輝きは〉[大西]
  〈聞いたかな、朝ともなれば〉[森谷&大西]
《リゴレット》より〈いつも日曜に教会で〉[森谷&大西]
—————–(アンコール)——————-
《マクベス》より〈早くきて、あかりをつけておくれ~今こそ立て、皆のもの〉[森谷]
《椿姫》より
  〈プロヴァンスの海と陸〉[大西]
  〈花から花へ〉[森谷]

 

森谷真理と河原忠之による“ヴェルディ・プロジェクト”第1弾はランチタイム コンサート Vol.98(2018/12/7)として行われていた。ヴェルディの初期の演目、《エルナーニ》、《アッティラ》、《マクベス》、《海賊》からのアリアによるプログラム。コロラトゥーラからドラマチックまで多様な技術を聴かせた。コロナ禍もあり第2弾とはずいぶん間があいてしまったが、それがかえって幸いし、今回のプログラムは独唱だけでなく多くの二重唱を含む形。この3年半の彼女の成長もあるし、大西という相手を得ることもでき、二人でヴェルディ中期の充実した音楽を聴かせてくれた。

《シチリア島の夕べの祈り》からの〈アリーゴよ! ああ、心に語れ〉、森谷の言葉が不明瞭に感じられた。〈ありがとう、愛する友よ〉での細かな音の動きに苦労していたのもめずらしいこと。
一方の大西は、《仮面舞踏会》からのアリア2曲、全開のスタート。〈希望と喜びに満ちて〉では、伸びやかな旋律が無理なく歌われた。続く〈立て! ~お前こそわが魂を汚す者〉で、自分を裏切った上司リッカルドへの強い怒りと妻アメーリアへの愛の思い出を対比させ、ドラマチックな歌を聴かせた。トッパンホールのサイズに対して、少し大きすぎる声と感じられる場面もあったが、贅沢な話というべきだろう。
前半最後は《シモン・ボッカネグラ》の二重唱。総督であるシモン・ボッカネグラが、幼いころに行方不明になっていた娘マリアと再会を果たす場面。総督シモンとは対立するグループの一員である彼女が、自らの出自を語り始めると、それを補い解きほぐしていくシモン、そして真実を知った二人の喜びの爆発。最後に戻っていくマリア(アメーリア)を送って、「娘よ!」と最弱声から伸ばしていく。このオペラのもっとも感動的な場面を、森谷、大西の二人の歌で存分に味わう。

後半は二重唱が中心となる。
《椿姫》の第2幕第1場の〈神様は私に、天使のような娘を〉ではジョルジョ・ジェルモンの登場の場面から二人とも演技をしながら歌う。セリフに合わせてしかめっ面をしたり、驚いた表情をみせたりと細かい。対話に入る前の「女性に対してそのようなことを、それにここは私の家です。」というヴィオレッタの言葉に対し、「(何たる言動!) しかし」と受けるジェルモン。財産譲渡の書類を見せられ、作戦変更、「一つ犠牲をお願いしたい。」と下手に出て、譲歩を引き出していく。歌でもていねいに表情を作っていく。
《トロヴァトーレ》からは、第1幕第3場のルーナ伯爵のアリアと第4幕第2場のレオノーラとルーナの二重唱。特に後者における、ルーナの’Colui vivrà’に続くレオノーラの喜びの表現、リズム感が見事で、こまかな動きも技術的にも安定、ルーナの歌もはやめのテンポに対応していた。二人を中心とするキャストで、このオペラを聴きたいと思う。
ジルダには、今の森谷の声は重すぎないかと心配したが、マントヴァ公爵に裏切られたことを訴える、この部分ではまったく問題はなく、大西のリゴレットも復讐を歌い上げ、迫力があった。

「Viva Verdi! II 中期」として行われたこの日のプログラム、森谷一人がアリアを歌うのではなく、二重唱を中心におくことでオペラの一つの場面全体を聴かせることができ、それが演奏にも会場にも熱気をもたらす。
河原のピアノは短い前奏でオペラの舞台を作りだす優れたもの。森谷、大西の歌をしっかりと支えた。

次回はヴェルディ後期ということになるだろう。(《運命の力》)《トン・カルロ(ス)》《アイーダ》《オテロ》《ファルスタッフ》からと想定されるが、大西だけでなくよいテノールを入れての二重唱・三重唱を交えたプログラムを期待したい。

アンコールでの、森谷の《マクベス》がひときわ優れた演奏であったこと、〈花から花へ〉での舞台裏からのアルフレードの声をバリトンの大西が担ったことは付記しておこう。

(2022/6/15)

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<Performer>
Mari Moriya(Sop)*
Takaoki Onishi(Bar)+
Tadayuki Kawahara(Pf)

<Program>
Verdi: “I vespri siciliani”,
 ‘Arrigo! Ah, parli a un core’ / ‘Mercé, dilette amiche’*
Verdi: “Un ballo in maschera”,
 ‘Alla vita che t’arride’ / ‘Alzati! ~ Eri tu che macchiavi quell’anima’+
Verdi: “Simon Boccanegra”,
 ‘Orfanella il tetto umile ~ Figlia! A tal nome palpito’*+
————–(Intermission)—————
Verdi: “La traviata”,
 ‘Pura siccome un angelo ~ Ah! Dite alla giovine’*+
Verdi: “Il trovatore”,
 ‘Il balen del suo sorriso’+
 ‘Udiste? Come albeggi ~ Vivrà! Contende il giubilo’*+
Verdi: “Rigoletto”,
 ‘Tutte le feste al tempio ~ Piangi, fanciulla ~ Sì, vendetta’*+
—————–(Encore)——————
Verdi: “Macbeth”,
 ‘Vieni t’affretta! Accendere ~ Or tutti sorgete, – ministri infernali,’*
Verdi: “La traviata”,
 ‘Di Provenza il mar, il suol – chi dal cor ti cancello?’+
 ‘Sempre libera degg’io’*