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古楽アンサンブル エクス・ノーヴォ vol. 15 《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオ|大河内文恵

古楽アンサンブル エクス・ノーヴォ vol. 15
   ~アンサンブル・プリンチピ・ヴェネツィアーニを交えて~

《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオ
Gli intermedi da LA PELLEGRINA per le nozze di Ferdinando de’Medici e di Cristina di Lorena(1589)
2022年5月21日 ミレニアムホール
2022/5/21 Millennium Hall     

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)                        
写真提供:アンサンブル エクス・ノーヴォ

<出演>                 →foreign language
ソプラノ:阿部早希子、大森彩加、進元一美、森川郁子
アルト:木下泰子、新田壮人
テノール:前田ヒロミツ、宮本英一郎、山中志月
バリトン:五島真澄
バス:阿部大輔、目黒知史

ヴァイオリン:大内山薫
ヴァイオリン/リラ・ダ・ブラッチョ:天野寿彦
ヴィオラ・ダ・ガンバ:頼田麗
ヴィオラ・ダ・ガンバ/リローネ:武澤秀平
コルネット:上野訓子
トロンボーン:小野和将、南紘平、飯田智彦

テオルボ/コルネット/バロックギター:笠原雅仁
アーチリュート/バロックギター:佐藤亜紀子
オルガン/ハープ:矢野薫

指揮:福島康晴

<曲目>
《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオ
第1インテルメディオ〈天球の調和〉
1. はるか彼方の高き天球より       ソプラノ:進元一美
2. 私たちは歌いながら
3. 6声のシンフォニーア
4. 優しきシレーナたち       カウンターテナー:新田壮人
5. あなたがた高貴な恋人たちに
6. 幸運なる愛に満ちた高雅な二人

第4インテルメディオ〈精霊たちの王国―地獄〉
1. 私は月を天から落とすことさえできるのです    ソプラノ:阿部早希子
2. 6声のシンフォニーア
3. 今、2つの偉大な魂が
4. 闇に包まれた地獄の哀れな住人たちよ

~~休憩~~

第5インテルメディオ〈アンフィトリーテとアリオーネの船〉
1. 思うがままに波を操るこの私は         ソプラノ:阿部早希子
2. そして私たちは美しい女神と共に
3. 6声のシンフォニーア
4. さあ、濁った波間に              テノール:山中志月
5. 心躍らせ海の水面を切って進みながら

第6インテルメディオ〈神々は人間に「アルモニーア」と「リズム」を遣わす〉
1. 優雅に澄み渡った空では
2. おお、なんと、なんと輝かしいことか
3. 喜びなさい、幸福な、愉快な人間たちよ     ソプラノ:阿部早希子
4. おお、なんと幸運な日であることか
5. おお、何たる新たな奇跡よ

アンコール
第4インテルメディオより  3.今、2つの偉大な魂が
第6インテルメディオより  5.おお、何たる新たな奇跡よ

 

優れた企画の実現には、膨大な知識と経験、センスそしてそれを実現するための実行力およびほんの少しの勇気が必要である。そして、その企画を成功させるためには、有無を言わせぬ実力が不可欠となる。

2014年より年2回の定期公演を開催してきたエクス・ノーヴォは、当初から日本ではどこの団体も取り上げていないレパートリーに積極的に取り組んできた。公演に先駆けておこなわれた公開インタビュー(@スペース)で福島が語ったように、開始当初は集客に非常に苦労したようだ。

オペラ発生期の歴史を齧った者以外にはあまり知られていない《ラ・ペッレグリーナ》のインテルメディオは、結果的にオペラの前身となった一形態で、1589年メディチ家当主のフェルディナンド1世とフランス王アンリ2世の孫娘クリスティーヌ・ド・ロレーヌの結婚の祝宴に際しておこなわれたものである。《ラ・ペッレグリーナ》という喜劇の前後および幕間に上演されたこの音楽は、今回は時間の関係上、6つあるインテルメディオのうち、第1、第4~第6インテルメディオが演奏された。

オペラのような舞台装置はなく、オラトリオで見るような形で本日は上演された。各インテルメディオ間を統一するストーリーを登場人物が演じることはないが、大きな枠組みは共有され、神々があらわれることで祝賀的な雰囲気を盛り上げる。そういった意味では、古い時代のフランスのオペラと共通する特徴を持つと言えるかもしれない。

リハーサルにて

舞台上には、器楽アンサンブルが並び、その後ろに合唱が緩い弧を描いて1列に並ぶ。独唱の部分は担当者がその時だけアンサンブルの前に出て歌う。舞台向かって右側にはスクリーンが張られ、字幕のみならず、各場面の前にはその説明文とそれを表す絵画が映じられ、祝祭的演出がなされた。演劇的ストーリー展開などはあまりないものの、字幕があることで安心して聴くことができ、場面の映像の提示が聴き手の理解を助けていたように思う。

各パート2人~4人の合唱はソロでも活躍する歌手が集まっているため、この人数とは思えないほどの声に厚みがあった。後述するように楽器もさまざま取り揃えられている上に名手揃いで、聞きながら「この感覚なにかに似ている」と思いついたのが、オリンピックの開会式だった。スピーチや儀式の合間に音楽やパフォーマンスがなされる様はまさにインテルメディオではないか! 祝賀的ムードとワクワク感の増強装置として機能している面も似ている。

そう考えると、400年以上前の祝賀音楽が俄然身近に感じられる。オペラの感覚からすると、1人の作曲家が書いたものでなく、何人もの作曲家の共作という形態が純粋でないように感じられるが、オリンピックの開会式ならそれも完全にアリだ。

演奏のレベルが高くないと、スペクタクルすべてが台無しになるというのも同じ。第5インテルメディオの第4曲のテノール・ソロの曲にはエコーがついており、舞台奥の右と左に一人ずつ立ってエコー部分が歌われた。細かい装飾も寸分の違いもなく、しかも音量を落として歌われ、本当にエコーがかかっているかのように聞こえたのは見事。ここの部分の伴奏は、ハープ・リュート・テオルボと撥弦楽器のみ(後半にはリローネが入る)でおこなわれ、一層悲しみが強調される。続く船乗りの歌では、ルネサンス・ギターの軽快な響きによって、海の雰囲気の盛り上げと愉快さに拍車がかかり、胸躍る。

リラ・ダ・ブラッチョ

第6インテルメディオの第3曲は、器楽のみの曲の時と同じく指揮なしでおこなわれ、リュートの調べに乗って、阿部の声が高らかに喜びを歌い上げる。マドリガーレのような節回しとリズム感が楽しめた第4曲を経て、最後の「大公のバッロ」では、ルネサンス・ギターとバロック・ギターが活躍するだけでなく、指揮の福島自らギターを取り出して弾き振りし、見事な大団円を迎えた。興奮冷めやらぬ中、2曲のアンコールがおこなわれ、「いや~いい結婚式だったね」という気持ちでみな帰途についたことだろう。

この公演では、休憩あけに福島から「やる予定ではなかったのだが」と前置き付きで、楽器説明がおこなわれた。リラ・ダ・ブラッチョやリローネといった普段あまり聴くことのない楽器の紹介とこの2つが1つの演奏会で同時に用いられることがほぼ初めてであることや、バロック・ハープがモダンのハープとどう違うのか、アーチ・リュートとテオルボの音域、ルネサンス・ギターとバロック・ギターの違い、コルネット、そして、通常はサックバットと表記されることの多い、古い時代のトロンボーンについて(ここでは、プログラムの表記に従って、トロンボーンを採用した)等々。

リローネ

これらの珍しい楽器を各々の奏者が持ち替えで演奏するため、曲ごとに表情が変わって飽きる暇がない。実際、このインテルメディオは音源がいくつも出ているが、最初から最後まで飽きずに聴けたことが筆者はほとんどない。どこにどの楽器を使うのか、それをどのように奏するのか(ディミニューションの入れ方)など、細かい工夫が隅々まで凝らされているからこそ、おそらくこの曲の存在すら知らなかった人でも楽しめたであろうと思われる。

こうした配慮はプログラムにも見られ、音楽学者の萩原里香による時代背景や当時の上演形態にまで触れた詳しい曲目解説と、建築史家の渡辺真弓による当時の文化政策から説き起こし、宮廷建築・舞台装置から見たインテルメディオの位置付けと後世への影響まで言及される至れり尽くせりの解説が聴き手の想像力への助けになったことは言うまでもない。

今回の公演は、パリで結成され2008年から京都に拠点を移したアンサンブル・プリンチピ・ヴェネツィアーニとの共同開催という形を取り、東京と神戸とで計2回の公演がおこなわれた。筆者は神戸の公演を聴くことはできなかったが、関西の聴衆にも大きな刺激になったことだろう。

                                        (2022/6/15)

5月28日神戸の公演にて

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Early music ensemble EX NOVO:
Conductor: Yasuharu FUKUSHIMA

Soprano: Sakiko ABE, Ayaka OMORI, Yuko MORIKAWA
Mezzo soprano: Yasuko KINOSHITA
Countertenor: Masato NITTA
Tenor: Hiromitsu MAEDA, Eiichiro MIYAMOTO, Shizuki YAMANAKA
Bariton: Masumi GOTO
Bass: Daisuke ABE, Tomofumi MEGURO

Violin/Lira da braccio: Toshihiko AMANO
Viola da Gamba/Lirone: Shuhei TAKEZAWA
Trombone: Kazumasa ONO, Kohei MINAMI, Tomohiko IIDA
Organ/ Harp: Kaoru YANO
Archlute/ Baroque guitar: Akiko SATO

Ensemble Principi Venetiani:
Theorbo/ Cornetto/ Baroque guitar/ Masahito KASAHARA
Cornetto: Kuniko UENO
Violin: Kaoru OUCHIYAMA
Viola da gamba: Rei YORITA
Soprano: Kazumi SHINGEN
Bariton: Masumi GOTO

Gli intermedi da LA PELLEGRINA per le nozze di Ferdinando de’Medici e di Cristina di Lorena
Intermedio primo: L‘Armonia delle sfere
Intermedio quarto: La regione dei Demoni – Inferno

–intermission—

Intermedio quinto: Anfitrite e la navedi Arione
Intermedio sesto: Gli Dei inviano ai mortali l’Armonia e il Ritmo

–Encore—
Intermedio quarto  3. Or che le due grand’alme
Intermedio sesto   5. O che nuovo miracolo