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B→C[242]森野美咲ソプラノリサイタル|藤堂清

B→C(ビートゥーシー):バッハからコンテンポラリーヘ[242]森野美咲ソプラノリサイタル
B to C: From Bach to Contemporary Music [242] Misaki Morino Soprano Recital

2022年5月17日 東京オペラシティ リサイタルホール
2022/5/17 Tokyo Opera City, Recital Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
撮影:池上直哉/提供:東京オペラシティ文化財団

[出演]        →foreign language
森野美咲(ソプラノ)
木口雄人(ピアノ)

[曲目]
クラム:《アパリション》から〈ヴォカリーズⅡ─ 召喚〉(1979)
リーム:《赤きもの》(1990)から〈真紅〉
シュテルツェル/J.S.バッハ:御身がともにあるならば BWV508
クラム:《アパリション》から〈おいで、愛しく心安らぐ死よ〉(1979)
J.S.バッハ:カンタータ第115番《備えよ、わが心よ》BWV115から〈祈りなさい、そのような時も〉
ヘイグ:《マクトゥブ》から〈リセット〉(2018~19)
——————(休憩)——————
J.S.バッハ:カンタータ第51番《もろびとよ、歓呼して神を迎えよ》BWV51から〈もろびとよ、歓呼して神を迎えよ〉
森田花央里:はじまり(2022、森野美咲委嘱作品、世界初演)
ロイター:《3つの歌曲》op.61から〈あなたの歌が響くとき〉(1945)
ウルマン:《5つの愛のうた》op.26から〈嵐の歌〉
J.マルクス:あなたに愛がふれたなら
—————(アンコール)—————
アイルランド民謡(木口雄人 編曲):庭の千草
アイヴズ:メモリーズ
木口雄人 編:ディーバ達へのオマージュ

 

ジョージ・クラムの《アパリション》から〈ヴォカリーズⅡ─ 召喚〉で始められたリサイタル、そのピュアな声の響きにまず惹きつけられた。
素材としての声がよい。ヴィブラートが少なく、音程が安定している。強い声で歌ってもそれが崩れることがない。一方で弱声もよくコントロールされ、響きがやせずしっかり聴き手を包み込む。この1曲目は歌詞はないのだが、ピアノの内部奏法のとがった音に負けることなく、多様な表情を見せる。

森野美咲は2018年の日本音楽コンクール声楽部門(歌曲)の優勝者。彼女と木口雄人は2020年のヨハネス・ブラームス国際コンクールの声楽部門で優勝。ウィーンを本拠にヨーロッパで活動している。このコンサートの2日後にはルツェルンでオペラの本番とのこと。

この日のプログラム、本人が述べていたように「B→C(ビートゥーシー):バッハからコンテンポラリーヘ」というより「B&C:バッハとコンテンポラリー」という趣。バッハ(シュテルツェル)以外は20世紀中期以降の作品が並んだ。
クラムの《アパリション》やリームの《赤きもの》といった「現代歌曲」に対する適性を感じているのだろう。多様な声の使い方とピアノの内部奏法も用いた響きの融合は、こういった曲の再現者としての今後に期待をいだかせるものであった。

前半の最後のヘイグの〈リセット〉は2018年に初演された曲。「プログラムの主題は『リセット』」という彼女の言葉にピッタリの選曲なのだろう。
歌詞の最後の部分、

インストール・・・
リセット。
新しい人へ

というのは、ゲーム世代の感覚のようで、違和感を覚えるところではある。

後半の中心は森田花央里作曲の《はじまり》、森野美咲がこの日のために委嘱した作品、世界初演である。歌詞も森野自身によるもの。むずかしい音楽書法を用いているわけではないが、プログラム冊子に書かれた作曲者森田の「彼女の、ほんとうに歌いたい言葉たちが、羽ばたくことを願っています。」という言葉どおり、森野の歌は羽ばたいていた。

アンコールでは、それまでの雰囲気をガラッと変えた。まず、アイルランド民謡の<庭の千草>。ついで「ここはオペラシティなので」という前振りをして、アイヴズの<メモリーズ>の歌詞の一部を「オペラシティ」とかえて歌い、「カーテンがあがった」ところからオペラ・アリアのメドレー、《ラ・トラヴィアタ》《キャンディード》など、ピアノによる曲の移行にしたがい次々と。会場、爆笑のうちに終演。
まだ30代前半の彼女の可能性を強く印象づけられたリサイタルであった。

(2022/6/15)

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[Artist]
Misaki Morino (Sop)
Yuto Kiguchi (Pf)

[Program]
Crumb: “Vocalise II: Invocation”, from Apparition (1979)
Rihm: “Hochrot”, from Das Rot (1990)
G.H.Stölzel/J.S.Bach: Bist du bei mir, BWV508
Crumb: “Come Lovely and Soothing Death”, from Apparition (1979)
J.S.Bach: “Bete aber auch dabei”, from Cantata No.115, Mache dich, mein Geist, bereit, BWV115
A.Haig: “Reset”, from Maktub (2018-19)
—————–(Intermission)——————
J.S.Bach: “Jauchzet Gott in allen Landen”,from Cantata No.51, Jauchzet Gott in allen Landen, BWV51
K.Morita: A New Beginning (2022, commissioned by M.Morino, world premiere)
H.Reutter: “Als mir dein Lied erklang”, from 3 Lieder, op.61 (1945)
V.Ullmann: “Sturmlied”, from 5 Liebeslieder von Ricarda Huch, op.26
J.Marx: Hat dich die Liebe berührt
——————–(Encore)———————
Irish folk song (arranged by Yuto Kiguchi): Last rose of summer
Ives: Memories
Hommage aux divas(arranged by Yuto Kiguchi)