東京春祭 歌曲シリーズ vol.28 マルクス・アイヒェ&クリストフ・ベルナー|藤堂清
東京春祭 歌曲シリーズ vol.28
マルクス・アイヒェ(バリトン)&クリストフ・ベルナー(ピアノ)
Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.28
Markus Eiche(Baritone)& Christoph Berner(Piano)
2022年4月11日 東京文化会館 小ホール
2022/4/11 Tokyo Bunka Kaikan Recital Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:東京・春・音楽祭
<出演> →foreign language
バリトン:マルクス・アイヒェ
ピアノ:クリストフ・ベルナー
朗読:奥田瑛二
<曲目>
ブラームス:ティークの「マゲローネ」によるロマンス op.33
—————–アンコール—————
ベートーヴェン:くちづけ op.128
シューベルト:
ミューズの子 D764b
楽に寄す
ルートヴィヒ・ティークが18篇の歌とその間の経緯を語る「美しきマゲローネ」を発表したのは18世紀末のこと。ブラームスはそのうち15篇の詩に付曲し連作歌曲集とした。1861年から1869年の作曲である。通常のコンサートで取り上げられるときはブラームスの歌のみが多いが、ティークの言葉を朗読し、物語の詳細を伝えることもある。原文に近い場合もあれば、かなりカットした形で行われるケースもある。今回は、ブラームスが作曲しなかった節、第1、16,17節では大部分が省略されたが、その他では比較的ティークの原文に忠実で、省略は少なかったようである。
語りを入れる場合、コンサートは朗読と歌唱で進む。語りは俳優が担当することがほとんどであり、今回の公演でも奥田瑛二が朗読を担当した。日本の聴衆を相手にする以上、朗読が日本語というのは妥当な選択だっただろう。したがって日本語の朗読、ドイツ語の歌唱が繰り返されることになる。朗読が終わるのを待って音楽が始まるのだが、何曲か受け渡しがうまくいかず重なってしまうこともあった。
朗読で違和感を感じたのは、擬声語(カアカアといった)を交えたところと登場人物ごとに声色を変えた点。前者はもちろん原文にはないので、訳を作った人が入れたか、奥田の判断ということだろうが、後者もふくめ朗読部分にはあまり芝居気を加えないほうがよかったのではと思う。
歌唱に目を向けよう。
マルクス・アイヒェは52歳、歌手として成熟した時期といえるだろう。5年前の東京・春・音楽祭でもクリストフ・ベルナーのピアノでリサイタルを行っている。声の力は充分。ドイツ生まれで言葉の点も問題はない。どちらかといえばオペラ歌いという印象で、細かな表情を作っていくというのではなく、大きな流れで聴かせるタイプ。この日は9曲目までを前半、10曲から15曲を後半として演奏された。前半は主人公ペーター伯の内面を歌う曲が多く、後半はマゲローネやズリマの歌が入ることもあるし、1曲1曲が大きく異なる場面で歌われる。アイヒェの歌は前半は少しオーバーアクションで単調と感じられたが、後半では曲ごとに濃い表情付けができることもあり、彼の歌い方が活きることになった。
コンサート全体ではかなり長時間となったが、アイヒェ自身はまだまだ歌えるとアンコールを3曲。なかでは、ベートーヴェンが彼の演技派的な表情付けにあっていた。
(2022/5/15)
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<Cast>
Baritone:Markus Eiche
Piano:Christoph Berner
Reading:Eiji Okuda
<Program>
Brahms:Romanzen aus L. Tieck’s Magelone op.33
—————-Encore—————
Beethoven:Der Kuss op.128
Schubert:
Der Musensohn D.764b
An die Musik