東京春祭 歌曲シリーズ vol.32 エギルス・シリンス&マールティンシュ・ジルベルツ|藤堂清
東京春祭 歌曲シリーズ vol.32
エギルス・シリンス(バス・バリトン)&マールティンシュ・ジルベルツ(ピアノ)
Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.32
Egils Silins(Bass-Baritone)& Mārtiņš Zilberts(Piano)
2022年4月1日 東京文化会館 小ホール
2022/4/1 Tokyo Bunka Kaikan Recital Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:東京・春・音楽祭
<出演> →foreign language
バス・バリトン:エギルス・シリンス
ピアノ:マールティンシュ・ジルベルツ
<曲目>
チャイコフスキー:
祝福あれ、森よ op.47-5
再び、前のように、ただひとり op.73-6
騒がしい舞踏会のなかで op.38-3
ドン・ファンのセレナード op.38-1
ラフマニノフ:
昨日私たちは会った op.26-13
夢 op.8-5
いや、お願いだ、行かないで op.4-1
ムソルグスキー:《死の歌と踊り》
第1曲 子守歌
第2曲 セレナード
第3曲 トレパーク
第4曲 司令官
—————-(休憩)—————–
エミールス・ダールジンシュ:
その時を、その瞬間を教えて
わたしの幸せ
スペインのロマンス
ヤーゼプス・ヴィートルス:
あの静かな夜を今でも思い出す
蘭の夢
聞いて、きれいな目をした少女よ
アルフレーツ・カルニンシュ:思うに……
シューベルト:
さすらい人の月に寄せる歌 D870
死と乙女 D531
春の小川のほとりで D361
魔王 D328
R. シュトラウス:
献呈 op.10-1
ああ悲しい、不幸なる者よ op.21-4
私はおまえを愛する op.37-2
————–(アンコール)————–
ヤーニス・メディンシュ:愛撫
シューベルト:万霊節のための連禱 D343
2日前、大ホールの《ローエングリン》で細かな声の表情を聴かせたエギルス・シリンスのリサイタル。歌曲でも同じように緻密な言葉さばきと多様な声の色合いで聴衆を魅了した。
プログラム前半はロシア歌曲、チャイコフスキー、ラフマニノフ、ムソルグスキーと歌い継ぐ。どの曲でもむやみに声を張り上げることなく、その響きは聴いているものの身体に入り込み、またやわらかに包み込む。
<祝福あれ、森よ>では、自然の諸々を祝福し一体となりたいと歌う巡礼者、<騒がしい舞踏会のなかで>のひとめぼれした相手の女性の描き方、<ドン・ファンのセレナード>のここまでの曲とは対照的な自信たっぷりの訴え。
ラフマニノフの歌曲のピアノ・パート、<昨日私たちは会った>の後奏の雄弁さ。
ムソルグスキーの《死の歌と踊り》、4つの死の言葉、幼い子、若い乙女、酔っ払いの農夫、戦場に斃れた兵士、それぞれを死に導く場面を描く。<司令官>の、両軍の兵士たちを指揮するのは「死」であるという歌が強烈なインパクト。
プログラム後半はシリンスの母国ラトビアの作曲家たち、シューベルト、R.シュトラウスと続く。
最初のブロックのエミールス・ダールジンシュ、ヤーゼプス・ヴィートルス、アルフレーツ・カルニンシュといった作曲家の作品は聴く機会の少ないものだろう。1900年代の初めという作曲年代、教育を受けた場所などが関係するのだろうか、ロシア歌曲との近さを感じる。ピアノの書法は前半の作曲家に較べると単調に聞こえる。シリンスにとっては母国語という強みがあるのだろう。力みのない響きが会場全体に拡がる。
シューベルトの4曲、シリンスのきれいなドイツ語。<死と乙女>と<魔王>は、前半のムソルグスキーの第2曲 <セレナード>と第1曲 <子守歌>での死の歌と響き合う。こういったプログラミングは見事。
R. シュトラウスの <ああ悲しい、不幸なる者よ>、空想と実際の歌い分けが楽しい。
アンコールの1曲目、ヤーニス・メディンシュの《愛撫》はラトビア語の歌曲。メディンシュは第二次世界大戦後にスウェーデンに亡命し、ストックホルムで亡くなっている。バルト三国の一つであるこの国もロシアなどの大国の支配を受け続けてきた。ウクライナの状況は他人事と思えないであろう。
プログラミングも演奏(ピアノも)も素晴らしかったのだが、ただ一つ残念だったのは聴衆が少なかったこと。しかし拍手は聴衆の人数からは想定できないほど大きかったし、大部分の人がスタンディング・オべーションで讃えた。
(2022/5/15)
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<Cast>
Bass-Baritone:Egils Silins
Piano:Mārtiņš Zilberts
<Program>
Tchaikovsky:
I bless you, Forests op.47-5
Again, as before, alone op.73-6
Amid the din of the ball op.38-3
Don Juan’s Serenade op.38-1
Rachmaninoff:
Yesterday we met op.26-13
A dream op.8-5
Oh, stay, my love, forsake me not! op.4-1
Mussorgsky:”Song and Dances of Death”
I. Lullaby
II. Serenade
III. Trepak
IV. The Field Marshal
————–(Intermission)————-
Emīls Dārziņš:
Tell me the hour, the moment
My Happiness
Spanish romance
Jāzeps Vītols:
I still recall that quiet night
Listen, bright-eyed maiden
The orchid’s dream
Alfrēds Kalniņš:I wonder…
Schubert:
Der Wanderer an den Mond D870
Der Tod und das Mädchen D531
Am Bach in Frühling D361
Erlkönig D328
R.Strauss:
Zueignung op.10-1
Ach, weh mir unglückhaftem Mann op.21-4
Ich liebe dich op.37-2
—————–(Encore)—————-
Jānis Mediņš:Glāsts
Schubert:Am Tage aller Seelen D.343 “Litanei auf das Fest aller Seelen”