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Back Stage |コジマ録音 |小島幸雄

コジマ録音
ALM RECORDS/ Kojima Recordings, Inc.

Text by 小島幸雄(Yukio Kojima)

改めて自分が過ごしてきた日々を振り返ると、なんだか「好きな事」というパーツを寄せ集めただけのもののようにも思えます。

子供の頃から我が家には「電気蓄音機」があり、自分にとって恰好の遊び道具でした。中学の時に夏休みの宿題で、小学生の時に分解して壊した電気蓄音機2台分の部品を集めてレコードプレーヤーを作ったり、今思えばオンドマルトノのスピーカーのようなスピーカーボックスを自作したりしていました。音の出るものへの興味は、その頃からかなりあったようです。
大学は国立音楽大学のクラリネット科に進みましたが、大学1年の終わり頃、学内の音響技術室のようなところに入り、学内の演奏の録音をしたり、電気的な勉強についてもアンプ作りなどを学んだりしました。後に、その室長らと共に録音会社を始めるわけですが、その3年後に独立して今のコジマ録音を作りました。
それから、好きなジャンルの録音(ライヴ録音、レコーディング)をすることになります。機材は自作のミキサーとオープンテープ録音機、そして少ないマイクロフォンだけでした。
一方、大学時代から一柳慧さんのお手伝いで、生活小物の中に電子回路を埋め込んで音が出るようにしたり、シンセサイザーなど当時は大掛かりな装置でしたが、その回路の部分をいろいろにアレンジし、手製のシンセもどきで即興演奏をしていたこともあります。好んで実験音楽的な場に出入りしていたことが、レコード制作のジャンルにも影響したのかもしれません。

最初は、杉並区下井草の鉄工所の2階を事務所として借りました。さすがに手狭になり、1年後に高円寺のしもたやに越しました。私が録音を始めた70年代は、今思うと、とてもワクワクした時代でした。現代音楽の形態もかなり前衛的になり、音楽会も他のジャンルと共同して型破りなものも多く、聴衆をも巻き込んで、なんとも言われぬ高揚感のある時代でした。音楽、演劇などいろいろ若い世代がエネルギッシュに活動し始めた頃で、音と動きを垣根なく楽しむ場が、たくさんありました。それが面白くて、録音し、レコードを作ろうと一人で始めた会社でした。当時は音楽どうしの垣根も低く、いろいろなジャンルがかなりオーバーラップしているように感じていました。そのため自分でも演奏したり、インスタレーションに参加したり、関西フォークの流れの人達の録音もスタジオからライブハウスでの収録まで、またインド音楽、タンゴバンド、ロックもプログレからヘビメタ、さらにアングラ演劇の劇中歌などのお手伝いもしていました。これらのことが違和感もなく、同じ土俵の中で自由に行われている時代でもあったようです。
自分の好きなジャンル(現代音楽、ジャズ、バロック音楽など)から始めましたので、近藤譲氏の「線の音楽」が第一作目になりました。これはとても幸せなことです。その後、淡野弓子さんのシュッツ合唱団のヨハネ受難曲、高木元輝、土取利行のオリジネイションなど、ジャンルに拘らず突き進んでいました。また、録音だけでなく現代音楽を中心としたコンサートも企画・開催し、演奏家、作曲家の活動を後押ししていました。そのことによって自分にもエネルギーを頂いたものです。長与寿恵子、佐藤聰明、高橋悠治、阿部薫、豊住芳三郎、吉沢元治、松平頼暁、武久源造、小杉武久、鈴木昭男。楽しい時代を共にした人達です。
全く一人で始めた会社ですが、5人くらいの人数で会社を回していけるようになれば良いと漠然と考えていました。デザイン関係を任せられる人と組むようになり、事務的なことをしてもらう助手を雇い、営業の出来る人を雇い、録音の助手も雇い、当初考えたようにはなりましたが、そうなると正直、好きなことだけでは厳しくなり、80年代中頃より音楽の範囲をクラシック全般に広げ、そのほかにもいろいろな音楽のジャンルを録音してきています。

今、事務所がある阿佐谷は、最初に部屋を借りた下井草とは目と鼻の先です。あの当時、鉄工所の2階の部屋の窓からは、弓矢(和弓)が一瞬、横に飛んでいくのが見えることがありました。数年前それを思い出し、その場所を調べると、建物は変わっていましたが、同じ場所に弓道場がありました。早速、入会し、現在も続いています。
弓道場に行くたびに、70年代、生き生きとした音と動きの世界に身を置いていた自分の姿と録音する喜びを思い出します。「好きな事」というパーツをもう一度集め直してみようかと、ふと考えたりすることもあります。そんな日々を過ごしながらも、人々の行う音楽、音の世界を、より生き生きと薫りある音に収録しようと、マイクロフォンの向こう側に想いを託しています。

小島幸雄 (有限会社 コジマ録音 代表取締役)

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2021年制作、令和3年度(第76回)文化庁芸術祭参加作品の5タイトル

夜の詞 能声楽とチェロのための作品集青木涼子(能声楽) エリック=マリア・クテュリエ(チェロ)
ALCD-131
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD131.html

間宮芳生 チェロとピアノのための作品集髙橋麻理子(チェロ) 山田剛史(ピアノ)
ALCD-130
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD130.html

Lux in Tenebris/闇の中の光 サルヴァトーレ・シャリーノ フルート独奏のための作品集 1977 – 2000
若林かをり(フルート、アルトフルート) タイナカジュンペイ(写真) <2 CD+写真集>
ALCD-128, 129
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD128.html

ARCS
土橋庸人+山田岳(ギター)
ALCD-126
http://www.kojimarokuon.com/disc/ALCD126.html

九州系地歌の遺産 Vol.1 松 ことほぐ
藤井泰和(地歌三絃・歌) 米川文子(生田流箏・歌、人間国宝) 川瀬露秋(胡弓)
EBISU-20
http://www.kojimarokuon.com/disc/EBISU20.html

(2022/4/15)