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東京芸術劇場コンサートオペラ 《人間の声》《アルルの女》|藤堂清

東京芸術劇場コンサートオペラvol.8
Tokyo Metropolitan Theatre Concert Opera vol.8

2022年1月8日 東京芸術劇場コンサートホール
2022/1/8 Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<曲目、出演者>        →foreign language
1. プーランク:オペラ《人間の声》演奏会形式(日本語字幕付原語上演)

 女:森谷真理
 指揮:佐藤正浩
 管弦楽:ザ・オペラ・バンド

2. ビゼー:劇音楽《アルルの女》 全曲(アルフォンス・ドーデ原作台本による原典版)
  演奏会形式(朗読付き日本語上演)

 語り、バルタザール、フレデリの祖父フランセ、馬の番人ミチフィオ:松重 豊
 フレデリ:木山廉彬
 白痴(フレデリの弟):的場祐太
 ヴィヴェット、フレデリの母ローズ:藤井咲有里

 コーラス:武蔵野音楽大学合唱団(合唱指導:横山修司)
 指揮、構成台本:佐藤正浩
 管弦楽:ザ・オペラ・バンド

プーランクのモノ・オペラとビゼーの劇音楽を組み合わせたプログラム。どちらも、主役が恋に破れ自死する。だがその恋の相手は舞台には登場しない。
一曲目の《人間の声》は比較的演奏機会が多い。一方、《アルルの女》は劇付随音楽から抜粋・改訂された管弦楽による第1組曲(ビゼー)と第2組曲(ギロー)はオーケストラの定期などで聴けるが、全27曲が通して演奏されることはめったにない。
両曲ともに上質な演奏であり、聴き応えがあった。

《人間の声》で、女は数日前に別れを告げられた男からの電話を待っている。交換手のミスでの番号違いの通話、あるいは混線による他人との会話、ようやくつながった電話では、平静をよそおい彼の荷物の受け渡しの話をする女。しかし電話は途中で突然切れてしまい、ふたたびつながると、電話を待っていたこと、睡眠薬をのんだというような弱気な話をする。電話での会話でかろうじてつながっている彼女、電話線を首に巻き死んでいく。
森谷真理の独唱は細やかなコントロールが効いたもの。なかなか電話がつながらない間のイライラした様子、はじめの通話での落ち着いたやりとり、電話を介した一方だけのセリフなのだが、受話器を通り越して向こうが見えるよう。
佐藤の指揮するザ・オペラ・バンドの演奏も色彩感あふれるもので、舞台の状況を丁寧に伝えてくれた。
余談になるが、演奏前に佐藤が当時の電話の仕組みを説明し、この劇の背景への理解を図った。しかし、携帯電話が大部分の通話手段となったとき、こういった説明自体が難しくなるだろう。近い将来、舞台上演する場合は演出家の力の見せ所となるかもしれない。

《アルルの女》の舞台はプロヴァンスの小さな村。農家の若者フレデリはアルルの女に夢中で結婚を望んでいる。しかし彼の母、祖父、老羊飼い等は村の娘ヴィヴェットと結婚するよう促す。アルルの女が情婦だという馬の番人の男が証拠の手紙を持って現れ、フレデリは嘆く。周りから代わりにと勧められたヴィヴェットを一旦は強く拒絶するが、手の平を返すように受け入れ、婚礼をあげる。しかし再び現れた男に激しく嫉妬。バルコニーから身を投げる。
本来は劇としてビゼーの音楽とともに上演されるものだが、この日は演奏会形式ということで朗読により最小限のセリフや語りを加える形で演奏された。組曲のなかで管弦楽のみで演奏される曲、例えば〈ファランドール〉が勇壮な合唱付きであったりといったように、音楽だけみてもずいぶん印象の異なるものが多かった。また、セリフとタイミングを合わせて演奏を始める音楽が、場面の背景をあらわしたり、その役の気持ちを表現するといった点、ビゼーの劇音楽作家としての力量を強く感じることができた。

語りと3人の男の松重豊、若いヴィヴェットと年かさのフレデリの母ローズの二役の藤井咲有里、この二人は声だけで役を演じ分け、見事であった。フレデリの木山廉彬、フレデリの弟・白痴の的場祐太の二人もそれぞれの役になりきった。
演奏面では、20名強の合唱が充実した響きを作り出していた。またオーケストラも比較的小編成でありながら、充分なダイナミクスで佐藤の指揮に応えた。

二つの作品、時代も傾向も違うが、それぞれ良い演奏であり、充実した時間をすごすことができた。特に《アルルの女》全曲は録音も少なく、実演はさらに希少であることから、貴重な機会となった。

(2022/2/15)

《アルルの女》楽曲構成

【第1幕】
1.序曲
2.メロドラム
3.メロドラム
4.メロドラム
5.合唱とメロドラム
6.メロドラムと合唱―終曲

【第2幕】
(第1場)
7.間奏曲と合唱(田園曲)
8.メロドラム
9.メロドラム
10.メロドラム
11.合唱とメロドラム
12.メロドラム
13.メロドラム
14.メロドラム
(第2場)
15.間奏曲
16.終曲
17.インテルメッツォ

【第3幕】
(第1場)
18.間奏曲(カリヨン)
19.メロドラム
20.メロドラム
21.ファランドール
(第2場)
22.間奏曲
23.合唱
24.合唱
25.メロドラム
26.メロドラム
27.フィナーレ

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<Program, Performers>
1. Francis Poulenc: Opera “La Voix humaine” (Sung in French with Japanese subtitle)

Elle: Mari MORIYA
Conductor: Masahiro SATO
Orchestra: The Opera Band

2. Georges Bizet: Musique de scène “L’Arlésienne” Drama en 3 actes de Alphonse Daudet

Balthazar, Narrator: Yutaka MATSUSHIGE
Frederi:Yukiaki KIYAMA
The Idiot “Frederi’s younger brother”:Yuta MATOBA
Vivette, Frederi’s mother: Sayuri FUJII

Chorus: Musashino Academia Musicae
Chorus Master: Shuji YOKOYAMA
Conductor: Masahiro SATO
Orchestra: The Opera Band

 

L’Arlésienne

Acte I
1. Ouverture
2. Mélodrame
3. Mélodrame
4. Mélodrame
5. Chœur et Mélodrame
6. Mélodrame et Chœur Final

Acte II
Premier Tableau
7. Entr’acte et Chœur (Pastorale)
8. Mélodrame
9. Mélodrame
10. Mélodrame
11. Chœur – Mélodrame
12. Mélodrame
13. Mélodrame
14. Mélodrame
Deuxième Tableau
15. Entr’acte
16. Final

Acte III
Premiere Tableau
17. Entr’acte (Minuetto)
18. Carillon
19. Mélodrame
20. Mélodrame
21. Farandole
Deuxième Tableau
22. Entr’acte
23. Chœur
24. Chœur
25. Mélodrame
26. Mélodrame
27. Final.