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Pick Up|That’s クラシック!〜光のオーケストラ〜|中村みき

That’s クラシック!−光のオーケストラ−
That’s Classic! -Light’s Orchestra-

2022年1月25日 東京国際フォーラム ホールC
2022/1/25 TOKYO INTERNATIONAL FORUM
Text & Photos by 中村みき(Miki Nakamura)

<出演者>
指揮:川瀬賢太郎
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
イベント・ホスト:ROLAND
進行: 阿部智帆

<プログラム>
「スター・ウォーズ」よりテーマ (J.ウィリアムズ)
「スター・ウォーズ」より帝国のマーチ (J.ウィリアムズ)
「ゴッドファーザー」より愛のテーマ (ニーノ・ロータ)
バレエ音楽「白鳥の湖」より『情景』 (チャイコフスキー)
交響曲第5番『運命』より3・4楽章 (ベートーヴェン)
―休憩―
歌劇「フィガロの結婚」より序曲(モーツァルト)
歌劇「アイーダ」より『凱旋行進曲』(ヴェルディ)
歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲(マスカーニ)
威風堂々 第1番 (エルガー)

(アンコール)
「ラデツキー行進曲」 (J.シュトラウス)

 

《川瀬賢太郎、東京フィルハーモニー交響楽団、そして現代ホスト界の帝王”ローランド”と過ごす幻想的な非日常の音楽体験》とのキャッチコピー、 このコンサートが目を引くのは「ローランド」がクラシックの“ホスト”を務めること、写真撮影可で SNS 上での拡散を推奨していることだ。「クラシックも時代に合わせ柔軟に変わっていくんだ」「オーケストラに馴染みの無い層を集客したい」という意図が垣間見える。プログラムは誰もが一度は聞いたことがある曲ばかりで構成されており、「−光のオーケストラ−」とあるように映像・照明演出も加わる。

クラシックとは違う世界に住むイメージであるローランドがこのステージに舞い降りて来る。一体全体どんな化学反応が起こっちゃうの!?と気になり、生ローランドを見たいと密かに興奮しながら会場に向かった。
観客はジーンズやミニスカートにブーツなどクラシックのコンサートではなかなか見ないカジュアルさである。放課後に普段の服装でフラッとコンサートに訪れた学生風から、東フィルファンらしき中高年、と雑多な雰囲気であり、新しいクラシックのコンサートの開幕に胸が躍った。

コンサートはテーマを ー闇から光へーとし、「J.ウィリアムズ 『スター・ウォーズ』よりテーマ」から始まる。実はこの選曲、筆者も同じ譜面を演奏(シンバル)したことがあり、プロはどのように演奏をするのかとても気になっていた。華々しい一音とともに会場が暗転し、地球の映像に青いライトが点り、宇宙を演出する。Tpの宇宙へ旅立つワクワク感を持つテーマが、私たちを物語の世界へ誘っているようで期待が高まり、聴く姿勢もだんだんと前のめりになる。

すると突然客席下手前方からスポットライトを浴びてローランドが登場。きたーーー!という客席の反応とともに、カメラが一斉にローランドに向く。隣の中学生も夢中で撮りまくり、興奮の渦の中でコンサートがスタートした。

まず「『スター・ ウォーズ』より帝国のマーチ」。中低音と打楽器が演出する侵略のマーチに、会場の暗がりの中、赤い光線を纏った怪獣の映像が合わさり、一気に闇の世界へと物語を一変させ作品の世界観に没入させられた。

続く「ニーノ・ロータ『ゴッドファーザー』より愛のテーマ」と「チャイコフスキーバレエ音楽『白鳥の湖』より『情景』」は弦楽器の美しくかつ親しみのあるメロディーが響きわたる。まさに<ザ・オーケストラ>を全身に浴びているような気分だ。

次いで、各セクションごとにアンサンブルの演奏を添えての「楽器紹介」が行われた。普段なかなか切り取って聴くことのないプロの楽器の音色を聴くことができた。特にハープ独奏は生で聴く機会が少ないぶん一音も逃すまいと耳を傾け、最後の一音が弾かれたときには会場にため息が溢れた。

前半最後は、「ベートーヴェン 交響曲第5番『運命』より3・4楽章」。ここで誰もが知る1楽章ではなく3・4楽章と外してきた選曲に、月並みでなく、新たな曲に出会ってほしいという主催側の意図も見え面白さを感じた。3楽章では楽曲の展開に合わせ、ライティングに多様な色を使い暗転と明転を繰り返し、ベートーヴェンの苦悩さえも感じさせる演出である。そして、4楽章で金管の上昇する3音でエネルギーが爆発し、物語が一気に「光」の場面へと切り変わったことをはっきりと感じた。

休憩中、場内を巡回する係員が掲げるプレートには「携帯の電源はお切りください。写真撮影はご遠慮ください」というお決まりの文言ではなく、「本日写真撮影OKです」とインスタグラムやツイッターへハッシュタグ付きの投稿を促す言葉があり、目を疑い思わず三度見し、クスッと笑ってしまった。

後半は、「モーツァルト 歌劇『フィガロの結婚』より序曲」からスタートで、闇から明けた光のなかを突き進む。邸宅の装飾を描き出すようなオーケストラの洒落た演奏に加えて、赤いバラの花束の映像が散りばめられ、中世から近代へと移り変わるヨーロッパの世界を体感した。
この曲は小学校の掃除の時間に流れていた曲であったこともあり、邸宅の女中として一連の騒動を覗き見しているような気分にもなった。

続いて、「ヴェルディ 歌劇『アイーダ』より『凱旋行進曲』」。ローランドがサッカー強豪高校出身ということもあり、サッカーの話題から曲の紹介が行われた。アイーダトランペットが登場することで有名な曲で、SNSに投稿したくなる絵が「撮れちゃうタイム」だ。両サイドに分かれての立体的な演出に「なんだこの光景は!」と観客の視線は一挙に集中、バシャバシャと撮影が繰り広げられていた。

そして「マスカーニ 歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲」では、光や映像が無く撮影も不許可となり、それまでとは全く違う時空間が演出された。ステージはクライマックスに向かっており、ここにオーケストラらしい響きをたっぷり体感、陶酔する時間が置かれたことで、堅苦しいクラシックへの壁が崩れたように感じた。人の感情を内に向かわせるようなこの楽曲で「写真を撮ろうかな。」など余計なことを考えず、繊細な弦楽とハープの一つ一つの音に耳を集中でき、感情が深く揺さぶられた。

最後は「エルガー 威風堂々 第1番」。イギリスの第二の国歌と言われ親しまれている曲だと紹介があったように、VJによる花火の乱れ打ち、BBCプロムスのフィナーレの大合唱が聞こえてきそうな空間ができあがり、お決まりの屈伸運動をしたくなった。極め付けは、金テープがいきなりそこら中に吹き出しての大乱舞。会場はどよめきや歓声で包まれた。また、低音楽器が生き生きと演奏をしている姿が、テーマにあるように明るい未来を歩んでいるように見え、これから開けるコロナ後の未来を予感させワクワクした。

アンコールは予想通り、「J.シュトラウス『ラデツキー行進曲』」。スネアから始まる打楽器のアンサンブルは筆者のような打楽器奏者としては胸が高鳴り、つい体が前傾してしまう。 周囲も自然と手拍子をし始め、指揮者の指示にちゃんと従っていた。全ての参加者に一体感が生まれ、このコンサートの一連の物語を一緒に閉じるような気持ちになった。

コロナ禍の影響で2年ぶりにプロの生演奏を聴き、弦楽器の包み込むような音色や突き抜 けるようなトランペットをはじめ、場面によって表情が変わる管打楽器の音に五感が刺激され、コロナ禍の鬱憤をデトックスしてくれた。演奏会が終わる頃には体も軽くなった。そのような意味でも、テーマである「闇から光へ」を体感できた楽しいコンサートだった。

 全体の印象として、いわゆるクラシックのお堅いコンサートとは対照的で「こっちにおいでよ」と私たちを招き入れているようなイメージを持った。
プログラムのテーマは「闇から光へ」だ。テーマが設定されることでコンサートに物語が生まれ、観客はそれに共感することができる。 その上、クラシックの代表曲の美味しいとこどりで、一曲が⻑くとも10分程度になるように構成され、どんな人でも最後まで楽しむことができた。
また進行は、2曲に1度程度、ローランド、司会、指揮者川瀬の3人が、初心者でもわかるようにオーケストラについてや曲の解説をスモールトークで行う。ローランドは、コロナの情勢を鑑みた司会の「明けない夜はない。頑張りましょう。」という言葉に対し「僕は受け身なその言葉は嫌いだ。僕なら東へ走っていく。」というようなお得意の名言を数々挟みつつ、サッカー、映画の話から切り込み、曲へと導入するなど、親しみ易さとともに終始笑いも交えカジュアルさも兼ね備えたトークで惹きつける。さらにクラシックが持つ高級感や華やかさというイメージをも保持する人材として彼は適任であったと思う。

ただ残念に感じた点が2つあった。
1点目は楽器紹介で各セクションが演奏する際に、司会とローランドの立ち位置が悪くコンマスやハープの独奏に丸かぶりしていたのだ。当日代走の司会でローランドも初めてのクラシックの進行役という点を考慮し、今後への問題提起としたい。
2点目は、スマートフォンの撮影許可によるシャッター音やフラッシュで、演奏への集中が途切れそちらに目がいってしまう点だ。事前の注意喚起はあったが、それではカバーしきれていないため対策が必要だと思う。

現在、若い世代のクラシック離れが進むという。 だが、この公演は同時配信や服装といった面でも気軽に立ち寄れる雰囲気で、堅苦しいイメージを持つクラシックの公演へ足を運ぶ障壁を下げ、オーケストラに馴染みの無い層の集客に成功した例となっていた。
クラシック界も柔軟に変化しているのだなと感嘆するとともに、今後私たちを魅了してくれる新しい体験が楽しみになった演奏会であった。

(2022/2/15)

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中村みき(Miki Nakamura)
幕張総合高校(シンフォニックオーケストラ部) 卒業
San Diego State University Hospitality and Tourism Management 留学
明治学院大学経済学部 在学中