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カデンツァ|メルキュール・デザールってどういう仕組みなんですか、に。|丘山万里子

メルキュール・デザールってどういう仕組みなんですか、に。

Text by 丘山万里子(Mariko Okayama)

メルキュール・デザールって、どういう仕組みになっているんですか?
と、聞かれることが増えた。
同人誌形態で自主運営です。
一番大事にしているのは、「書きたい人が、書きたいことを、書きたいように書く」です。
とお答えするが、いかにも漠然だ。
仕組みというのは、やっているうちに出来上がってきたもので、上記の「書きたい人が書きたいことを書きたいように書く」にはどうしたらいいのか、を探りながらここまで来た。状況に応じて変わるものだと思うが、今のところ、こんな感じです、というのをこの際、具体的にご説明しておこうと思う。

1、運営
①メルキュール・デザールは同人誌である。
したがって、メンバー全員(現在15名、略歴はAbout UsのMember’s Profileに記載)1)が年間6000円の会費を納入し、システム管理費(システムトラブルそのほかの対応)、その他の活動費にあてている。
原稿執筆の報酬はない。
ゲスト寄稿者は本誌のあり方にご賛同いただいた方々で、恐縮だが原稿料はお払いしていない。
ご理解、ご協力にひたすら感謝のほかはない。
②スタッフ
編集・校正、雑務は全て会員の中で作業可能なメンバーが担う。
スタッフは同上ページに記載されている。2)
みなさん他に職業を持っているから執筆以外にこれらをこなすのは大変だが、可能な人がやるほかない。サイトのシステム管理は外部委託だが、こちらも経費はほぼボランティアに近い。

2、公演レビューの仕組み
メンバーの執筆意思、意欲を何より重視するので、以下の流れになっている。
①執筆者は執筆希望の公演を前月に自分で探し選んで「注目の公演・イベント」に必ずコメントを添えて翌月号の締切日(前月末)までに編集スタッフに提出する。
したがって、このページは執筆陣が注目、執筆予定、もしくは行きたいと思う公演が理由ともども列記されている。
②本誌の趣旨をご理解いただき、メディア招待のご案内を事務局、編集長にくださっている公演があればそれを使用させていただく。
執筆者個人にいただいている場合は返信・執筆も含め、全て本人に任せる。
③随時、事務局・編集長に届くお招き、ご案内は即刻、メンバー全員に流され、執筆希望者は挙手で編集長に申告(先着順)、その場合、原則、執筆義務を負う。
あるいは聴後、編集長との相談となることもある。
したがって、すでに注目リストで執筆確約以外の公演も随時、執筆される。
④上記に該当しないものの、興味ある公演は各自、自費購入でゆく。
聴後、執筆希望となった場合は編集長にその旨伝え、執筆する。

注目公演選定の段階で批評は始まる、というのが全員の共通認識である。
いずれにしても周囲の方々のご理解・ご協力に加え、メンバー自身の情報収集力も求められる。
また、執筆陣メンバーが公演に何らかの形で関わった場合(解説文、トークその他)、あるいは近しい友人関係などの場合は執筆を控えるのが原則だが、そういった中にも優れた公演はあるので、その場合はリストに挙げるに留める、あるいは関わりを明記し執筆(ただしPick Up枠に分別される)、もしくは他のメンバーが出向く、といった対応がなされる。
ご案内・お招きは感謝とともに頂戴しているが、レビュー執筆依頼そのものはお受けしていない。
なお、批判評にお怒りの声が届くこともあるが、誠実な対応を心掛けている。異なったご意見があるのは当然だし、ご寄稿いただけば掲載する旨ご提案しているが、これまでそのような形に至ったことはない。双方向の意見交換の方法を模索中である。

3、レギュラー執筆メンバーはどういう人か
①批評を書きたい、という強い意欲を持つ
②音楽に真摯に向き合う
③ある程度の筆力がある
④会則を遵守する(締め切り厳守など)

会則は創刊時に作成されたが、コロナなど大きな変化もある中で随時改訂されている。
なお、運営や誌面の方向性については必要に応じメンバー全員の意見を聞いた上で役員会で討議、のち編集長が決定している。

4、本誌の大きな特徴として国立国会図書館インターネット収集保存事業WARPへの収蔵がある。資料として後世に残る記事であること、世界中からのアクセスに応えられる記事であることを常に念頭に誌面の作成・執筆が行われている。
外国語表記もその一つで、手がかりとしてデータ部分は可能な限り併記しているが不明な場合も多く、主催者の方々にご協力をお願いしている。
日本の音楽・創造シーンを少しでも海外に発信すべく、多様な言語版をも併置、アクセスを得ているのもまた、Web誌ならではの特性と言えよう。
批評はそのときどきの社会状況を含め眼前のシーンを伝達する役目も果たしており、パンデミックにあっての特別企画などはとりわけ大きな意義を有したのではないか。

5、誌面全体の構成・仕掛けについては、About Us の「本誌の目指すもの」に記載されている。コロナ以前(2019年1月時点)のものではあるが、基本方針に変更はない。

*   *   *

2017年4月、配架にご協力頂いたホールに配布したチラシ

と、そんなところだろうか。
以下はよもやま話。
そもそもどうしてこういう誌面を創ったか。
私はいたって自己本位な人間で、批評に関し、メディア担当者と衝突することが多く、自由に、書きたいことを書きたい、という欲求を強く持ち、それなら自分でそういう場を創ろうと考えた。
今に始まったことでなく、長くお世話になった『音楽旬報』という旬刊紙でも「批評特集」というページを月1万円払って挟み込んでもらい、若者たち7, 8人とワイワイ創った。その買い取りページに「ちょっとスペース無くなったから広告も載せて」と言われても、それが何を意味するかを知らなかった。広告料をもらったか、と人に聞かれて、そういうことだったか、と知ったのである。お金が絡むとろくなことがない。
次にこれも旬刊で『ブリーズ』という、音楽にとどまらず、現代美術・演劇・舞踊を含む批評紙を全国展開した。北海道の果てから沖縄まで読者はいたが、郵送料で赤字が続き、3年で疲れてやめた。印刷代の他、カメラマンに微々たる謝礼をした以外の支出はなかったのだが。この時も、周囲は若く、学生たちも喜んで手伝ってくれ、部活のノリであった。
その後、クラシックからやや距離を置き、JAZZTOKYOというWebマガジンでクラシック部門副編集長11年を経て、本誌創刊となったわけだ。
「書きたい人が、書きたいことを、書きたいように書く」場への執着は自分でも呆れるし、なぜ、と聞かれてもわからない。
ブログで書けばいいじゃない、と言われても、それはやりたいことじゃない、と思うのだ。昔、君はなぜ書きたいの、有名になりたいの?と問われ、ぽかんとしたが、別段、そんな欲はない。
集団や組織は嫌いだが、「この指とまれ」にとまってくれる人がいたら嬉しい。本誌だって集団でしょう、と思われようが、仲良しお友達的同系色は恐ろしく、その集まりが組織化され統制されるのも好まない。いろんな人がいてくれたらいいと思う。
私はただ、書きたい人と一緒に自分も書きたいだけなので。そして互いに刺激を受けたいだけなので。

そういうわけで、本誌メンバーに参加いただくにあたり、本誌のイメージをこんな風にお伝えしている。
メルキュールは、交通とか伝達とかいう意味があるけれども、一つの「通り」streetのように思ってくれれば。でもメインストリートというより、ちょっと入った路地みたいな感じで、そこに自分のお店を出す。会費は言ってみれば場代のようなもの。お店の品揃えは、各人が好きにすればいい。ブランド品の高級店でも、専門店でも、雑貨屋さんでもなんでも自由にどうぞ。そうして自分の読者を呼びこんでください。
並べるのは売り物じゃない。手にとって、何かを感じ、考える素材のようなもの。訪問数なんかには振り回されないで。あぶくみたいなものだから。
自分が言いたいこと、書いたことに誰か1人でも「ん?」と足を止め、考えてくれればそれで十分。数をある程度知ることは必要かもしれないけれど、一番大事なのは、自分が何を書きたかったか、考えたかったか。
そしてそれが「なるほど」とかいう了解や、「いや、違うでしょう」という疑問を生み、それを読者が持ち帰ってくれたら、それが一番素晴らしいことだ。
「批評モデル」があるわけでなく、私には私の、あなたにはあなたの、それぞれの批評の形がある。それをそれぞれに追求してください。
書く喜び、伝える喜び、わくわく感をいつも持っていたい。
言葉にする苦しみ、思考のもがき、をいつも引き受けること。
そうして、書き手も読者も、みんなの言葉、思考が自由に行きかう爽風の通る路地でありたい。
会費は、自分たちがやりたいことをやるために必要な経費で、会費制が一番こういう場を支えるに健全な方法ではないか。やりがいや善意の搾取とか、志では続かない、とか、確かにいろいろ言われます。
7年目、持続可能な場であるにはどうしたらいいのか。
みなさん、知恵を貸してください。
と、そんな感じである。

そのために、昨年6月から各人のリレーエッセイを開始しました。執筆者(お店)の顔をそれぞれ出してみましょう、知ってもらいましょう、です。
それから、コロナ禍ゆえ開始したZOOMミーティング。これならどこの人とでも簡単に集まって話し合える。メンバーが今、話したいと思うこと、問題にしたいこと、運営から執筆に至るまで、様々な話題をどんどんあげてもらい、参加者をつのり、いろいろな話をしてゆこう(先日は、執筆者の演目選定が偏りがちになるのはどうしたものか、がテーマになりました)。
いずれはゲストも招いて、いろいろ勉強しよう。
そんなふうに、メルキュール・デザールはゆるゆると動いています。

それから、お知らせです。
2017年から毎年初めにお世話になった関係者の方々に年間活動報告書をお送りしていましたが、今年2022年からAbout Usにて公開します。
ご興味のある方はご覧ください。
今後ともよろしくご理解、ご協力のほどお願い申し上げます。

(2022/2/15)

  1. About Usにて執筆陣の略歴は記載。ゲストは本文下に略歴があるが、メンバーはこちらに列挙となっている。
  2. 同上ページにスタッフ記載