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加耒徹 バリトン・リサイタル ~ギターに大萩康司を迎えて~|藤堂清 

加耒徹 バリトン・リサイタル ~ギターに大萩康司を迎えて~ 
   シューベルティアーデ ドイツ・リートに酔いしれる夜
Toru Kaku Bariton Recital with Yasuji Ohagi at Guitar 

2021年12月9日 北とぴあ つつじホール 
2021/12/9 Hokutopia Tutuji Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
写真提供: オフィス・フォルテ

<出演>        →foreign language
加耒徹(バリトン)
大萩康司(ギター)

<プログラム>
シューベルト:
  野ばら D257
  海の静けさ D216
  海にて D124
  夜と夢 D827
  夜曲 D672
メルツ: 遥かなる友へ (ギターソロ)
シューベルト: セレナーデ (歌曲集《白鳥の歌》より)
ジュリアーニ: セレナーデ
ウェーバー: 子守歌
ブラームス: 子守歌
~休憩~
モーツアルト:
  おいで愛しのツィターよ
  夕べの思い
メルツ: 吟遊詩人の調べ Op13-17 “ロマンス” (ギターソロ)
シューベルト: 歌曲集《冬の旅》 D911より
  菩提樹
  孤独
  郵便馬車
  
  嵐の朝
  はたごや
  勇気
  幻の太陽
  辻音楽師
~アンコール~
シューベルト:子守歌
モーツアルト:オペラ《ドン・ジョヴァンニ》よりセレナーデ<窓辺においで>

 

バリトンの加耒徹が「ギターに大萩康司を迎えて」、シューベルトの歌曲を中心としたリサイタルを行った。加耒は1984年生まれの37歳、大萩は1978年生まれの43歳と中堅というべき立場の二人、充実した音楽が期待された。大萩は、フルートやチェロといった他の楽器とのコンサートや、歌手とのジョイント(林美智子&大萩康司)にも積極的。一方、加耒はギターとの共演は今回が初めてとのこと。どのような形で進められるのかに注目した。

歌曲をギターと一緒に演奏する、その目的や効果は何だろう?
ピアノに較べるとギターは音量もダイナミクスの幅も制限される。声の大きさもそれに合わせて小さめとなり、大ホールでオペラを歌うときとはちがった表情をみせる。だが、シューベルトの時代、あるいは19世紀後半になっても、歌曲がホールで歌われることはまずなかった。サロンや家庭が中心で、またこの時代のピアノ、フォルテピアノは、現代のモダンピアノに較べ音量も小さく音色も制限されていた。ピアノがない場面ではギターを伴奏に使うことも行われており、そのための楽譜も出版されている(シューベルトの歌曲のメルツやディアベリによる編曲など)。
一方、21世紀のいま、シューベルトの歌曲はさまざまな形で受容されている。オーケストラ伴奏、室内楽、ピアノでもピリオド楽器を使うというように。ホールも、大きなコンサートホールから室内楽向けの中規模のホール、小規模ホール、数十名の規模のサロンと言った具合。これらの中で、ギター伴奏は最も規模の小さなケースと考えられる。とすれば、聴き手の近くで、親密な環境のなか、より細やかな表情で語りかけるような歌をと期待することになる。

ギタリストは普通のイスに座って弾き、歌手は下手側で高いイスに腰をあずけるようにして歌う。互いに相手が視界に入るよう、両者とも少し内向きで演奏していく。
プログラムの最初のブロックはシューベルトの歌曲を5曲、有名な《野ばら》に始まり、比較的穏やかな曲想のものが集められた。加耒のバリトンは細身ながらしっかりとした響きがある。対するギターの大萩の音は粒立ちの細やかなもの。バランス的には声が大きめという印象となる。これは、筆者の席が上手よりで、歌手の前方だが、ギターの正面から外れていたためにそのように感じられたのかもしれない。加耒の伸びやかな声が会場全体に気持ちよく響く。ドイツ語も明瞭で欠点をあげることはできない。
だが、《野ばら》でいえば、ゲーテが愛し捨てた女性への後悔の念といった、だれもが知る詩の裏の意味まで踏み込んだものとは言い難い。シュトローフェン・リートが文字通り同じ繰り返しになっている。
ギター伴奏といういわばサロン・コンサート的な位置づけということで、意図的にそういった表現をとっていたのだろうか?

ギターの独奏曲を挟んで前半の二番目のブロックは、セレナーデと子守唄を2曲ずつ、ブラームスの曲以外はシューベルトと同時期に作られたもの。余計なことを考えなければ、しっかりと形の整った歌を楽しめる。

後半のモーツァルト、《夕べの想い》では死の影のような表情が欲しいと思ったりもしたが、《冬の旅》の抜粋、とくに後半の〈嵐の朝〉や〈勇気〉のようなダイナミクスの大きな曲では、ギターを置き去りにするかのような表現を取る場面もあった。

通常のピアノとのコンサートとは異なる位置づけとして行くべきだったのだろう。加耒と大萩の可能性は感じたが、筆者の求めるドイツ・リートとは方向がずれているように思われた。

アンコールのドン・ジョヴァンニのアリアのためだけに別のギターを用意していた大萩、加耒の歌唱ともども絶品であった。

(2022/1/15)

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<Performer>
Toru Kaku (Bariton)
Yasuji Ohagi (Guitar)
<Program>
F.Schubert : Heidenröslein D257
  Meeres Stille D216
  Am See D124
  Nacht und Träume D827
  Nachtstück D672
J.K.Mertz : An die Entfernte (Guitar solo)
F.Schubert : Ständchen (from Schwanengesang)
M.Giuliani : Ständchen
C.M.v.Weber : Wiegenlied
J.Brahms : Wiegenlied
———-Interemission————
W.A.Mozart : Komm, liebe Zither
  Abendempfindung
J.K.Mertz : Bardenklänge Op.13-17 “Romanze” (Guitar solo)
F.Schubert : from Winterreise D911
  Der Lindenbaum
  Einsamkeit
  Die Post
  Die Krähe
  Die stürmishe Morgen
  Das Wirtshaus
  Mut!
  Die Nebensonnen
  Der Leiermann
—————-Encore————–
Schubert : Wiegenlied
W.A.Mozart : “Deh, vieni alla finestra” from Don Giovanni