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撮っておきの音楽家たち|イザベル・ファウスト|林喜代種

イザベル・ファウスト(ヴァイオリン奏者)
Isabelle Faust, Violinist

2021年1月27日 王子ホール
2021/1/27 Oji Hall
Photos & Text by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

イザベル・ファウストは実力と実績で世界で最も注目すべきヴァイオリニストである。
レオポルド・モーツァルト・コンクール及び1993年のパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールに優勝。その後リサイタルや室内楽で多彩な活動のほか、ベルリン・フィルなどの世界的なオーケストラやハイティンク、ブリュッヘンなどの一流指揮者と共演している。
そして今年はロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)の没後50年。今回、ファウストはこの作曲家の作品「兵士の物語」を豪華メンバーでCD化した。ストラヴィンスキーはサンクトペテルブルクで育ち、サンクトペテルブルク大学法学部に在籍しながら、リムスキー=コルサコフに音楽理論を学ぶ。バレエ・リュス(ロシアバレエ団)創設者ディアギレフから委嘱を受けて作曲した「火の鳥」「ぺトリューシュカ」「春の祭典」をはじめ多くのバレエ音楽を残した。
そして注目したいのが「兵士の物語」。「読まれ、演じられ。踊られる物語」という副題を持つ。初演は1918年。第一次世界大戦により多くの芸術家が経済的困窮にあい、こんな時代でも上演出来る機動力のある作品を創ろうと考えられたもの。当時世界的にスペイン風邪が大流行し「兵士の物語」はローザンヌで無事に初演されたものの、ストラヴィンスキーも家族もエージエントも感染してしまった。この「兵士の物語」は戦火から生まれパンデミックに打ち負かされた作品なのである(資料より)。
そして今のコロナ禍のなかで出されたイザベル・ファウストを中心としたCD「兵士の物語」、前半はファウストによるストラヴィンスキーには珍しい無伴奏作品「エレジー」、ファウストのヴァイオリンとアレクサンドル・メルニコフのピアノによる「デュオ・コンチェルタンテ」。そして「兵士の物語」は初演当時のオリジナルの姿での録音。7人のそれぞれの楽器も初演時のものを集めたという。また注目すべきはアンサンブルメンバーの豪華な顔ぶれである。特に語りはファウストから直接オファーをうけたという名優ドミニク・ホルヴィッツ。器楽アンサンブルと実に見事にリズムがシンクロしているようで語りを超えたもう一つのアンサンブルのパートのようである、と言われている。3ヶ国語の3種類が出ている。そしてなんといってもイザベル・ファウストの音楽力がすごい。

(2021/12/15)