東京二期会オペラ劇場 シュトラウスII世《こうもり》|藤堂清
東京二期会オペラ劇場〈二期会名作オペラ祭〉
NISSAY OPERA 2021提携
ヨハン・シュトラウスII世:こうもり
オペレッタ(喜歌劇)全3幕 日本語字幕付き原語(ドイツ語)歌唱、日本語台詞上演
JOHANN STRAUSS II : DIE FLEDERMAUS
Operetta in three acts
Sung in the original language (German) with Japanese supertitles and Japanese dialogue
2021年11月28日 日生劇場
2021/11/28 Nissay Theatre
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)
<スタッフ> →foreign language
指揮:川瀬賢太郎
演出:アンドレアス・ホモキ
舞台美術:ヴォルフガング・グスマン
照明:フランク・エヴィン
合唱指揮:根本卓也
演出助手:上原真希
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:加賀清孝
<キャスト>
アイゼンシュタイン:小林啓倫
ロザリンデ:木下美穂子
フランク:杉浦隆大
オルロフスキー:成田伊美
アルフレード:金山京介
ファルケ:加耒 徹
ブリント:大川信之
アデーレ:雨笠佳奈
イダ:内山侑紀
フロッシュ:森 公美子
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団
ホモキの演出はこのオペレッタを楽しいものとは扱っていない。
第3幕の音楽が終わると大部分の出演者は舞台を去り、セットは第1幕幕開きの場面に戻る。そこに残るのは朝食の支度を持ってきたアルフレード、ロザリンデがテーブルにつく。ドアからアデーレが泣きながら入ってくる。アイゼンシュタイン不在の8日間の朝の光景。パーティー以前に決まっていた日常(?)である。
パーティー自体、すべてファルケが仕込んだもの。
オルロフスキー役は集められた女性客のなかからファルケが選び仕立て上げる。はじめは原稿をたどたどしく読み上げていたのが、次第に役になり切っていく。
アデーレのアリア<侯爵様、あなたのようなお方は>の前後での、オルロフスキーや客のアイゼンシュタインへの嘲笑はほとんどいじめと思えるほど。第2幕の<田舎の無垢な娘の役をやるときは>を聴く人々の、身分違いということをはっきりと態度に出しているアデーレへの意地悪な反応も、彼らがファルケの復讐のためだけに集められたということを明確に伝えた。
第1幕は「シャンパンの歌」で終わり、第2幕は冒頭に<ハンガリー万歳!>を挿入、本来の第2幕のフィナーレから始まり、酔って皆が倒れたところで舞台装置も倒れ、監獄の場面(もともとの第3幕)へと移っていく。
第2幕でのフロッシュの長ゼリフ(本当に長かった!)、森公美子が自分自身に引き付けた部分もあり笑いをさそった。
オルロフスキーがアデーレに自分が保護者となると歌いかける場面では、変装を一部解いた姿となり、この話も作り事と示していた。そして上記の最後の場面へとつながる。
音楽面でも全体的に満足のいく出来栄え。
オーケストラが弾みのある音楽、充実した響きを聴かせた。歌の入らない序曲や<ハンガリー万歳!>はもちろん、三重唱<あなたなしで8日間も一人きり>での表面的な嘆きとそれぞれ隠した楽しみへの期待が交互に歌われる際のリズムの変化など。これは、川瀬の指揮によるところが大きいが、東京交響楽団の力量が発揮された結果でもあろう。
歌手にとってはセリフの入るオペレッタを歌うことは、歌だけの場合とは違う発声上のむずかしさがある。この演出では、歌唱は原語のドイツ語、セリフは日本語という形。セリフの場面でのPAが強めに思えたが、それもあってか音楽とセリフのつながりは自然に感じられた。
ファルケにより、ファルケのために仕組まれたパーティー、演技でも歌唱でも常に舞台の中心にいた加耒、その存在感がこの日の公演を引き締めていた。
アルフレードの金山、舞台上での「テノール歌手」にふさわしい声と図々しさ。木下といえばイタリア・オペラという印象が強いが、立派なロザリンデ、演技面でアルフレードとのからみで笑いをとれるとよいのだが。アイゼンシュタインの小林が天性のブッフォ役というはまり具合、ファルケに弄ばれるのも当然と思える。オルロフスキーの成田は普通の女性客という今回の演出での役柄には合っていたが、歌だけで惹きつけるという意味ではもう一歩。アデーレの雨笠は最高音が苦しい。
今回の再演に当たって、ホモキがオンラインで参加、細かな指示も出していたようだ。それによりオリジナルの演出コンセプトはかなりのレベルで維持された。彼の苦みを感じさせる舞台を味わってしまうと、楽しいだけ、あるいは祝祭的な舞台は物足りなく感じられるだろう。
(2021/12/15)
<STAFF>
Conductor: Kentaro KAWASE
Stage Director: Andreas HOMOKI
Set & Costume Designer: Wolfgang GUSSMANN
Lighting Designer: Franck EVIN
Chorus Master: Takuya NEMOTO
Assistant Stage Director: Maki UEBARU
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Kiyotaka KAGA
<CAST>
Gabriel von Eisenstein: Hiromichi KOBAYASHI
Rosalinde: Mihoko KINOSHITA
Frank: Takahiro SUGIURA
Prinz Orlofsky: Yoshimi NARITA
Alfred: Kyosuke KANAYAMA
Dr. Falke: Toru KAKU
Dr. Blind: Nobuyuki OKAWA
Adele: Kana AMAGASA
Ida: Yuuki UCHIYAMA
Frosch: Kumiko MORI
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra:Tokyo Symphony Orchestra