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Back Stage|ヴァイグレと読響、2022/2023に向けて|大久保広晴

ヴァイグレと読響、2022/2023に向けて
S.Weigle & Yomiuri Nippon Symphony Orchestra, for 2022/2023

Text by 大久保広晴( Hiroharu Okubo)

©Yomiuri Nippon Symhony Orchestra

この原稿を書いているのは2021年12月5日。今日は鈴木優人の指揮、清塚信也のピアノで、大田区民センター・アプリコで満員の演奏会を無事に終えて、ホッとしているところです。さて、今週は11月29日に岸田総理大臣により新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に対する水際措置の強化が発表されてから、12月公演の外国人出演者の変更、それに伴うお客様へのご案内、1月公演の変更の対応などに追われています。さらにここ数日は、報道番組などからの取材の電話も多く受けました。特に18日から24日まで全6公演行うベートーヴェン「第九」公演の指揮者の変更(代役の代役)についてのものがほとんどでした。「『第九』公演の指揮者が変更になるのですね。指揮者の変更により、どのぐらいの影響があるのでしょうか? すでにリハーサルは始まっているのですよね?」のような質問を繰り返し受け、オーケストラの公演の仕組みを丁寧に説明しました。しかし、お客様に“バックステージ”を全部教えてしまって良いのだろうかと、ちょっと複雑な感覚になりました。

そんな慌ただしい時間を送っていた今週、読響の2022/2023シーズンプログラムを発表しました。2022年、読響は創立60周年を迎えます。
常任指揮者を務めているセバスティアン・ヴァイグレの就任4年目に当たります。2019年、ヴァイグレと読響は、ブルックナーやブラームスなどに加え、ハンス・ロットの交響曲でも高い評価を得て、良好なスタートを切りました。しかし、そんな矢先の20年1月から2月、新型コロナウイルスの出現で世界は一変し、ヴァイグレも就任1年目の最後、20年3月の来日が中止になってしまいました。就任2年目のハイライトとして20年7月に予定していたワーグナー「ワルキューレ」第1幕(演奏会形式)も、実現は叶いませんでした。それでも20年11月には、コロナ禍においていち早く来日し、14日間の隔離措置を受け入れ、12月から結果的に2月中旬まで滞在を延長して3か月にわたり数多くの公演を指揮してくれました。中でも合唱を40人に絞ってディスタンス仕様で実現にこぎつけたベートーヴェン「第九」公演では、細かいニュアンスに富んだ透明感ある響きを引き出し、各方面から高い評価をいただきました。ヴァイグレの献身的かつ温かな音楽作りは、楽団員や聴衆を大いに勇気づけてくれました。

©Yomiuri Nippon Symhony Orchestra

就任3年目となる21年は、5月末と8月、ともに14日間の隔離措置を受け入れ、2度来日し、読響とも非常に良好な関係を築いています。彼はベルリン歌劇場管弦楽団でのソロ・ホルン奏者から指揮者に転身したこともあり、オーケストラの団員の気持ちをよく理解しているのでしょう。常に指揮者として全体を見渡すだけでなく、ごく自然に楽団員と同じ目線に立って音楽作りを行っているのが分かります。また、とても気さくで飾らない性格でもあり、楽団員や事務局の皆から愛されています。どんな状況に置かれても悲観的にならず、常に前向きな性格なことも、彼が楽団員から厚い信頼を得ている理由なのかも知れません。
就任4年目となる2022/2023シーズンでは、ベートーヴェンの交響曲第7番、シューマンの交響曲第2番、ブルックナーの交響曲第7番、R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」などの有名なドイツ音楽のレパートリーを軸とし、ロシア音楽や東欧音楽が加わっています。珍しいところでは、第一次世界大戦で戦死した夭折のドイツ人作曲家ルディ・シュテファンの作品を取り上げるほか、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」にはヴァイグレと同い年のスイスの作曲家ダニエル・シュニーダーの「聖ヨハネの黙示録」を組み合わせ、演奏機会の稀なレズニチェク作曲の歌劇「ドンナ・アンナ」序曲なども盛り込みました。ロシア語を第1外国語としていた旧東ドイツに育ったことで「身近に感じている」と語るロシア音楽では、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」やチャイコフスキーのバレエ音楽など定番のレパートリーに加え、タネーエフの交響曲第4番なども演奏します。邦人演奏家との共演にも意欲的で、ショパン国際コンクール第2位のピアノの反田恭平をはじめ、辻井伸行、金川真弓、宮田大らとの共演にもご注目ください。

©読売日本交響楽団

ヴァイグレは、2018年5月の常任指揮者就任に先立つ記者会見で、「これまで劇場での活動を軸としていたため、これからコンサートにも力を入れ、レパートリーも増やしたいと思っている」と語りました。その言葉通り、彼とのプログラム作りは、得意なドイツものを中心としながらも、新たなチャレンジを加えることとしています。2022/2023シーズンも、ヴァイグレと読響の果敢な挑戦をお聴きいただけると嬉しく思います。

就任4年目の前に、もうひとつ大きなチャレンジが待っています。3年目の目玉企画として発表した22年2月のR.シュトラウスの「エレクトラ」(演奏会形式)の開催です。パンクラトヴァ、藤村実穂子、パーペら世界的歌手との共演を予定しています。コロコロと変化し、見通しの立たないコロナの影響で、果たして実現できるのか、現在のところはあらゆる可能性を想定して、準備を進めています。

大久保広晴(読響・事業課課長)

©Yomiuri Nippon Symhony Orchestra

(2021/12/15)

読売交響楽団2022/2023シーズンプログラム