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東京芸術劇場シアターオペラvol.15  團伊玖磨/歌劇『夕鶴』|藤堂清

全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラvol.15
團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)
全1幕(日本語上演 英語字幕付き )
Ikuma Dan opera “YUZURU” (The Twilight Heron)
opera in one act with English subtitles

2021年10月30日 東京芸術劇場コンサートホール
2021/10/30 Tokyo Metropolitan Theatre, Concert Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>        →foreign language
指揮:辻 博之
演出:岡田利規

<出演>
つう:小林沙羅(ソプラノ)
与ひょう:与儀 巧(テノール)
運ず:寺田功治(バリトン)
惣ど:三戸大久(バスバリトン)

ダンス:岡本 優(TABATHA)、工藤響子(TABATHA)
子供たち:世田谷ジュニア合唱団(指導:掛江みどり)

管弦楽:ザ・オペラ・バンド

 

つうがダンサー2人を引き連れ、壁を蹴破って出て行った後、「つるが飛んでいく」という子供の声に、飛行機雲が映しだされ、急速に遠ざかっていく。つうと与ひょう、2人の属する世界の決定的なちがいを象徴するものとして有効。

演出の岡田による時代設定は現代、屋上のデッキチェアでくつろぐ与ひょうは資産で不自由なく暮らしているという設定か?
子供たちが下から「おばさん遊ぼう」と声をかける。子供たちはそろいの制服で、アニメのキャラクターを描いた大きなボールを頭の上にのせている。つうの不在を知った彼らは残念がるが、与ひょうがつうに代わり遊びに加わる。子供たちはポップグループのようで、ある意味で収奪をうけている立場だろう。半数ほどは物語の進行を上手側に座って見守っている。
運ずと惣どの2人、いかにも遊び人といった派手な衣装で登場。つうが黒のドレスであるのと対照的。運ずと惣どの「つうにもっと布を織らせろ。金儲けができる」というそそのかしに、与ひょうもその気になるがすぐには彼女に言えない。おずおずと持ち掛けるが拒絶され、最後には別れることまで持ち出し、脅す。
もともとのストーリーでは、「織っているところをみてはいけない」という約束を破られたつうが落胆して去っていくのだが、岡田の演出では、彼女のスタジオを放棄、彼らを閉じ込めていた壁から外に出ていく。与ひょう等とともにオペラの聴衆も残される。あなたたち自身が狭い世界に閉じこもっているのではないかという問いを投げかけられて。
与ひょうの与儀の浮ついた感じの役作りに対し、つうの小林の凛とした佇まいとの対比ははまっていた。運ずの寺田、惣どの三戸にはあまりあくどさを感じなかったが、それを上回る現実が世の中にあるからだろう。

演奏面では、与儀の安定した声とはっきり聴きとれる言葉が見事。与ひょうの役どころが、はじめから相当に金やみやこといったはなやかな世界に取り込まれていることを伝えていた。小悪党の運ず、大悪党の惣ど、オペラ全体の中では、ストーリーの説明的な役という印象を持っていたのだが、寺田の歌には与ひょうをうまく使って儲けた罪悪感、また彼を通してつうにも影響を及ぼしていることへの後ろめたさが聞き取れた。三戸は金を儲けることしか考えず、よりストレートに歌っていく。
一時期、日本語歌唱でもベルカントでという傾向がみられたが、近年になって、日本語の単語を、そして文章を伝える歌い方をする人が増えてきた。この日の男声3人もそれができている。西洋風日本オペラではない日本語によるオペラを一流の声で上演する可能性が拡がってきていることは楽しみ。
期待された小林のつうへの挑戦だが、満足できるものではなかった。彼女の声にとっては重すぎる役ということかもしれない。強く声を響かせようとすると言葉が聴き取りにくくなる。また、大きな声で歌おうとすることで音程も不安定になる。初めの部分での、与ひょうとのやり取りのように自然に歌っているところもあるし、見た目が役にピッタリという点もよいのだが。今後改善されていくことを望みたい。
管弦楽のザ・オペラ・バンドは、東京芸術劇場シアターオペラのために編成される臨時のオーケストラで、在京の団体のトップクラスの奏者によって構成される。個々人の力量が高いことは分かるが、編成が大きいだけにバランスがくずれるところもみられた。この劇場の構造上、ピットを客席最前部を撤去してそこに置くことになり、高さを変えることができない。こういったことも影響しているかもしれない。
最後に、世田谷ジュニア合唱団が充実した歌を聴かせたことは付記しておきたい。

このプロダクション、2022年1月に愛知、2月熊本での上演が予定されている。

(2021/11/15)

<Staff>
Conductor:Hiroyuki Tsuji
Stage Director:Toshiki Okada

<Cast>
Tsu:Sara Kobayashi
Yohyo:Takumi YOgi
Unzu:Koji Terada
Sodo:Hirohisa Sannohe
Dance & Choreographer:Yu Okamoto(TABATHA)
Dance:Kyoko Kudo(TABATHA)
Chorus:Setagaya Jr. Chorus
Orchestra:The Opera Band