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ブラス・アンサンブル・ゼロ・トーキョー ZERO for the future!|齋藤俊夫

ブラス・アンサンブル・ゼロ・トーキョー ZERO for the future!
BRASS ENSEMBLE ZERO tokyo ZERO for the future!

2021年10月25日 杉並公会堂大ホール
2021/10/25 Suginamikoukaidou large Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

<曲目・演奏>
J.S.バッハ:『ブランデンブルク協奏曲第3番』より第1曲.アレグロ・モデラート
  Tp: 大西敏幸、川田修一、濱口勝治、重井吉彦
  Trb: 青木昂、東川暁洋、越智大輔
  B.Trb: 黒金寛行
  Hr: 岸上穣
  Tuba: 柳生和大
東野珠実:『景~Scenes of Spirits~』
  Tp: 野田亮
  Trb: 越智大輔
  Hr: 岸上穣
  Tuba: 柳生和大
  笙:東野珠実
  尺八:長谷川将山
  箏:中田大梧
挾間美帆:『祝典のための3つの小品』
  Tp: 川田修一、野田亮、濱口勝治、重井吉彦、大西敏幸
  Trb: 東川暁洋、越智大輔、 青木昂
  B.Trb: 黒金寛行
  Hr: 岸上穣
  Tuba: 柳生和大
D.シュニーダー:『バッハ・イン・キューバ-キューバック』
  Tp: 大西敏幸、重井吉彦、濱口勝治、 川田修一、野田亮
  Trb: 越智大輔、青木昂
  Hr: 信末碩才(Horsh)、庄司雄大(Horsh)、鈴木優(Horsh)
  Tuba: 柳生和大
  Timp: 目等貴士
  Perc: 久米彩音、石川大樹
武満徹:『シグナルズ・フロム・ヘブン』
「I.デイ・シグナル」
  Tp: 野田亮、川田修一、重井吉彦、大西敏幸、濱口勝治
  Trb: 越智大輔、青木昂、黒金寛行、 東川暁洋
  Hr: 庄司雄大(Horsh)、鈴木優(Horsh)
  Tuba: 柳生和大
「II.ナイト・シグナル」
  Tp: 川田修一、重井吉彦、濱口勝治、大西敏幸
  Trb: 越智大輔、 東川暁洋、黒金寛行
  Hr: 庄司雄大(Horsh)、鈴木優(Horsh)、岸上穣、信末碩才(Horsh)
  Tuba: 柳生和大
H.トマジ『典礼風ファンファーレ』
  Tp: 野田亮、重井吉彦、大西敏幸、川田修一、濱口勝治
  Trb: 青木昂、東川暁洋、越智大輔
  B.Trb: 黒金寛行
  Hr: 岸上穣、庄司雄大(Horsh)、信末碩才(Horsh)、鈴木優(Horsh)
  Tuba: 柳生和大
  Timp: 目等貴士
  Perc: 久米彩音、石川大樹
(アンコール)
ヤン・サンドストレム:『ロッタの歌』
  Trbソロ: 青木昂
  Tp: 野田亮、重井吉彦、濱口勝治、大西敏幸、川田修一
  Trb: 越智大輔、東川暁洋
  B.Trb: 黒金寛行
  Hr: 岸上穣
  Tuba: 柳生和大
ビョーク:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』より「序曲」
  picc.Tp: 川田修一
  Tp: 野田亮、濱口勝治、重井吉彦、大西敏幸
  Trb: 越智大輔、 東川暁洋、青木昂、黒金寛行
  Hr: 岸上穣、庄司雄大(Horsh)、信末碩才(Horsh)、鈴木優(Horsh)
  Tuba: 柳生和大
  Timp: 目等貴士
  Perc: 久米彩音、石川大樹

 

もちろん奏でられる音楽によって感覚は左右されるが、筆者は金管楽器の音に陽光を感じる。トランペットなら夏の肌を射すような日差しを、ホルンなら春の午後、眠気を誘うぬくぬくとした日差しを。今回ブラス・アンサンブル・ゼロ・トーキョーの演奏を聴いて感じたのも陽光の感覚。だがそれは実物よりも美しい、音楽的陽光。

第1曲目の『ブランデンブルク協奏曲第3番』第1曲アレグロ・モデラート、主役的声部が「協奏」的に、かつ「対位法」的に受け渡されていくその音楽の煌めきはまさに陽光。ブラスでバッハは初めての体験だったが、輝かしく暖かい。こういうバッハも十分アリだと知った。

東野珠実『景~Scenes of Spirits~』、尺八がゆったりと幽玄な音の場を作り、そこにホルンが篳篥のごとく重なり、箏のアルペジオが花を添える。舞台下手から「おおー」と歌いながら笙奏者が登場する第1景に始まり、全4景でブラス3人が邦楽器3人と等しく邦楽的な音楽を奏でる。邦楽のほのかな光が会場を、聴衆1人1人を包んだ。

優しい光にたゆたった所に、挾間美帆『祝典のための3つの小品』が鋭角で突き刺さった。「1.ファンファーレ」でのブラス11人による和声のなんと輝かしいことか!伝統的な長短3度を重ねたのではなく、伝統的には不協和とされる音程も用いて、楽器の音色も計算に入れて作ったであろうその複雑な和声だけで挾間の尋常ならざる耳の良さが聴き取れる。「2.捧げ歌」は冒頭からトランペットが子守唄のように歌い、トロンボーン、チューバが音場を膨らませ、ゆっくりと高揚していく。やがて眠りに入るように落ち着いて、優しく了。この曲でも挾間の尋常ではない和声感覚が聴き取れた。「3.花火」では和声感覚=縦の感覚に、運動感覚=横の感覚が加わった、挾間流音色旋律とも言うべきものが極彩色の花火を連続的に打ち上げる。11人があるときは一体となり、ある時は協奏的に各パートが前に出たり後景に引いたりと、ブラス・アンサンブルでこれ以上ないほどの複雑かつ快活な音楽が実現した。筆者はCDで他の挾間作品を聴いて既に逸材と目をつけてはいたが、今回の生演奏でその真価――もしかすると世界の音楽界に新風を巻き起こすかもしれないほどの才――を知った。

シュニーダー『バッハ・イン・キューバ-キューバック』はバッハとその時代の対位法をキューバの音楽と練り上げた作品とのこと。キューバの音楽(細かい名称はわからない)に宿る南洋太陽の底抜けの明るさと押しの強さでとにかく楽しい。長い旋律が対位法的に絡まっていた所がバッハ的だったのかもしれないが、あまりバッハにこだわるより楽しむが勝ち、と聴いた。

また日本人作曲家に戻り、武満徹の『シグナルズ・フロム・ヘブン』。言わずとしれた名作だが、武満は各パートの音量をどこまで精緻に制御できるか、という至極基本的な所がえらく難しい作曲家だと再認識した。具体的に言うと、全体的にフォルテの「1.デイ・シグナル」で全体から突出してしまうパート、埋もれてしまうパートがあり、音に凹凸があったように聴こえた。「2.ナイト・シグナル」では月光を思わせるタケミツ・サウンドに一分の隙もなく、音(楽)の神秘を存分に味わえた。

プログラム最後は邦楽器以外の奏者が全員参加してのトマジ『典礼風ファンファーレ』。「1.受胎告知」は神話的な壮大なスケールのファンファーレによって神の子イエスの誕生が寿がれる。「2.福音書」ではトロンボーンやホルンが優しく語り、歌い、そして全員でこの世の幸福を奏でる。「3.黙示録」黙示録というとこの世の終わりの戦いと救済、なので筆者の中では凄惨なイメージを持っていたのだが、暗さのない、戦いを鼓舞する軍楽的音楽、そして最後に凱歌。「4.聖金曜日の行列」キリストの受難と刑死の行列を描いたこの楽章が最も重々しく荘厳だった。ドラと軍隊ドラムとティンパニ、そしてチューバの「怒りの日」の定旋律が反復される中、十字架を背負ったキリストが次第に近づいてくる。キリストが磔刑に処せられたのであろうか、全員が強音を張り上げシンバルが鳴り響く。しかしそこからディミヌエンドし、全員で敬虔なコラール的旋律を奏で、全楽器クレシェンドして最高の境地に至り、終曲。ブラス・アンサンブルでここまで神話的なほどスケールの大きな曲があるのか、と、自分の無知を恥じ、それはともかく大きな拍手を。

アンコールではお子さんを授かったトロンボーンの団員がサンドストレム『ロッタの歌』をソロで奏で、次に全員でビョーク『ダンサー・イン・ザ・ダーク』より「序曲」を奏でて終演。最後まで陽光降り注ぐ幸せな演奏会であった。

(2021/11/15)

<pices&players>
J.S.BACH: Brandenburg Concerto No.3-1.Allegro moderato
  Tp: Toshiyuki ONISHI、Shuich KAWATA、Katsuji HAMAGUCHI、Yoshihiko SHIGEI
  Trb: Ko AOKI、Akihiro HIGASHIKAWA、Daisuke OCHI
  B.Trb: Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Jo KISHIGAMI
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
Tamami TONO: “Kei”-Scenes of spirits ~for Brass, Sho, Shakuhachi and Koto
1.Flowers/Spring, 2.Birds/Summer, 3.Winds/Autumn, 4.Moon/Winter
  Tp: Ryo NODA
  Trb: Daisuke OCHI
  Hr: Jo KISHIGAMI
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
  Sho:Tamami TONO
  Shakuhachi:Shozan HASEGAWA
  Koto(Sou):Daigo NAKATA
Miho HAZAMA: Three Celebration Pieces For A New Chapter
1. Fanfare, 2.Song For You, 3.Fireworks
  Tp: Shuich KAWATA、Ryo NODA、Katsuji HAMAGUCHI、Yoshihiko SHIGEI、 Toshiyuki ONISHI
  Trb: Akihiro HIGASHIKAWA、Daisuke OCHI、 Ko AOKI
  B.Trb: Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Jo KISHIGAMI
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
Daniel SCHNYDER: Bach in Cuba – CUBAC
  Tp: Toshiyuki ONISHI、Yoshihiko SHIGEI、Katsuji HAMAGUCHI、Shuich KAWATA、 Ryo NODA
  Trb: Daisuke OCHI、 Ko AOKI
  Hr: Sekitoshi NOBUSUE (Horsh)、Yudai SHOJI (Horsh)、Yu SUZUKI (Horsh)
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
  Timp: Takashi MOKUHITO
  Perc: Ayane KUME、Daiki ISHIKAWA
Toru TAKEMITSU: Signals from Heaven
I. Day Signal
  Tp: Ryo NODA、Shuich KAWATA、Yoshihiko SHIGEI、Toshiyuki ONISHI、 Katsuji HAMAGUCHI
  Trb: Daisuke OCHI、Ko AOKI、Hiroyuki KUROGANE、 Akihiro HIGASHIKAWA
  Hr: Yudai SHOJI Horsh)、Yu SUZUKI(Horsh)
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
II. Night Signal
  Tp: Shuich KAWATA、Yoshihiko SHIGEI、Katsuji HAMAGUCHI、 Toshiyuki ONISHI
  Trb: Daisuke OCHI、 Akihiro HIGASHIKAWA、Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Yudai SHOJI(Horsh)、Yu SUZUKI(Horsh)、Jo KISHIGAMI、Sekitoshi NOBUSUE (Horsh)
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
Henri TOMASI: Fanfares Liturgiques
 1.Annonciation, 2.Evangile, 3. Apocalypse, 4.Procession du Vendredi-Saint
  Tp: Ryo NODA、Yoshihiko SHIGEI、Toshiyuki ONISHI、Shuich KAWATA、 Katsuji HAMAGUCHI
  Trb: Ko AOKI、Akihiro HIGASHIKAWA、 Daisuke OCHI
  B.Trb: Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Jo KISHIGAMI、Yudai SHOJI(Horsh)、Sekitoshi NOBUSUE(Horsh)、Yu SUZUKI(Horsh)
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
  Timp: Takashi MOKUHITO
  Perc: Ayane KUME、Daiki ISHIKAWA
(encore)
Jan Sandström: Sang till Lotta
  Trb soloist: Ko AOKI
  Tp: Ryo NODA、Yoshihiko SHIGEI、Katsuji HAMAGUCHI、Toshiyuki ONISHI、 Shuich KAWATA
  Trb: Daisuke OCHI、 Akihiro HIGASHIKAWA
  B.Trb: Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Jo KISHIGAMI
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
Björk: Overture from Dancer in the Dark
  picc.Tp: Shuich KAWATA
  Tp: Ryo NODA、Katsuji HAMAGUCHI、Yoshihiko SHIGEI、 Toshiyuki ONISHI
  Trb: Daisuke OCHI、 Akihiro HIGASHIKAWA、Ko AOKI、Hiroyuki KUROGANE
  Hr: Jo KISHIGAMI、Yudai SHOJI(Horsh)、Sekitoshi NOBUSUE(Horsh)、Yu SUZUKI(Horsh)
  Tuba: Kazuhiro YAGYU
  Timp: Takashi MOKUHITO
  Perc: Ayane KUME、Daiki ISHIKAWA