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古楽オーケストラ La Musica Collana Baroque Concerto Festival Vol. 8 《ヴェネツィアン・バロック公演》|大河内文恵

古楽オーケストラ La Musica Collana Baroque Concerto Festival Vol. 8 《ヴェネツィアン・バロック公演》
2021年8月11日 豊洲シビックセンターホール
2021/8/11  Toyosu civic center hall

Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by K. Maruyama/写真提供:古楽オーケストラ La Musica Collana 運営委員会

<出演>        →foreign language
古楽オーケストラ La Musica Collana:
ヴァイオリン/ディレクター/ソロ・コンサートマスター:丸山韶
チェロ/サブディレクター/ソリスト:島根朋史
チェンバロ/ソリスト:石川友香理
ヴァイオリン:佐々木梨花、山本佳輝、廣海史帆、阪永珠水
ヴィオラ:高岸卓人
ヴィオローネ:諸岡典経
リュート、ギター:金子浩

<曲目>
ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲 イ短調 RV420
T. アルビノーニ(?):4声のシンフォニア ヘ長調
B. ガルッピ:チェンバロ協奏曲 ハ短調

~休憩~

ガルッピ:4声の協奏曲 第5番 変ホ長調
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 RV242 「和声と創意の試み」Op. 8より第7番
T. アルビノーニ:5声のソナタ(シンフォニア)第1番ト長調 Op. 2-1

~アンコール~

T. アルビノーニ:5声のソナタ(シンフォニア)第3番 Op. 2-3より、第1楽章

 

なんとも摩訶不思議な団体である。La Musica Collana(以下、LMC)の演奏を聴くといつも、LMCらしいなぁと思うのだが、よくよく考えるとヴァイオリンの丸山とチェロの島根以外は完全な固定メンバーではなく、毎回かなり入れ替わっている。にもかかわらず、LMCらしさが失われないのは何故なのか。彼らの演奏を聴きながらずっと考えていた。

ヴィヴァルディのチェロ協奏曲から開始。アンダンテ、アダージョとテンポの遅い楽章が続く間、いまひとつメンバー全体が乗り切れていない。3楽章のアレグロで一転、見違えるように活き活きとLMCらしい音楽が展開されていったのをみると、最初のうちはホールの響きやパート間の調整をしていたのかもしれない。その間ソリストとしてアンサンブルを引っ張った島根がサブ・ディレクターとしての任務を全うしたということか。

2曲目は今年生誕350周年を迎えたアルビノーニ伝のシンフォニア。コロナ禍もあり、昨年・今年とメモリアルイヤーを迎えた作曲家の作品の演奏機会が相対的に減っているなか、これまでアルビノーニを取り上げてきたLMCがプログラムに組み込むのは、ある意味当然といえよう。とはいえ、このヘ長調のシンフォニアは偽作の可能性も示唆されており、メモリアルイヤーに相応しいかどうか疑問が残るところだが、後半最後のアルビノーニ真作とアンコールとで、万全の体制を整えた。

そういった理屈を超えた演奏をこのシンフォニアで聴かせたのはさすが。自在な緩急、のびやかなフレーズ感といったLMCらしさが満開で、文句なしに楽しめ、もはやアルビノーニの作品かどうかはどうでもよくなる。3楽章のトリオ部分でのリュートが心に残った。

前半の最後はガルッピのチェンバロ協奏曲、後半の最初は同じくガルッピの4声の協奏曲。1750年代からオペラ作曲家として人気を博し、ロシア宮廷にも招聘されたガルッピはヴェネツィアのインクラービリ慈善院で教えていたこともあり、協奏曲を始めたとした器楽作品も多いが、少し前の時代にピエタ慈善院で教えていたヴィヴァルディに比べて、演奏される機会が格段に少ない。LMCの演奏で聴くと、当時の人気ぶりが容易にうかがわれる。今後取り上げるべき作曲家であることを確信した。

ここから先は、LMCお得意のヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲、さらにすっかり自家薬籠中の物としているアルビノーニの5声のソナタと一気に駆け抜ける。どの曲目も一般的には“有名な”曲ではないかもしれないが、それが何か?と言いたくなるようなこの高揚感はどこからくるのだろう?

ふと、彼らがまったく「合わせようとしていない」ことに気づく。指揮者のいない小さなアンサンブルで指揮棒に合わせているわけではないのは当然として、協奏曲だからといってソリストに全面的に頼っているわけでもなく、オーケストラでいうコンマスに当たる丸山にみなが合わせているというわけでもない。それぞれが自分の持ち分を発揮していたら自然に合っていたという具合だ。

こういう音楽をどこかで聴いたことがあるなと思ったら、動画などでみかけるヨーロッパの桁外れに巧いアンサンブルがこんな感じだと思い当たり、海外に行かなくても日本でこういうアンサンブルが聞けることの幸せを感じた。さらにいうと、冒頭にふれたように、彼らはメンバーを入れ替えながらも活動を続けている。すでに完成された奏者を寄せ集めたのではなく、伸び盛りの若手のみならず、モダンの奏者として活動しながらピリオド楽器にも活躍の場を広げつつある奏者も受け入れてアンサンブルを作っていくのはそれほど簡単なことではないだろう。それを軽々とやってしまう彼らが、今後どんな音楽が聴かせてくれるのか、楽しみは増えるばかりである。

(2021/9/15)


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Players:
La Musica Collana:
Sho MARUYAMA(violin)
Tomofumi SHIMANE(violoncello)
Yukari ISHIKAWA(organ, cembalo)
Rika SASAKI(violin)
Yoshiki YAMAMOTO(violin)
Shiho HIROMI(violin)
Tamami SAKANAGA(violin)
Takuto TAKAGISHI(viola)
Noritsune MOROOKA(violone)
Hiroshi KANEKO(lute guitar)

Program:
Antonio Vivaldi: Cello Concerto A-minor RV420
Tomaso Albinoni(?): Sinfonia a 4 in F Major
Baldassare Galuppi: Harpsichord Concerto in C Minor

–intermission—

Baldassare Galuppi: Concerto a 4 No. 5 in E-Flat Major
Antonio Vivaldi: Violin Concerto in D Minor, Op. 8, No. 7, RV 242
Tomaso Albinoni: Sonata (Sinfonia) a 5 No. 1 in G Major, Op. 2, No. 1

–Encore–

Tomaso Albinoni: Sonata (Sinfonia) a 5 No. 2 in C Major, Op. 2, No. 3 1st mov