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東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第343回定期演奏会|齋藤俊夫

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第343回定期演奏会
Tokyo City Philharmonic Orchestra the 343rd Subscription Concert

2021年7月28日 東京オペラシティコンサートホール
2021/7/28 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 金子力

<演奏>        →foreign language
指揮:下野竜也
ピアノ:小山実稚恵(*)
コンサートマスター:荒井英治
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

<曲目>
バーバー:弦楽のためのアダージョ 作品11
バーバー:交響曲第1番 作品9
伊福部昭:ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲(*)
  I.ヴィヴァーチェ・メカニコ
  II.レント・コン・マリンコニア
  III.アレグロ・バルバロ

 

下野竜也が指揮棒を振るのと同時にバーバー『弦楽のためのアダージョ』が奏でられ始めた時、筆者は自分の心の中のヒビ、割れ、空洞、そういったものが音楽の潤いで埋められていくように感じた。コロナ禍でさらけ出された現政府の絶望的なまでの無知無為無能無策への怒り、それによって当然感染が爆発的に拡大していく状況への恐怖、自分では政府に対しても感染拡大に対しても何を為すこともできないことへの悔しさと強いられる諦めの念、自分の心はかくも傷ついていたのか。
ダイナミクスのレンジをあまり大きくせず、対位法などのテクスチュアを繊細に聴かせる下野の采配は、音楽を過度に劇的にすることを避けているように感じられた。音楽が泣き叫ぶのではなく、聴衆が自らの心の中の悲しみと向き合い、それが音楽によるカタルシスによって浄化される、そのようなアダージョであった。

同じくバーバーの、単一楽章からなる『交響曲第1番』。これは先のアダージョから一転して感情的・ロマン的な表出が勝る。演奏解釈次第ではシベリウス的に澄んだ音楽にもなる作品だが、今回はヴァーグナー味が圧倒的に強く、つまりかなり濃い味のバーバー。単一楽章が4つの部分に分かれいるのだが、それらの性格が、豪華、軽やか、しっとり、荘重にして劇的、と見事に物語性を伴って奏で分けられ、短くても十分なボリュームの音楽体験ができた。

休憩を挟んで、今回のメインである伊福部昭『ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲』である。下野竜也とピアノの小山実稚恵は日フィルで本作を演奏した経験があり、筆者もそれを聴いた一人である。第1楽章と第3楽章の過激としか言えないオーケストラの強音・ピアノの強打にあっけに取られたものであるが、シティ・フィルとはどのような相撲を見せてくれるのかとワクワクして臨んだ。
第1楽章、ヴィヴァーチェ・メカニコ。これは先のバーバーの交響曲も霞むほどのケレン味溢れる、ダイナミクスのレンジとテンポ・ルバートを大きく取った演奏。機械的(メカニコ)ではなく人間の体温と感情が支配する、ゴテゴテのロマン主義的な伊福部解釈。中間のマーチ的部分は(筆者には)やはり怖く不吉な軍靴の音に聴こえる。
第2楽章、レント・コン・マリンコニア。これは伊福部の北方的感性による寂寥感溢れる楽章。管楽器のソロが多いのだが、シティ・フィルのメンバーが皆見事に北国の歌を唄ってくれ、その伊福部レントに郷愁を掻き立てられることしきりであった。
第3楽章、アレグロ・バルバロ。これは今回の演奏会中最もケレン味の強い音楽であったろう。鳴らす擦る叩く、その馬力が過剰なほどであり、とにかく怒涛の寄り身で突き進む。総譜を今見た限りでは後半のMolto pesanteの指示がある所だと推測するが、それまでかなりのスピードだったのをものすごくリタルダンドした所は「やり過ぎでは」と感じざるを得なかったのも確かである。また全体がffとfffばかりの中、mfの箇所がpくらいに聴こえるほどダイナミクスの幅を取る。そして最後の4分音符を「ジャーーーン!」とロングトーンにした。オケもピアノもしっかりと指揮についていって采配からはみ出る所が聴こえないことからして、下野の演奏したい音楽が実現できたのだと思われるが、伊福部昭のバーバリズムは無茶苦茶乱暴を意味するのではなく、楽譜に忠実に演奏した結果として現れる野趣だと筆者は考えているので、少々、いや、かなり引いてしまったと正直に述べておきたい。と今では言いつつも、終演後は筆者も盛り上がってしまって思い切り拍手をしていたのだが。

また、今回、筆者の記憶と明らかに異なる音がピアノや管楽器の伴奏から幾つか聴こえてきたこと、ピアノのトーン・クラスターの叩き方もまた何箇所か異なっていたことを注記したい。筆者の所持する総譜は日本近代音楽館がデジタル画像で所蔵している、作成者不明の印刷譜であるが、もしかするとこれとは異なる総譜があるのか、それともパート譜と総譜で異同があるのか、あるいは生前の作曲者からの口伝の何かがあるのもしれない。これは今後然るべき調査研究が必要となろう。

澄みきった音楽から、やや濃い目の音楽に繋げ、最後に特濃の音楽を置く、という下野の計算(?)は功を奏したと言えよう。何度下野と小山が舞台脇に下がってもやまない拍手とシティ・フィル団員たちの笑顔がそれを証していた。

(2021/8/15)

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<players>
Conductor: Tatsuya Shimono
Piano: Michie Koyama (*)
Concertmaster: Eiji Arai
Tokyo City Philharmonic Orchestra

<pieces>
S. Barber: Adagio for Strings, Op. 11
S. Barber: Symphont No.1, Op. 9
A.Ifukube: Symphony Concertante for Piano and Orchestra (*)
  I.Vivace meccanico
  II. Lento con malinconia
  III. Allegro barbaro