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大西宇宙バリトン・リサイタル|藤堂清

【浜離宮ランチタイムコンサートvol.204】
大西宇宙バリトン・リサイタル
Onishi Takaoki Baritone Recital

2021年7月20日 浜離宮朝日ホール
2021/7/20 Hamarikyu Asahi-hall
Reviewed by 藤堂清(Kiyoshi Tohdoh)

<出演者>        →foreign language
大西宇宙(バリトン)
筈井美貴(ピアノ)
<プログラム>
レオンカヴァッロ:〈マッティナータ〉
レスピーギ:〈霧〉〈雨〉〈雪〉
マーラー :《さすらう若人の歌》
—————–(休憩)—————–
越谷達之助:〈初恋〉
髙田三郎:〈くちなし〉
小林秀雄 :〈落葉松〉
ヴェルディ:《椿姫》より〈プロヴァンスの海と陸〉
レオンカヴァッロ:《ザザ》より〈ザザ、かわいいジプシー娘よ〉
ロッシーニ:《セヴィリアの理髪師》より〈俺は街の何でも屋〉
————–(アンコール)—————
バーンスタイン:《ウェスト・サイド・ストーリー》より〈マリア〉
古関裕而:〈栄冠は君に輝く〉(全国高等学校野球大会の歌)

 

大西は、2019年セイジ・オザワ松本フェスティバルの《エフゲニー・オネーギン》のタイトルロールに代役として出演、高評価を得た。これが彼の国内で初のオペラ主役。それを機にオペラとコンサートの両面で活躍、さらに海外でも積極的な活動を拡げている。
3年ぶりとなるこのホールでのリサイタル、ランチタイムコンサートということで演奏時間は短め。前半はイタリア語とドイツ語の歌曲、後半は日本歌曲とイタリア語のオペラ・アリアというプログラム構成。
始めの〈マッティナータ〉の厚みのある響きに圧倒される。テノールのリサイタルで聴くことの多い曲、軽めの声で歌われる印象が強いが、大西のしっかりした声、弾みのあるリズムで歌われると、立派に聴こえる。
つづくレスピーギは、歌曲集から水とつながりのある気象に関する3曲。弱声でも響きがやせない大西の特徴の活きる選曲。テノールのような明るいつやがあるともっと聴き応えが増すのではという気もするが、バリトンらしい厚みのある声には別の魅力がある。
マーラーの歌曲集《さすらう若人の歌》、作曲者自身の詩による4曲の歌曲集。オーケストラ伴奏で歌われることが多いが、少し違いのあるピアノとの楽譜もある。イタリア語との違いをあきらかにするように子音の扱いが強めになった。
第1曲<僕の愛しい人が結婚する日>、テンポは中庸、変化をつけることもあまりない。タップリと響きを作っており好ましい。第2曲<今朝、野を歩いた>、早めのテンポでダイナミクスをとって歌っていく。高音域も安定している。表現の幅が広くなったことを感じる。第3曲<僕の胸には赤く焼けたナイフが>ではピアノの荒々しい響きから始まり、早い言葉さばき。何度も繰り返される”O weh!”の表情付け、この曲にふさわしいもの。第4曲<愛しい人の二つの青い瞳>ではゆったりとした歌い方が、そして中間部”Auf der Strasse steht ein Lindenbaum”からの高音を柔らかく歌う。ピアノの充実もあり、聴き応えのある演奏であった。
休憩後の最初のブロックは日本歌曲を3曲。どれも有名なものばかりだが、日本語を歌う大西のイメージがなかったので、お手並み拝見というところ。日本歌曲の場合、文節だけでなく単語も複数の音符で構成されることが多い。若い人はそれを意識して歌う人が増え、日本語の歌唱技術がずいぶん洗練されてきていると感じている。大西もそういった一人と言えるだろう。《初恋》の歌いだしの「砂山の砂に」のような単語の浮き立たせかたに、声の作り方とは別に歌い方を考えていることが伺え、頼もしい。
最後のブロックは彼の声に一番あっているイタリア・オペラのアリア。といっても時代も性格も異なる3曲。なかでも、《ザザ》のアリアの気持ちのこもった歌い口に、この時代の作品への適性を強く感じた。今後の活動の方向性として期待したい。

アンコールは<マリア>。英語は体に染みついているのだろう、伸びやかな歌であった。
2曲目を歌うにあたって、「この夏行われる大きな運動大会といえば、」と言って、間をとり、「甲子園の高校野球ですね。」として歌った。このセンス、筆者は気に入った。

彼はこれから数年間で大いに伸びていくことだろう。それをはっきり示してくれたリサイタルであった。

(2021/8/15)

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<Performer>
Takaoki Onishi, Baritone
Miki Hazui, Piano
<Program>
Leoncavallo: Mattinata
Respighi: Nebbie, Pioggia, Nevicata
Mahler: Lieder eines fahrenden Gesellen
————Intermission————-
Tatsunosuke Koshitani: Hatsukoi
Saburo Takata: Kuchinashi
Hideo Kobayashi: Karamatsu
Verdi: La traviata “Di Provenza il mar, il suol”
Leoncavallo: Zazà “Zazà, piccola zingara”
Rossini: Il Barbiere di Siviglia “Largo al factotum”
—————Encore—————-
Bernstein: West side story “Maria”
Yuji Koseki: Victory shines on you (Songs for National High School Baseball Championship)