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東京二期会オペラ劇場公演 ヴェルディ:《ファルスタッフ》 |藤堂清

《二期会創立70周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場
テアトロ・レアル、ベルギー王立モネ劇場、フランス国立ボルドー歌劇場との共同制作公演
ジュゼッペ・ヴェルディ:《ファルスタッフ》(新制作)
  オペラ全3幕日本語及び英語字幕付き原語(イタリア語)上演
Tokyo Nikikai Opera Theatre/Presented by Tokyo Nikikai Opera Foundation
Coproduction with Teatro Real, Théâtre Royal de la Monnaie, Opéra National de Bordeaux
GIUSEPPE VERDI:FALSTAFF
  Opera in three acts sung in the original (Italian) language with Japanese and English supertitles

2021年7月17日 東京文化会館
2021/7/17 Tokyo Bunka Kaikan
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 西村廣起/写真提供:東京二期会

<スタッフ>        →foreign language
指揮:レオナルド・シーニ1)
演出・衣裳:ロラン・ペリー
演出補:クリスティアン・レート
装置:バルバラ・ドゥ・ランブール
照明:ジョエル・アダン
衣裳補:ジャン=ジャック・デルモット
合唱指揮:佐藤 宏
演出助手:三浦安浩
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:大野徹也

<キャスト>
ファルスタッフ:黒田 博
フォード:小森輝彦
フェントン:山本耕平
カイウス:澤原行正
バルドルフォ:下村将太
ピストーラ:狩野賢一
アリーチェ:大山亜紀子
ナンネッタ:全 詠玉
クイックリー:塩崎めぐみ
メグ:金澤桃子

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

ロラン・ペリーの演出、洒落た感覚の装置や人の動かし方、舞台の色彩とそれを活かす照明、にすっかり惹きつけられた。
舞台の時代設定は市民社会が成熟した時期。ファルスタッフやその配下の者たちは時代遅れで社会的にも外れた存在としてえがかれる。冒頭の居酒屋、極端に狭い空間として始まる。ファルスタッフが偉そうにしていても、それは狭い範囲でしか通用しないということを示しているよう。彼が外部と接触を持とうとするに従って、次第に横に開かれたものとなっていく。多くの人が集う喫茶室のおもむき。

対するフォードの屋敷は縦に高い4層ある建物。女性たちは色は異なるが似たような服。ナネッタとフェントン、恋人たちは最上階にあがっていく。

場面は居酒屋に戻り、クイックリーが来訪、フォードの外出する時間を伝える。ファルスタッフはモノローグ<行け、老いたるジョン>で自らを奮い立たせる。

ファルスタッフ等に対しフォードとその同輩は画一的な服装とヘアスタイル(?)。第2幕第1場でのカーテンを下しての彼のモノローグとそれが上がったとき喫茶の座席を埋めているフォードのクローンたち、この場面の対比に唸る。

おしゃれ(?)をしてフォードの屋敷にやってきたファルスタッフ、アリーチェを口説こうとするところにフォードが仲間と一緒に駆け付ける。洗濯カゴに隠れたファルスタッフは洗濯ものと一緒に川に投げ込まれる。

ずぶ濡れで居酒屋に戻り、嘆いている彼のところに現れたクイックリー、再びの密会を約束させる。その様子を後で見つめる女性とフォードたち。

真夜中のウィンザー公園、フェントンとナンネッタの甘いやり取り、12時の鐘と同時にファルスタッフとアリーチェが登場、そこへ妖精や妖怪に扮した人々が現れファルスタッフをつつき回す。ようやくだまされたと分かったファルスタッフ。

最後の場面で、舞台後方の壁が鏡となり客席を映す。”tutti gabbati”(皆、道化師)聴衆だってそうなんだというメッセージ。

演奏面では、シーニの若々しい勢いのある音楽が魅力。落ち着いた色合いが欲しいところもあるが、初めて振るオーケストラをこれだけまとめる力量は間違いない。30歳の若さ、今後に期待。重唱の多いこのオペラ、歌手のコントロールも見事。
歌手に関しては、多少凸凹あり。黒田のファルスタッフ、あまり遊びはないが、安定感あり。小森のフォード、声自体は少し弱いが、演技にメリハリがあり舞台上の存在感は大きい。女性陣では塩崎のクイックリーが声、演技ともに達者。アリーチェの大山はファルスタッフを手玉に取るところで声に芝居気が欲しい。山本、全の恋人ペアはしっかりした歌。第3幕でのソロもよかった。
変更2)にともない「初日」となったこの日の舞台、たいへん充実したもので、二期会の近年の公演のなかでトップの出来栄えと評価する。

  1. 予定されていた指揮者ベルトラン・ド・ビリー はコロナ禍の中、14日間の待機期間に伴うスケジュールの都合がつかず来日不可能に。代わって、1990年生まれの期待の若手イタリア人指揮者レオナルド・シーニが出演することとなった。
  2. ゲネプロの日にキャストから発熱・陽性者が出たため、初日は中止。その後の公演は、濃厚接触者を除外し、スタッフ、キャストの検査結果次第で実施の可否を当日に判断するという「綱渡り」状態で行われた。

(2021/8/15)

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<STAFF>
Conductor : Leonardo SINI
Stage Director & Costume Designer : Laurent PELLY
Associate Stage Director : Christian RÄTH
Set Designer : Barbara de LIMBURG
Lighting Designer : Joël ADAM
Associate Costume Designer : Jean-Jacques Delmotte
Chorus Master : Hiroshi SATO
Assistant Stage Director : Yasuhiro MIURA
Stage Manager : Hiroshi KOIZUMI
Production Director : Tetsuya ONO

<CAST>
Sir John Falstaff : Hiroshi KURODA
Ford : Teruhiko KOMORI
Fenton : Kohei YAMAMOTO
Dottore Cajus : Takamasa SAWAHARA
Bardolfo : Shota SHIMOMURA
Pistola : Ken-ichi KANOU
Mrs. Alice Ford : Akiko OYAMA
Nannetta : Yong Ok CHON
Mrs. Quickly : Megumi SHIOZAKI
Mrs. Meg Page : Momoko KANAZAWA
Chorus : Nikikai Chorus Group
Orchestra : Tokyo Philharmonic Orchestra