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紀尾井 明日への扉29 樋渡希美(打楽器)|西村紗知

紀尾井 明日への扉29 樋渡希美(打楽器)
Kioi Up & Coming Artists 29 : Nozomi Hiwatashi

2021年7月8日 紀尾井ホール
2021/7/8 Kioi Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by 堀田力丸/写真提供:紀尾井ホール

<演奏>        →foreign language
樋渡希美(打楽器)

石田湧次(打楽器)
高瀬真吾(打楽器)
森山拓哉(打楽器)

<プログラム>
樋渡希美:トーキングドラム in Stuttgart(インプロヴィゼーション)
イグナトヴィチ=グリンスカ:マリンバのためのトッカータ
グロボカール:?身体~ボディ・パーカッションのための
福士則夫:グラウンド~ソロ・パーカッションのための
~休憩~
ベニーニョ、エスペレ、ノワイエ:これはボールではない~音楽劇、マイム、ボディ・パーカッションのための(ソロ・ヴァージョン)
ドビュッシー/樋渡編:月の光
ラヴェル/樋渡編:《クープランの墓》よりプレリュード
三木稔:マリンバ・スピリチュアル op.90~マリンバ独奏と3人の打楽器奏者のための

 

打楽器奏者・樋渡希美のデビューリサイタル。新型コロナウイルス感染症の流行にともない、開催延期や出演者変更を強いられつつもやっと実現された演奏会とあり、心なしか会場は温かな空気で包まれていた。
インプロヴィゼーション、ソロ作品、ボディ・パーカッション及びマイムによるパフォーマンス、そして合奏作品に至るまで、打楽器奏者の幅広いスキルが遺憾なく発揮される演奏会となった。どの作品も真摯に取り組まれており、今後の活躍に期待を抱かせるに十分なものだったといえよう。

前半は各作品を、拍手する間を設けず一続きに上演するスタイル。最初の「トーキングドラム in Stuttgart」は舞台も客席も照明を落としてあるので、誰が鳴らしているのかわからず、どこからともなく音が客席に降ってくる。雨風、鳥の声などの自然音が、3人の共演者と共に行う即興演奏により模倣される。ささら、金属打楽器の音がよく通る。
続いて、舞台下手から樋渡が登場。イグナトヴィチ=グリンスカの「マリンバのためのトッカータ」は、祈りの心情が吐露されるような演奏。冒頭のか細い反復音型は、直前の自然音の模倣の爽やかな音響から、自然とうまく移行してつながっている。
グロボカールの「?身体」は、叫びと痛みの直接的な表現、いや、どこまで直接的な表現は可能かという問いをそのまま作品にしたようなものだった。演奏者は己の骨を打ち、顔を撫でまわし、うめき、下腹部を叩く。これらの行動パターンがそのままドラムセットの各パーツのようになって、作品を構成する。ボディ・パーカッションといういわば肉体への自己言及は、よくよく訓練されているように感じられ、その分観客にある程度合理的な印象を与えるものだったように思う。
福士則夫「グラウンド」は、この日のプログラムのなかで最も「非合理的」な作品であった。それは、演奏者の手や足が直接楽器に触れる際の音色によくあらわれていて、汎アジア的かつ自由即興的な書法は、合理性のほぐれをきたしている。この合理性のほぐれの度合いは、プログラム最初の自然音を模倣するインプロヴィゼーションよりも、グロボカール作品の己の骨や肉を殴打する音よりも、勝っているように思えてならなかった。加えて、足で銅鑼を蹴るところなど非常にかっこよく、ビジュアル的にも優れた作品である。

「これはボールではない」は本来であればトリオ・ヴァージョンでやりたかったと見受けられたが、この日はソロ・ヴァージョン。ボイスパーカッションや録音音源を組み合わせつつ、マイムで想像上のボールを観客に見せるパフォーマンス。ボディ・パーカッションというよりダンス・パフォーマンスといった感じで、続くドビュッシー、ラヴェルの編曲と合わせてみると、広い層の顧客を意識したプログラム構成にしているのだと感じた。会場に子どもたちがたくさんいればよかったのだけれど。
ドビュッシー「月の光」では、マリンバを石田湧次が、ヴィブラフォンを樋渡が担当し、これに対しラヴェル《クープランの墓》のプレリュードはその楽器担当が反対となる。楽器それぞれの残響の長さの違いを利用し、音型を際立たせるところと音響を残すところとを、うまく区別した編曲になっていた。
三木稔の「マリンバ・スピリチュアル」は、プログラム最後を締めくくるにふさわしく、本当に豪奢だ。やはり、中間部以降背後の3人の演奏が加わってくるところ、そしてこの3人の合奏が聴きどころ。この日のプログラム全体に言えることだが、デビューリサイタルということもあってのことか、演奏者冥利に尽きる作品を率先してチョイスしていたように見える。

自らの修業の成果に基づいて忠実に作品を再現している姿が印象的だった。今後はきっと、自身の考え方や音楽が経験に即して相対化されていき、表現がより一層深まっていくに違いない。

(2021/8/15)

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<Artists>
Nozomi Hiwatashi(Perc.)
Yuji Ishida(Perc.)
Shingo Takase(Perc.)
Takuya Moriyama(Perc.)

<Program>
Nozomi Hiwatashi : Talking Drums in Stuttgart (Improvisation)
Anna Ignatowicz-Glińska : Toccata for marimba
Vinko Globokar : ?Corporel for Body Percussionist
Norio Fukushi : Grund for Solo Percussion
~intermission~
Matthieu Benigno, Alexandre Esperet, Antoine Noyer : Ceci n’est pas une balle for body percussion, theatre, and mime (Version solo)
Claude Debussy / Hiwatashi : Suite bergamasque – ‘Clair de lune’ for marimba and vibraphone
Maurice Ravel / Hiwatashi : Le Tombeau de Couperin – ‘Prélude’ for marimba and vibraphone
Minoru Miki / Marimba Spiritual for marimba solo with percussion trio