ジョルジュ・ビゼー:《カルメン》(新国立劇場)|藤堂清
ジョルジュ・ビゼー:《カルメン》<新制作>
オペラ全3幕日本語及び英語字幕付き原語(フランス語)上演
Georges BIZET : CARMEN
Opera in 3 Acts Sung in French with English and Japanese surtitles
2021年7月8日 新国立劇場 オペラパレス
2021/7/8 New National Theatre Tokyo, Opera Palace
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)
<スタッフ> →foreign language
指 揮:大野和士
演 出:アレックス・オリエ
美 術:アルフォンス・フローレス
衣 裳:リュック・カステーイス
照 明:マルコ・フィリベック
<キャスト>
カルメン:ステファニー・ドゥストラック
ドン・ホセ:村上敏明
エスカミーリョ:アレクサンドル・ドゥハメル
ミカエラ:砂川涼子
スニガ:妻屋秀和
モラレス:吉川健一
ダンカイロ:町 英和
レメンダード:糸賀修平
フラスキータ:森谷真理
メルセデス:金子美香
合 唱:新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
舞台は現代の日本。カルメンはステージの主役の歌手、ハバネラをマイクに向かって歌う。それを大きく映し出すビジョン。まわりを警備する制服の警官たち、彼女を目指して集まり、熱狂する聴衆。パイプで組まれたステージとそれを取り囲むやはりパイプの壁。ドン・ホセとの出会いはタバコの火。カルメンの仲間たちの裏の顔は、薬の密売人。
細かい動きまで気配りされている。
ミカエラにちょっかいを出そうとする男性警官たちから守るようにして女性警官が彼女を逃してやる。
第3幕第2場での闘牛士たちの入場の場面は、何かの授賞式に参加するため赤じゅうたんを歩いていく有名人たちという設定、そこに集まり、スマホを向け一緒の自撮りをねだる群衆たち。
ここでの、エスカミーリョの闘牛士の出で立ち、他の人の服装との違いはインパクトがあった。
演出家アレックス・オリエのこういった大胆な読み替え、それをポジティブに捉えるかどうかでこの公演の評価は大きく分かれる。
歌われているあるいは語られる言葉と整合しない場面はあるものの、読み替え演出としての完成度はまずまず。
新国立劇場での《カルメン》のプロダクション、これが4作目になるが、今までのものよりは長く使われるものとなりそうだ。
ただ装置がパイプで大規模に組まれているため、舞台の後方から歌う場合、反射に頼れず、声が前に飛んでこないという不満を感じることがあった。
また、合唱など集団で歌う場面では、コロナ感染防止対策のため、各人が2m以上の間隔をとる規定があるらしく、それまで群衆としてバラバラに動いていたのが、二列三列に整列して歌いはじめる。演出面では制約となった。この方法にどれほどの抑止効果があるのか検証することはむずかしいが、合唱からクラスターが発生する可能性があるといわれており、それを低減する必要はあっただろう。
音楽面では不満を感じた。
どんな演奏でも浮き立つ気分になることの多い前奏曲、しかし音楽が弾まない。オーケストラの音は立派なのだが、厚塗りのニスがかぶせられているようで、ビゼーのキラキラとした輝きを覆い隠している。歌が入ってもその腰の重さは変わらない。そればかりか、大野の指揮が歌手の歌に合わせる傾向が強く、テンポの伸び縮みが大きくなり、音楽から推進力が失われてしまう。
そんな中でも、ステファニー・ドゥストラックのカルメンはさすがの存在感であった。第1幕のハバネラはスター歌手としてステージ上で歌う。リズムを刻むチェロが同じステージに乗っていたという事情もあったからか、テンポやリズムの変化をおおきくとっていた。彼女が比較的自由に歌っていたことが、上記の大野の傾向を増幅してしまったのかもしれない。エスカミーリョのアレクサンドル・ドゥハメルは第2幕の<闘牛士の歌>を舞台の奥で歌わされ、非力な印象を残した。もっともこの歌、実演ではなかなか満足できるものに出会えないが。代役で入った村上敏明のドン・ホセは第3幕でスタミナ切れ。ミカエラの砂川涼子もいつもほどの輝きを感じられなかった。スニガの妻屋秀和やフラスキータの森谷真理が目立つ場面もあり、脇を固める日本人キャストのレベルアップは間違いなく進んでいる。
なお、同じプロダクションで、新国立劇場では「高校生のためのオペラ鑑賞教室」として同時期に、月末には、共催のびわ湖ホールでも、指揮者、キャストを変えて上演された。こちらの状況も知りたいものである。
(2021/8/15)
————————————————————-
<STAFF>
Conductor: ONO Kazushi
Production: Àlex OLLÉ
Set Design: Alfons FLORES
Costume Design: Lluc CASTELLS
Lighting Design: Marco Filibeck
<CAST>
Carmen: Stéphanie D’OUSTRAC
Don José: MURAKAMI Toshiaki
Escamillo: Alexandre DUHAMEL
Micaëla: SUNAKAWA Ryoko
Zuniga: TSUMAYA Hidekazu
Moralès: YOSHIKAWA Kenichi
Le Dancaïre: MACHI Hidekazu
Le Remendado: ITOGA Shuhei
Frasquita: MORIYA Mari
Mercédès: KANEKO Mika
Chorus: New National Theatre Chorus, BIWAKO HALL Vocal Ensamble
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra