Menu

オペラ『Only the Sound Remains -余韻-』|藤堂清

東京文化会館 舞台芸術創造事業〈国際共同制作〉
オペラ『Only the Sound Remains -余韻-』

カイヤ・サーリアホ:オペラ『Only the Sound Remains -余韻-』全2部
 第1部: Always Strong
 第2部: Feather Mantle

2021年6月6日 東京文化会館 大ホール
2021/6/6 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:6月5日(ゲネプロ)

原作:第1部 能「経正」、第2部 能「羽衣」        →foreign language
台本:エズラ・パウンド、アーネスト・フェノロサ
原語(英語)上演 ・日本語字幕付

指揮:クレマン・マオ・タカス
演出・美術・衣裳・映像:アレクシ・バリエール
振付:森山開次
美術・照明・衣裳:エティエンヌ・エクスブライア
音響:クリストフ・レブレトン
舞台監督:山田ゆか

〈出演〉
第1部: Always Strong
 経正:ミハウ・スワヴェツキ(カウンターテナー)
 行慶:ブライアン・マリー(バス・バリトン)
 ダンス:森山開次
第2部: Feather Mantle
 天女:ミハウ・スワヴェツキ(カウンターテナー)
 白龍:ブライアン・マリー(バス・バリトン)
 ダンス:森山開次

管弦楽:東京文化会館チェンバーオーケストラ
 ヴァイオリン:成田達輝 *第5回東京音楽コンクール弦楽部門第1位及び聴衆賞
 ヴァイオリン:瀧村依里 *第3回弦楽部門第1位
 ヴィオラ:原裕子 *第5回弦楽部門第2位
 チェロ:笹沼樹 *第12回弦楽部門第2位
 カンテレ:エイヤ・カンカーンランタ
 フルート:カミラ・ホイテンガ
 打楽器:神戸光徳

コーラス:新国立劇場合唱団
 ソプラノ:渡邊仁美
 アルト:北村典子
 テノール:長谷川公
 バス:山本竜介

 

“Only the Sound Remains”は、サーリアホの4作目のオペラ作品、能を題材に書き上げられた。2016年にピーター・セラーズの演出で世界初演、成功を収めた。
この公演は東京文化会館が舞台芸術創造事業として行うもの。演出家アレクシ・バリエールと振付家森山開次らを起用し、ヴェネツィア・ビエンナーレ等との国際共同制作によるプロダクションで、日本初演である。

オペラは第1部 “Always Strong”、第2部 “Feather Mantle”の二部構成。それぞれ、能の「経正」、「羽衣」が原作。アーネスト・フェノロサの翻訳をもとにしたエズラ・パウンドの英訳が用いられている。
プログラムから第1,2部両者のあらすじを引いておこう。

第1部 “Always Strong”
平家物語の後日談。仁和寺の僧侶行慶が、琵琶の名手だった経正を弔っていると、亡霊が現れ、彼の琵琶「青山」を奏で、昔を懐かしむ。修羅の道へ落ちた姿を恥じた経正は灯火の中に消えていく。
第2部 “Feather Mantle”
三保の松原に住む漁師・白龍が天女の羽衣を見つけ、持ち帰って家宝にしようとするが、天女から返してほしいと嘆願される。白龍は天女の舞を見せてもらう約束と引き換えに羽衣を返す。天女は舞い、富士の峰へと昇っていく。

サーリアホのこれまでの3作のオペラでは規模が大きめのオーケストラが用いられていたが、本作は弦楽四重奏とフルート、打楽器、そしてフィンランドの民族楽器カンテレの7名の奏者、合唱も各パート1名と小編成。
フルート奏者はピッコロ、アルトフルート、バスフルートを持ち替えながら、多くの場面で動きのきっかけを作る。カンテレは基本は指を用いる撥弦楽器だが、ツィンバロムと同じようにスティックを用いて弦を打って音をだすこともある。4機を使い、その間を飛び歩きながら演奏。彼らはともに初演時から参加してきている。この二人による音色の多様性が音楽の全体を決めていたと思える。
ソリスト・クラスの弦楽奏者、打楽器奏者の充実も聞き取れた。

歌手はそれぞれ2名、亡霊、天女というこの世でないものはカウンターテナー、行慶と白龍はバリトン。ダンスの森山開次がそれに加わるが、カウンターテナーの側の動きを補助する、あるいは拡張するもの。
カウンターテナーのミハウ・スワヴェツキに関しては、初演時のP.ジャルスキーの声の厚み、色合いの豊富さと較べると差を感じるが、ホールの大きさを考慮すれば、まずまずの出来と言える。バス・バリトンのブライアン・マリーは前半の行慶では力みが見られたが、後半の白龍では自然な声が会場をうめた。
合唱は言葉を持ちストーリーを進める場面と、オーケストラと一体となり、より多彩な音色を作り出す場合とがある。よく役割を果たしていた。

新制作の演出・振付だが、第1部の経正の登場など音楽との一致がはっきりしており、分かりやすい。一方、ダンスの多用や合唱を舞台にあげるといった流れは説明的にすぎ、効果が大とは言えなかった。
第2部の天女で、ダンスと歌手を表裏一体の存在として動かしていたのは、歌詞の視覚化と聴覚化の融合とでもいうべきもので、こちらは成功していたと思う。
人間世界と亡霊の世界そして天上の世界をどう結び付けるのか、二つの能を使い一つのオペラとした意味を考えさせる演出であれば、聴き手をさらに引き込んでくれたことだろう。

あるオペラ作品が最初の上演だけに終わらず、繰り返し取り上げられていくためには、どんなに成功をおさめた舞台であっても、当初の歌手、演出、演奏者にこだわらず、新制作が行われることが不可欠。このオペラの2番目のプロダクション、それを実現し、国際的な場に問うていくという試みは、オペラの命を活かしていくという意味でも重要なものであった。予定されているヴェネツィアでの上演が行われること、そしてプロダクションとして成熟していくことを期待する。コロナ禍という制約の中、舞台芸術創造事業の国際共同制作として実施したことを評価したい。

(2021/7/15)

第1部: Always Strong

第2部: Feather Mantle

Kaija SAARIAHO & Aleksi BARRIÈRE

—————————————
<Program>
Kaija SAARIAHO: “Only the Sound Remains” (Opera in 2 Parts)
  First Part: “Always Strong”, Second Part: “Feather Mantle”
Original Work
  Noh dramas: “Tsunemasa” (First Part), “Hagoromo” (Second Part)
Libretto : Ezra POUND, Ernest FENOLLOSA
Language and Surtitles : Sung in English with Japanese surtitles.
Music : Kaija SAARIAHO

<Staff>
Conductor : Clément MAO-TAKACS
Direction/Set, Costume, Video Design : Aleksi BARRIÈRE
Choreography : MORIYAMA Kaiji
Set, Lighting, Costume Design : Étienne EXBRAYAT
Original Sound Design and Max Program : Christophe LEBRETON
Stage Manager : YAMADA Yuka

<Cast>
First Part: “Always Strong”
  Spirit: Michał SŁAWECKI (Countertenor)
  Priest: Bryan MURRAY (Bass-baritone)
  Dance: MORIYAMA Kaiji
Second Part: “Feather Mantle”
  Angel: Michał SŁAWECKI (Countertenor)
  Fisherman: Bryan MURRAY (Bass-baritone)
  Dance: MORIYAMA Kaiji
Orchestra : Tokyo Bunka Kaikan Chamber Orchestra
  Violin: NARITA
  Violin: TAKIMURA Eri
  Viola: HARA Yuko
  Cello: SASANUMA Tatsuki
  Kantele: Eija KANKAANRANTA
  Flute: Camilla HOITENGA
  Percussion: KAMBE Mitsunori
Chorus : New National Theatre Chorus
  Soprano: WATANABE Hitomi
  Alto: KITAMURA Noriko
  Tenor: HASEGAWA Tadashi
  Bass: YAMAMOTO Ryusuke