アントニオ・カルダーラ生誕350年記念コンサート 知られざる名曲を求めて 歌劇《オリンピーアデ》と器楽作品|大河内文恵
アントニオ・カルダーラ生誕350年記念コンサート 知られざる名曲を求めて 歌劇《オリンピーアデ》と器楽作品
Concerto per il 350゜ anniversario della nascuta di Antonio Caldara
2021年6月16日 Hakuju Hall
2021/6/16 Hakuju Hall
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by Atsuko Ito(Lasp Inc.)
ダイジェスト動画
https://youtu.be/kcD7iyjz59A
<出演> →foreign language
細岡ゆき(リコーダー、監修、企画制作)
阿部早季子(ソプラノ)
村松稔之(カウンターテナー)
池田梨枝子(ヴァイオリン)
廣海史帆(ヴァイオリン)
中島由布良(ヴィオラ)
島根朋史(チェロ)
佐藤亜紀子(テオルボ、バロック・ギター)
矢野薫(チェンバロ)
中島恵美(リコーダー)
佐々木なおみ(プログラム解説)
<曲目>
A. カルダーラ:3声のソナタ 作品1-4(1693) プレリュード(細岡ゆき作曲)付き
オペラ《オリンピーアデ》第1幕第8場より
リーチダのアリア「お前の眠る間」
シンフォニーア《聖テレンツィアーノの殉教》(1718)
オペラ《オリンピーアデ》第2幕第3場より
アリステーアのアリア「まこと貴女の苦しみは大きいけれど」
~休憩~
A. カルダーラ:オペラ《オリンピーアデ》第3幕第2場より
アリステーアのアリア「愛しい人よ、こんなにも私は貴方のもの」
オペラ《オリンピーアデ》第3幕第3場より
メガークレのアリア「私は喜んで彼の傍にいたのです」
チャッコーナ 室内ソナタ 作品2(1699)より
シンフォニーア・コンチェルタータ
オペラ《オリンピーアデ》第1幕第10場より
アリステーアとメガークレの二重唱「貴女の幸せな日々に」
[ アンコール曲 ]
カルダーラ:オペラ《オリンピーアデ》第3幕第10場より
合唱「生きながらえよ、悪童息子よ」
1670年にヴェネツィアで生まれたカルダーラは、2020年に生誕350年を迎えた。それを記念するこのコンサートは、コロナ禍のため延期ののち1年遅れで開催された。イタリア歌曲集に収められている「たとえつれなくてもsebben crudele」でおなじみではあるものの、ヴィーンの宮廷副楽長として、さらに当時大人気台本作家であったメタスタジオによって書かれた多くのオペラ台本への最初の作曲者として栄華を極めていたはずのカルダーラは、今日では一般にはほとんど知られていない。その作品をまとめて聴ける貴重な機会とばかり、舞台の上にいてもおかしくない人々の顔が客席にみられたことは、この演奏会が非常に注目されたことの証左であろう。
リコーダー奏者細岡の企画ということもあり、通常ヴァイオリン2本で演奏される伴奏が、リコーダー1本とヴァイオリン1本で演奏されたり、通常の弦楽合奏にリコーダー2本が加わったりと珍しい編成で聴けたことも魅力の1つである。最初に演奏された「3声のソナタ」では、急速楽章においてはリコーダーの音が(とくに中音域で)他の楽器に掻き消され気味だったが、第3楽章Adagioではヴァイオリン、テオルボ、チェロ、チェンバロに乗ってリコーダーが朗々とコンサートの幕開けに相応しい響きを奏でていた。
2曲目は人気カウンターテナーのジャルスキーがCD録音していることでも知られ、カルダーラのアリアのなかでは古楽ファンに比較的よく知られたナンバーである。ジャルスキーのCDでもリコーダーと思われる管楽器が入った編成になっているように、ヴァイオリン2、ヴィオラ、テオルボ、チェロ、リコーダー2、チェンバロの精鋭部隊に支えられて、村松の歌唱が冴える。とくにABAの戻ってきたAでのアジリタが圧巻。続くシンフォニーアではリコーダー陣の技巧が耳を引いた。弦楽器のみの編成で聴くときよりも、軽快さが増し、この曲をいっそう魅力的にする。アレンジの勝利であろう。
後半1曲目は前半最後に続いて阿部のアリア。ただし、「まこと」に比べて楽器の数が減り、佐藤はテオルボをバロック・ギターに持ち替えて登場、3拍子のゆったりした曲想はともすればつまらない印象を与えがちであるが、阿部の艶やかな声とともに池田のヴァイオリンと通奏低音陣の支えで聞かせるアリアに仕上げるあたり、ヨーロッパの古楽集団にも劣らない手腕を見せる。
後半2曲め、ジャルスキーのCDで冒頭曲として収録されているメガークレのアリアは、CDの重めのアンサンブルに対し、リコーダーが入っていることもあり器楽陣は軽めで、それが村松の声質によく合っていた。ところどころで若さや粗さも垣間見えたが、それも魅力に変えてしまう村松の声とそれを全力で支える器楽奏者たちの絆が見えた演奏であった。
チャッコーナでは再びテオルボに持ち替えた佐藤の固執低音に乗って、チェロとリコーダーが妙なる響きを奏でる。アンサンブルの醍醐味ここにあり。そして、次のシンフォニーア・コンチェルタータからが本日の真骨頂。技巧もアンサンブル力も兼ね備えた奏者が集まると、無理に合わせようとしなくても自然に合っていて、丁々発止の遣り取りに、聴いているこちらも心躍る。
最後の二重唱は、少し手前のレチタティーヴォから演奏されることにより、この二重唱がどのような場面で歌われるかがよくわかり、効果的だった。レチタティーヴォの最後のメガークレ(村松)の「さようならAddio」の悲痛さが沁み、嘆き悲しみと苦悩とを美しく歌い上げる二重唱を決定づける。
アンコールは第3幕終わりの合唱曲。とはいっても、モーツァルト以降のオペラに見られるような大団円の長大な曲ではなく、スコアではたった5ページで前奏もないような小さな曲である。これをまず1回目は楽器のみ、2回目は阿部のソロ、3回目に二重唱、さらに4回目は斉唱と趣を変えて繰り返すことにより、長さを確保するだけでなく、このアンサンブルの魅力を凝縮して提示し直した。
メタスタジオの《オリンピーアデ》は、ペルゴレージ作曲のものが日本ではよく演奏されているが、カルダーラの《オリンピーアデ》もそれに劣らず魅力的であることが今回の演奏会で示されたと思う。600頁にも及ぶスコア(おそらくガーランド社から出版された手稿譜)を研究した細岡の労に応えるためにも続く企画を期待したい。
この時代のオペラは宮廷で上演されていたこともあり、一見素朴に見える譜面をしており、それを音楽として成立させられる奏者がいなければ上演することが難しい。それを実現できる奏者が次々と出てきていることは喜ぶべきことで、機は熟しつつあるといえよう。
(2021/7/15)
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Players:
Yuki HOSOOKA (recorder, supervisor, planner)
Sakiko ABE (soprano)
Toshiyuki MURAMATSU(countertenor)
Rieko IKEDA(violin)
Shiho HIROMI(violin)
Yura NAKAJIMA(viola)
Tomofumi SHIMANE(violoncello)
Akiko SATO(Theorbo, baroque guitar)
Kaoru YANO(cembalo)
Emi NAKAJIMA(recorder)
Naomi SASAKI(program)
Program:
Antonio Caldara: Sonata à tre Op. 1 Sonata Quarta Preludio(Yuki HOSOOKA)
L’Olimpiade atto primo, scena ottava: Aria di Licida “Mentre dormi”
Sinfonia “Il martirio di S. Terenziano”
L’Olimpiade atto secondo, scena terza: Aria di Aristea “Grandi, è ver, son le tue pene”
–intermission–
Antonio Caldara: L’Olimpiade atto terzo, scena seconda: Aria di Aristea “Caro, son tua così”
L’Olimpiade atto terzo, scena terza: Aria di Megacle “Lo seguitai felice”
“Chacona” da Sonata da camera Op. 2
“Sinfonia Concertata”
L’Olimpiade atto primo, scena decima:Duetto di Aristea e Megacle “Ne’ giorni tuoi felici”
[ Encore ]
Antonio Caldara: L’Olimpiade atto terzo, scena decima:Coro “Viva il Figlio delinquente”