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小菅 優プロデュース 武満 徹「愛・希望・祈り」|藤堂清

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2021
小菅 優プロデュース 
武満 徹「愛・希望・祈り」~戦争の歴史を振り返って~ Ⅰ
Suntory Hall Chamber Music Garden 2021
Two Evenings of Chamber Music:
Composed by Toru Takemitsu and Produced by Yu Kosuge Ⅰ

2021年6月15日 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
2021/6/15 Suntory Hall Blue Rose (Small Hall)
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:サントリーホール

<出演者>        →foreign language
ピアノ:小菅優
ヴァイオリン:金川真弓
チェロ:ベネディクト・クレックナー
クラリネット:吉田誠

<曲目>
武満徹:《2つのメロディ》より 第1曲〈アンダンテ〉
武満徹:《カトレーンⅡ》
—————-(休憩)—————–
メシアン:《世の終わりのための四重奏曲》

 

毎年恒例のサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン、そのなかでピアニストの小菅優がプロデュースし、自ら出演したコンサート。「武満 徹「愛・希望・祈り」~戦争の歴史を振り返って~ 」というタイトルのもと、武満、メシアン、アイヴズ、ショスタコーヴィチの曲による二夜のコンサートが行われた。

このタイトルと曲目について、小菅自身が想いを書いている。

(前略)このように危機に至り私たち人々のふれあいが少なくなってしまったとき、人の心にとって音楽がどれだけ尊いものか、ということにも気づかされ、改めて社会においての音楽の位置、そして文化の必要性について考えさせられています。

コロナ禍で不要不急とされ、活動が制限されてきた音楽家としての気持ちが伝わってくる。

この日は、メシアンの大曲《世の終わりのための四重奏曲》をメインとし、武満の《カトレーンⅡ》を前半に置くプログラム。どちらもクラリネット+ピアノ三重奏という同じ編成の作品。
メシアンの曲は、戦争のさなか、1941年に作られ、ドイツ軍の捕虜収容所で初演された作品。戦争という極限状況のなかでも、音楽を作り演奏するという活動が行われていたことを示すもの。8楽章からなり、それぞれにキリスト教に関わるタイトルが付けられている*)
第3楽章の〈鳥たちの深淵〉はクラリネットの独奏(吉田の技巧と歌い口が聴きもの)、第4楽章〈間奏曲〉はヴァイオリン、クラリネット、チェロの三重奏(金川の厚みのある響きが際立つ)、第5楽章〈イエスの永遠性への賛歌〉はチェロとピアノの二重奏、と異なる編成を持つが、全体としてある楽器が中心となるというような差異はなく、室内楽としてよいバランスを保っている。この日の演奏、第6楽章〈7つのトランペットのための狂乱の踊り〉では、4人がそれぞれにソリストとしての技術を示すとともに、互いに合わせる点でも卓越していることをみせた。音楽の骨格を作っているのはピアノであり、小菅が多くの場面で引っ張っていた。

プログラムの1曲目は武満の最初期のピアノ曲、小菅のピアノでやわらかな雰囲気で始まったが、そのまま《カトレーンⅡ》へ入っていく。クラリネットのソリスティックな動き、弦楽器の歌、そしてピアノの鋭いタッチ。威圧するようなところはないが、緊迫感の切れない時間が続く。クラリネットの吉田、ヴァイオリンの金川のソリストとしてのすぐれた力量がわかるが、4人のバランスの取り方も見事であった。
武満の場合、創造活動が直接戦争の影響を受けたということはなかったであろうが、戦時中に聴かせてもらった〈パルレ・モワ・ダムール〉がそれまで知らなかった音楽の世界へ導き、作曲家となるきっかけになった。

文化活動がコロナにより大きな影響を受け続けている今日、かつての自由の制約されていた戦争の日々を思い、忘れまいとしている音楽家がいることに希望を感じた。

*)メシアン:《世の終わりのための四重奏曲》
  1.水晶の典礼
  2.世の終わりを告げる天使のためのヴォーカリーズ
  3.鳥たちの深淵
  4.間奏曲
  5.イエスの永遠性への賛歌
  6.7つのトランペットのための狂乱の踊り
  7.世の終わりを告げる天使のための虹の混乱
  8.イエスの不滅性への賛歌

(2021/7/15)

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<Performers>
Piano: Yu Kosuge
Violin: Mayumi Kanagawa
Cello: Benedict Kloeckner
Clarinet: Makoto Yoshida

<Program>
Takemitsu: No. 1 “Andante” from “Two Melodies”
Takemitsu: “Quatrain Ⅱ”
————–(Intermission)————-
Messiaen: “Quatuor pour la fin du temps”