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Salicus Kammerchor 第6回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol. 1 巨匠たちの系譜~フランドルからイタリア、そしてドイツへ|大河内文恵

Salicus Kammerchor 第6回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol. 1 巨匠たちの系譜~フランドルからイタリア、そしてドイツへ
Salicus Kammerchor 6th regular concert

2021年5月16日 千葉市生涯学習センターホール+ライブ配信
2021年5月21日 豊洲シビックセンターホール
2021/5/16 Chiba City Lifelong Learning Center Hall
2021/5/21  Toyosu Cultural Center Hall

Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by TAKUYA NIIMURA /写真提供: Salicus Kammerchor(撮影:千葉公演)

<出演>        →foreign language
ソプラノ/金成佳枝 鏑木綾 徳田裕佳 中須美喜
アルト/相澤紀恵 岩渕絵里 上村誠一 富本泰成
テノール/金沢青児 菊地海杜 佐藤拓 柳嶋耕太
バス/井上優 渡辺研一郎 西久保孝弘 松井永太郎
通奏低音/新妻由加(オルガン) 角谷朋紀(ヴィオローネ)

<曲目>
グレゴリオ聖歌 「キリエ 善きことの泉」ミサ通常唱2番
ジャン・ムトン:「グロリア」ミサ〈あなたの考えを教えて〉
アドリアン・ヴィラールト:「クレド」ミサ〈羊飼いたちとともに探し求めよう〉
ハインリヒ・シュッツ:「キリエ、永遠の父なる神」SWV 420
H. シュッツ:「神にあらゆる栄光と賛美がありますように」SWV 421
H. シュッツ:「唯一の神を信じます」SWV 422

~休憩~

グレゴリオ聖歌 「主よ、全ての目はあなたを待ち望みます」
ニコラ・ゴンベール: 主よ、全ての目はあなたを待ち望みます
ハインリヒ・シュッツ:主よ、全ての目はあなたを待ち望みます SWV 88-90

オルランド・ディ・ラッソ:主よ、私の言葉をお聞きください
カルロ・ジェズアルド:主よ、私の言葉をお聞きください
ハインリヒ・シュッツ:主よ、私の言葉をお聞きください SWV 61-62

クレメンス・ノン・パパ:私は眠っていますが、心は目覚めています
クラウディオ・モンテヴェルディ:私は眠っていますが、心は目覚めています
ハインリヒ・シュッツ:私は眠っていますが、心は目覚めています SWV 63

ジョヴァンニ・ガブリエリ:主に向かいて新しき歌を歌え
ヒエロニムス・プレトリウス:主に向かいて新しき歌を歌え
ハインリヒ・シュッツ:主に向かいて新しき歌を歌え SWV 81

 

プログラミングの精度というのは、公演全体の完成度に大きな影響を与える。演奏する曲の時代やジャンルが馴染みのないものであればあるほど、重要度が増す一方、馴染みの薄い時代やジャンルでは、プログラミングがコンサートの成否に決定的に作用する。

J.S.バッハのモテット全曲シリーズを完結させたサリクス・カンマーコアが次に選んだ作曲家はシュッツである。西洋音楽史にある程度通じている向きには、17世紀にドレスデンで活躍した音楽家であるとか、イタリア様式をドイツに持ち込んだ張本人であるくらいは知られているが、その作品をすぐに思い浮かべることはそれほど簡単ではない。

全4回のシリーズとして企画された第1回である本日は、「巨匠たちの系譜」と称し、シュッツが師事したジョヴァンニ・ガブリエリを参照点として、グレゴリオ聖歌からイタリアの作曲家たちを通してシュッツへ流れ込む、その道筋を示すもの。

前半は、ジョヴァンニ・ガブリエリのおじであり師でもあったアンドレア・ガブリエリ、その師アドリアン・ヴィラールト、さらにその師ジャン・ムトンと師弟関係を遡り、グレゴリオ聖歌のキリエからミサ通常文の順にムトンのグロリア、ヴィラールトのクレドと、時代とミサの順路を同時に追いかける形となる。

単声のグレゴリオ聖歌から、4度や5度の響きの多い中世の趣を残したムトン、3度の響きが増えルネサンス的なヴィラールト(crucifixusの部分のみ古風な響きがする)と、時代の移り変わりが自然に感じられる仕組みになっていた。

同じキリエ・グロリア・クレドの道筋を、次にシュッツで辿っていくと、まず歌詞がドイツ語であることに心理的に驚き、オルガンとヴィオールが加わることもあって、とても身近な感じがする。と同時に、先人たち(イタリアの作曲家)からシュッツへの流れの延長線上にJ.S.バッハの音楽があるのだと、すとんと腑に落ちた。

後半は、4曲のシュッツの曲を、それぞれ同じ歌詞をもつ先人2人の作品に続いて演奏するという凝った構成。先人2人は時代順に並んでおり、1人目⇒2人目⇒シュッツと時代が下っていくのがよくわかる。2周目に入ったとき、「せっかく進んできたのに戻っちゃった」と思ったことに我ながら驚く。そして2周目のシュッツでは、1周目のシュッツを聴いた後だというのに、やはり新鮮に「新しい!」と思えることにさらに驚く。

時代が進みシュッツまで行ったら戻る、を繰り返しているうちに1周ごとに耳がリセットされる感覚に慣れてくる。そして毎回毎回、「シュッツって新しい!」とまるで当時の人の耳になったかのように感じられるのが面白くてたまらない。

シュッツ以外の作曲家はそれぞれ個性的で、そのなかでもモンテヴェルディはオペラの一場面のような演劇性が感じられた。後半で演奏されたシュッツの曲はすべてカンツィオネス・サクラOp. 4におさめられているラテン語の聖歌であるが、Op. 4を通して聴いたときには見えてこない先人からの道筋がみえてきて興味深い。最後にリモート・アンサンブルでも歌われたカンターテ・ドミノが歌われて公演は閉じられた。

オンラインでこれだけ楽しめたのはプログラミングの力が大きいのだろうが、これを実際に会場で聴いたらもっと面白かったのだろうと悔しい思いをした。次は会場で。

 (2021/6/15)

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Program

Gregorian chant “Kyrie fons bonitatis” Ordinarium missae II
Jean Mouton (1459-1522):“Gloria” Missa Dictes moy toutes voz pensees
Adrian Willaert (ca1490-1562):“Credo” Missa Quaeramus cum pastoribus
Heinrich Schütz (1585-1672): “Kyrie, Gott Vater in Ewigkeit” SWV 420
“All Ehr und Lob soll Gottes sein” SWV 421
“Ich gläube an einen einigen Gott” SWV 422

–intermission–

Gregorian chant Graduale “Oculi omnium in te sperant, Domine”
Nicolas Gombert:“Oculi omnium in te sperant, Domine”
Heinrich Schütz:“Oculi omnium in te sperant, Domine” SWV 88-90

Orlando di Lasso (1532-1594): “Verba mea auribus percipe, Domine”
Carlo Gesualdo(1566?-1613): “Verba mea auribus percipe, Domine”
Heinrich Schütz: “Verba mea auribus percipe, Domine” SWV 61-62

Clemens non Papa(1510/15-1555/56): “Ego dormio,et cor meum vigilat”
Claudio Monteverdi: “Ego dormio,et cor meum vigilat”
Heinrich Schütz: “Ego dormio,et cor meum vigilat” SWV 63

Giovanni Gabrieli (ca1553-1612): “Cantate Domino canticum novum”
Hieronymus Praetorius(1560-1629): “Cantate Domino canticum novum”
Heinrich Schütz: “Cantate Domino canticum novum” SWV 81