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NHK交響楽団5月公演|谷口昭弘

NHK交響楽団5月公演 東京芸術劇場
NHK Symphony Orchestra May Concerts at Tokyo Metropolitan Theatre

2021年5月22日
2021/5/22 Tokyo Metropolitan Theatre

Reviewed by 谷口昭弘 (Akihiro Taniguchi)
写真提供: NHK交響楽団(撮影:5/21公演)

<演奏>        →foreign language
指揮:原田慶太楼
バンドネオン:三浦一馬
管弦楽:NHK交響楽団
<曲目>
グアルニエーリ:弦楽器と打楽器のための協奏曲 [日本初演]
ピアソラ:バンドネオン協奏曲「アコンカグア」
(Soloist Encore)
佐藤直紀:大河ドラマ『青天を衝け』「大河紀行」の音楽
(休憩)
ヒナステラ:協奏的変奏曲 作品23
ファリャ:バレエ組曲「三角帽子」第1番

 

ラテン・アメリカを中心に据えた濃厚な選曲のコンサート。しかし決して胸焼けするものではなく、終わりには爽快感が残った。
ブラジルの作曲家グアルニエーリの弦楽器と打楽器のための協奏曲は、積極的に攻めていかないと背後に振り落とされそうなパワフルなリズムに心が躍る。その複雑なリズムは演奏する側にもかなりの緊張をもたらしそうなのだが、聴いている方にそういった恐れのようなものは伝わらず、むしろ要所要所でパート間を行き来するリズム・パターンを楽しみつつ、引き締まった流れが展開されていた。第2楽章では中間部の優しい旋律が膨らみ、無骨ながらも誠実な叙情が溢れた。第3楽章には打楽器の噛み付くリズムにアフリカらしさを聞いた。北米ではアングロ・サクソン系に抑圧されたアフリカのドラミングが、ことラテン・アメリカで息づいていたのだろうという思考を巡らした。
ピアソラのバンドネオン協奏曲では、このアルゼンチンの楽器の、音がぐっと膨らんでさっとしぼむ独特のアゴーギクやギローの音が醸し出す異世界感に取り込まれる。三浦一馬が奏でるバンドネオンは、オーケストラの上域にほんのりとした間接照明を添え、溶け合っていく。香り高いカデンツァではふいごから送り出される息の加減によって自在なニュアンスが生まれ、時にはホール内の空間を貫くように鋭く旋律を奏でたと思えば、うっすらした和音に細やかな装飾を交えた歌を乗せることもあった。第2楽章は、そのようなバンドネオンの表現力を冒頭からじっくりと味わい、そこにオーケストラによる和音的な支えが点的に(ハープ)・線的に(弦楽器群)与えられる。後半はこういった和音的支えを行っていた人たちが全体を導き、バンドネオンも気持ちよく、その流れに麗しい旋律を乗せていった。
第3楽章は思わず飛び出す三浦のフット・ストンピングも伴うパンチの効いたアクセンが豪勢な弦楽にグルーヴを与える。そして緊張の持続と弛緩の移り変わるなかで最後は「うねり」が堆積し、力強い印象を残した。
コンサートの後半は、ギターを模したハープに誘われるように、独奏チェロがヒナステラの協奏的変奏曲を神秘的に始めた。この「語り」の部分はリムスキー=コルサコフの交響組曲《シェエラザード》にも似た物語の外枠の最初の部分といえるだろうか。瞑想的な深まりもそこにはある。その後はN響の名手たちが変幻自在に各変奏曲を綴っていく一方で、大まかには3楽章形式の第2楽章(第6セクション)、第3楽章(第10セクション) という意識を明確に感じさせる。これは原田の采配から感じられる構成感なのだろうか。第11セクションはそのような協奏曲のながれが一段落した後の、冒頭の「語り」の終わりの部分、そして民族舞曲風の終曲は、映画のエンディング・クレジットで出演者の名前を知らせるように、作品の立役者たちを鮮やかに引き立てた。
締めくくりの一曲、ファリャのバレエ組曲《三角帽子》第1番を原田は颯爽と聴かせた。しなやかなダイナミクスや歯切れの良さが一方に、ふくよかな響きと艶めかしい音色が他方に。上品に振る舞わないからこそ得られる華美なオーケストラが、予定調和的な組曲第2番にはないドラマを実感させる。もちろん第2番の方が客を呼び込めるかもしれないが、あえてそうしないことによりコンサート全体のまとまりが得られ、一貫性が生まれたといえるのではないだろうか。
スタンダード・レパートリーに縛られないコンサートは、指揮者のカラーが味わえるという点からも実に楽しい。またこんな経験のできる公演に出会いたい。

(2021/6/15)

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<Performers>
Keitaro Harada, conductor
Kazuma Miura, bandoneon
NHK Symphony Orchestra

<Program>
Guarnieri: Concerto for String Orchestra and Percussion [Japan prermière]
Piazzolla: Bandoéon Concerto “Aconcagua”
(Soloist Encore)
Naoki Sato: “Music of Taiga Kiko” from TV series Seiten wo Tsuke
(Intermission)
Ginastera: Variaciones Concertantes, Op. 23
Falla: “El sombrero de tres picos,” Ballet Suite No. 1