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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第167回|齋藤俊夫

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第167回
MUZA Kawasaki Symphony Hall & Tokyo Symphony Orchestra
The Masterpiece Classics Series No.167

2021年5月15日 ミューザ川崎シンフォニーホール
2021/5/15 MUZA Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 青柳聡/写真提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

<演奏>        →foreign language
指揮:大植英次
ピアノ:北村朋幹(*)
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
管弦楽:東京交響楽団

<曲目>
武満徹:『鳥は星形の庭に降りる』
バルトーク:ピアノ協奏曲第1番 Sz.83(*)
(ソリスト・アンコール)
ショパン:マズルカ第27番ホ短調 op.41-2(*)
ブラームス:交響曲第2番ニ長調 op.73

 

武満徹『鳥は星形の庭に降りる』、ふわぁっとしたイントロから次第に音が集まってきて、最初のフォルティシモに至った時、「あれ、何かが違う」と感じてしまった。武満が夢の中で見た鳥はこんなに角張った飛び方をしていたはずがない。皆リズムの縦の線を合わせるのに手一杯で、オーケストラ全体でタケミツ・トーンを作る段階まで達していない。見れば大植英次の指揮する姿も、足から頭までほとんど全身がこわばり、腕から先だけで拍子を取っている。うーむ、違う、この武満は違う、と思い続けてしまった。

バルトークピアノ協奏曲第1番、第1楽章でこれまた「あれ、何かが違う」と感じざるを得ず。北村朋幹のピアノは本作にしては異常なほど色っぽく、なまめかしいが、打楽器的に楽器を叩きつける所は全く容赦無い。異端と正統が混じったピアノである。だがそれと呼応するはずのオーケストラ全体でどんな音楽を形作るかが定まっておらず、それぞれの奏者がどんな音を出せば良いのか迷い続け、結果としてソリスト北村の独壇場となり協奏曲的楽しみが味わえない。
第2楽章、3拍子で止まっているのか進んでいるのかわからない、バルトーク的知性感性が要求されるところも、悪い意味で「譜面そのまま」で、音楽的緊迫感とは程遠い。
そして怒濤の進撃の第3楽章。北村が兎に角荒ぶる荒ぶる。ピアノ1台でオーケストラ全てを呑みこんでしまった。ある意味気持ちいい弾きっぷりだが、オーケストラは何をするためにいたのか。ソリストとオーケストラを協奏させるはずの指揮者大植の指揮はまた腕だけで拍子を取るので精一杯に見えた。

本公演は当初は指揮:ジョナサン・ノット、ソロ・ピアニスト:ピエール=ロラン・エマールが予定されていたのだが、コロナ禍により急遽大植英次と北村朋幹が代打として登場したものである。武満とバルトークを代打で振り、奏するのはかなりの無理があったと見るべきだろう。

最後のブラームス交響曲第2番、暗譜で臨んだ大植の体の使い方・柔らかさが前半2曲とまるで違い、第1楽章のイントロの時点で心掴まれた。つま先から指先、頭の天辺まで使って優雅に踊るように指揮をする。拍を取ることなどもはや無用といった感じでゆらゆらと体を揺らしたり、強調するパートを指差すだけの所まである。オーケストラはブラームスのメロディーを絶妙な〈曲線〉で描き、連続的に繋げていく。オーケストラの音空間のスケールが先の2作品と比較して俄然大きい。
第2楽章では美しい緑の平原が地平線まで広がっているような、筆者が実際には見たことのない景色のビジョンが目に浮かび、その美しさに少し泣きそうにすらなってしまった。
オーボエが先導する第3楽章、のどやかな音楽に身を委ね、快速の部分でもそのリズムと心が一体となる。テンポ・ルバートが其処此処であったのだが、完全に自然でクドかったりする所は皆無。
かなり音を絞って開始した第4楽章、第1主題がフォルテシモで登場した時の爽快感!弦楽による第2主題の堂々たる貴族的貫禄!ブラームスとは、オーケストラとはこんなに美しいものだったか?最後の勝利のファンファーレまで万全の横綱相撲であった。
前半こそ物足りなかったものの、後半のブラームスで、いつまで続くのかわからない果てしないコロナ禍の中、心が思い切り深呼吸することができた。

(2021/6/15)

 

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<players>
Conductor: Eiji Oue
Piano: Tomoki Kitamura(*)
Concertmaster: Gleb Nikitin
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra

<pieces>
Toru Takemitsu: A Flock Descends into the Pentagonal Garden
Béla Bartók: Piano Concerto No.1, Sz.83(*)
(Soloist encore)
Fryderyk Chopin: Mazurka No. 28 in B Major, Op. 41, No. 2
Johannes Brahms: Symphony No.2 in D major, Op.73