三善晃へのトリビュート|齋藤俊夫
三善晃へのトリビュート
Tribute to MIYOSHI
2021年4月9日 サントリーホールブルーローズ
2021/4/9 Suntory Hall Blue Rose
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<曲目、演奏> →foreign language
(全て三善晃作品)
組曲『会話』(1962)
1.やさしいお話
2.よかったね、あれ…を何回も
3.いつまでもくやしい
4.生返事ばっかり
5.辻褄の合わない報告
マリンバ独奏:加藤訓子
『トルスIII』独奏マリンバのための(1968)
マリンバ独奏:加藤訓子
『リップル』独奏マリンバのための(1999)
マリンバ独奏:加藤訓子
『弦の星たち」独奏ヴァイオリンと弦楽合奏(1991)
独奏ヴァイオリン:野口千代光
弦楽:アンサンブル・ノマド
指揮:中川賢一
『マリンバと弦楽合奏のための協奏曲』(1969)
独奏マリンバ:加藤訓子
弦楽:アンサンブル・ノマド
指揮:中川賢一
武満徹の音楽を語る際に「タケミツ・サウンド」という単語が使われることがあるように、三善晃の音楽にも「ミヨシ・サウンド」と言うべきものはあると筆者は考えている。だが、「サウンド」を様々な音が同時的に合わさっての音色・音響と捉えると、マリンバのような同時に4つ程度(場合によっては6つくらいのマレットを使うこともあるが)しか音が出せない楽器の独奏では、「ミヨシ・サウンド」を作ることは難しい。それでも加藤訓子の手にかかると、マリンバの経時的な音による「ミヨシ・サウンド」が感じられるのだ。
まず組曲『会話』では、子供たちの内緒のささやきのような「やさしいお話」、軽快に飛び跳ねる「よかったね、あれ…を何回も」、速いテンポで苛立つようにマリンバが打たれる「いつまでもくやしい」、淡いロールと輪郭のはっきりしたパッセージがすれ違う「生返事ばっかり」、とぼけるように、おどけるように走り去る「辻褄の合わない報告」とマリンバ1台で多彩な音楽を聴くことができた。
全4部が切られることなく演奏される『トルスIII』、最初の “Thèse” のフレーズごと、いや、1音ごとの加藤の音色が多彩で的確なことに驚かされる。続いての “Chant” では重めのマレットを用いての弱音ロールで、霧の中を歩いているような不安な雰囲気。 “Commentaire” の、おそらく多声部書法で書かれたとんでもなく複雑な音楽はまさに「ミヨシ・サウンド」マリンバ版。 “Syntèse” はまた重めのマレットでの弱音ロールだと思いきや突発的に強打高速で駆け抜け、最後はロールでディミヌエンドして消えゆく。実に、三善晃だ。
『リップル』、求心力のある音高が1つあり、それを中心に音が展開される序盤。ここでも加藤の音量・音色の多彩さは健在である。弱音でのロールによる和音がひそやかに、しかし謎の和声進行で紡ぎ出される中盤ときて、最低音域でリズミカルな音楽が奏でられ始め、音高の上昇と共に音量もクレシェンドしてゆき、複雑な民俗舞曲とでも言うべき終盤に至る。「イヤッ!」「ハッ!」「エー!」などの掛け声と共に乱舞する加藤。最後はごく小音で終わるかと見せて、跳ねるような強打での経時的ミヨシ・サウンドで終曲した。
アンサンブル・ノマド弦楽メンバーによる『弦の星たち』となると、冒頭から同時的ミヨシ・サウンドが厳しくこちらの耳に届く。ホールのせいか、ややソリストの野口千代光の音の響きが弱く聴こえた感もあるが、カデンツァでのナニモノカに引き裂かれるような叫びは圧巻。10分弱の作品とは思えないほど凝縮された三善世界に呆気にとられ、圧倒された。
最後を飾った『マリンバと弦楽合奏のための協奏曲』、マリンバの高音域弱音でのロールと低弦が不吉な、というより三善的な響きを奏でて始まる。マリンバのソロに引き出されるように弦楽が同時的ミヨシ・サウンド(音響)による経時的ミヨシ・サウンド(旋律・伴奏)を奏する。一旦全楽器が弱音となり、鬱々とした響きが続いたかと思えば、ミヨシ・サウンド・フォルテシモ・プレストの始まりを告げるようなフレーズがとどろき、全楽器が強烈な音楽を会場内に充満させる。しかしまた静かな、されど緊張感に満ちたマリンバ独奏が続き、それを弦楽が包み込むように響くかと思えば、またミヨシ・サウンド・フォルテシモ・プレストで全楽器が吠え、終曲に至った。
加藤訓子とアンサンブル・ノマドの三善読解・再現の的確さによって今回のあるときは強靭な、あるときは繊細な響きが作り上げられた。これほどの三善晃にはなかなか出会えないだろう。演奏会に携わった全ての人に感謝を。
(2021/4/15)
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<pieces & players>
(All pieces are composed by Akira Miyoshi)
Suite for Marimba “Conversation” (1962)
1. Tender Talk
2. So Nice It Was … Repeatedly
3. Lingering Chagrin
4. Again the Hazy Answer!
5. A Lame Excuse
marimba soloist: Kuniko Kato
TORSE III for Marimba Solo (1968)
1. Thèse
2. Chant
3. Commentaire
4. Syntèse
marimba soloist:Kuniko Kato
RIPPLE for Marimba Solo (1999)
marimba soloist:Kuniko Kato
Etoiles à cordes (1991)
violin soloist: Chiyoko Noguchi
string ensemble: Ensemble NOMAD
conductor: Kenichi Nakagawa
Concerto for Marimba and String Ensemble (1969)
marimba soloist:Kuniko Kato
string ensemble: Ensemble NOMAD
conductor: Kenichi Nakagawa