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東京・春・音楽祭2021 ベンジャミン・ブリテンの世界 番外編 & イタリア~狂熱のバロック歴遊|大河内文恵

♪東京・春・音楽祭2021 ベンジャミン・ブリテンの世界 番外編 20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像
Spring Festival in Tokyo 2021 The World of Benjamin Britten Extra Concert Portrait of a Witty and Intelligent Composer Living in the U.K. in the 20th Century
2021年4月11日 東京藝術大学奏楽堂
2021/4/11 Tokyo University of the Arts, Sogakudo Concert Hall
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by ヒダキトモコ|写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会

♪東京・春・音楽祭2021 イタリア~狂熱のバロック歴遊
Spring Festival in Tokyo 2021 Italia – Passionate Journey to the Baroque
2021年4月17日 旧東京音楽学校奏楽堂
2021/4/17 Sogakudo of the Former Tokyo Music School
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 増田雄介|写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会

♪4月11日 ベンジャミン・ブリテンの世界 番外編        →foreign language
<出演>
企画構成/ピアノ/お話:加藤昌則
バリトン:宮本益光
メゾ・ソプラノ:波多野睦美
ヴァイオリン:川田知子、吉村知子
ヴィオラ:須田祥子
チェロ:小川和久
コントラバス:池松宏
リコーダー:吉澤実、池田順子、中村友美
打楽器:神田佳子
オルガン:三原麻里

<曲目>
B. ブリテン:
 アルプス組曲
 ヴィットリアの主題による前奏曲とフーガ
 子守歌のお守り op.41 より
  ハイランドのバロー
  セフェスティアの子守歌
  お守り
 ウィリアム・ブレイクの歌と格言 op.74 より
  格言2「牢獄は法律という石によって建てられ」~煙突掃除の子
  格言5「怒っていれば虎は教育のある馬よりも賢い」~ハエ

~休憩~

ジミーのために〜ティンパニとピアノのための
レクチャーコーナー:歌劇 《ノアの洪水》 op.59(実演を交えながらの解説)
シンプル・シンフォニー op.4(弦楽五重奏版)

[ アンコール曲 ]
ブリテン:彼らは一人で歩く 前奏曲

 

今や上野の春の風物詩となった明るい桜色、これを目にすると「春が来たんだな」と思う。毎年、慌ただしさに紛れてチケットを取り損ねていたので、気合を入れてようやく2公演ゲットした昨年、、、コロナ禍のため開催されず幻となってしまった。一部中止となったもののようやく開催された今年の音楽祭から聞くことができた2公演について少し。

昨年行く予定だった公演の1つがブリテンの《ノアの洪水》。《ノア》自体は今年も公演をおこなうことはできず、その代わりとして開かれたのがこの「番外編」。ブリテンのあまり知られていない作品を演奏するというコンセプトなのかと足を運んだが、それにしてもリコーダー三重奏、オルガン独奏、ピアノ伴奏付独唱と取りとめがない。休憩後には打楽器まで。

各曲に立てられていたフラグが一気に収束したのが、《ノアの洪水》レクチャー・コーナーだった。これまで個別に聞いてきた編成はすべて、《ノア》で使用される楽器群だったことが明かされる。

レクチャーでは、ある一場面を取り上げて、オスティナートにティンパニやオルガン、リコーダー、弦楽器などを1種類ずつ追加していき、方舟が嵐に翻弄されるさまがどのように描かれているか解説とともに実演された。この楽器の積み重ねが、それまで演奏された作品の積み重ねとリンクする仕組みである。

何気なく並べられたように見えていた伏線が、来年におこなわれるであろう《ノア》へとギュッと結びつくことによって、否が応でも来年への期待が高まり、最後に演奏されたシンプル・シンフォニーの弦楽五重奏版の充実した演奏で最後の一押しとなった。だからこそ、シンプル・シンフォニーで楽章毎に止めて解説が入ったのは、少々やり過ぎではないかと思えた。

この演奏会全体は、企画構成を担当した加藤が演奏者へのインタビューを交えつつ、曲間をトークで繋いていくのだが、演奏会のなかのトークという枠組みを越えていたようにも感じた。これが「レクチャー・コンサート」と題されていたのなら、何の違和感もないのだが、普通のコンサートだと思って聞いていた人には解説が多かったかもしれない。もちろん、それによって企画の意図や演奏された曲の意義がよくわかり、有意義だったことは間違いないのだが。トークはどの話も面白く、しかも1つ1つの演奏の質も高かったからこそ、トークと演奏とのバランスの難しさについて考えさせられた。

♪4月17日 イタリア~狂熱のバロック歴遊        →foreign language
<出演>
チェンバロ&バロック・ハープ:西山まりえ
テノール:櫻田 亮
ヴァイオリン:小玉安奈、廣海史帆
バロック・チェロ:懸田貴嗣
パーカッション:濱元智行

<曲目>
J. アルカデルト(トラバーチ編):ハープのための《どうぞ私の命を絶って》
S. ディンディア:獣も岩も私の嘆きに涙を流し
G. M. トラバーチ:トッカータ 第2番 ハープのためのリガトゥーレ
S. ディンディア:君は私を捨て、おお、無慈悲な人、美しい人よ!
C. モンテヴェルディ:これほどに甘い苦しみが
C. モンテヴェルディ:音楽寓話《オルフェオ》より
 トッカータ
 リトルネッロ
 天上の薔薇、世の命
 ぼくは帰ってくる
 覚えているだろうか、深き森よ
 モレスカ

~休憩~

R. グレコ:2台の弦楽器のためのシンフォニア 第3番 ト長調
N. マッテイス:古風なサラバンダ上の様々な逸脱またはチャッコーナ
A. スカルラッティ:トッカータとバレット イ短調
A. スカルラッティ:愛の神、このろくでなしめ!

[ アンコール曲 ]
C. モンテヴェルディ:金髪の可愛いお嬢ちゃん

 

2013年から2018年まで改修工事のため閉館していた旧東京音楽学校奏楽堂に、筆者は改修後初めて足を踏み入れた。まずはバロック・ハープによる独奏曲。通常のハープよりも一回り小さいこの楽器は、通常のハープに似た竪琴風の音色はもちろんだが、ごくごく弱い音から琴の音を連想させる力強い音まで、実に幅広い音色をもつ。

続くディンディアの2曲は、ハープと独唱による初期バロック特有の旋律線を持つもので、櫻田のアジリタの巧さが光った。モンテヴェルディの『これほどに』では、ここにバロック・チェロが加わる。モンテヴェルディお得意の粘り気のある旋律がハープとチェロと歌とで絡み合い、とてもバランスが良い。ふと、通奏低音にバスの旋律楽器が入るのは、楽曲構成上で低音補強の必要があるというより、じつは良いバランスを追求したら必然的にこうなったという実践的な理由なのかもしれないという気がした。

前半の最後は音楽寓話劇《オルフェオ》から、オルフェオが不幸に陥る直前までの幸せの絶頂にいる部分。さきほどの編成にヴァイオリン2人、打楽器が加わる。楽器の数が増えるとハープの音が埋もれてしまったのは残念だが、打ちものが入ると俄然活気を帯びるのは否定しようのない事実だ。

管楽器を入れて演奏されることが多い冒頭のトッカータは、今回は管楽器なしの編成で、その代わりに打楽器のリズムが非常に面白く聴けた。編成の薄さを忘れ、「いつもと違うけど、なんかいい」のだ。前半の最後にこのような盛り上がる楽曲を持ってくるのは、さすがのプログラム構成。最後のモレスカでは桜田が鈴を取り出して鳴らし、最高潮に達した。

後半はグレコのチェロ曲から。味わい深いチェロの音色に酔いしれながら、「ナポリのチェロの伝統の創始者」(プログラム・ノートより)の格の高さに想いを馳せる。ナポリ畏るべし。軽快なリズムのチャッコーナで聴き手がウキウキとした気分になったところで、A. スカルラッティ登場。最後はナポリ方言でスラング満載の楽しいカンタータ。イタリア語版べらんめえ調といったところか。櫻田は近年、宗教曲のソリストなどで聴くことが多く、東京芸術大学教授といった肩書もあって「お堅い」イメージでみられがちだが、こうしたコミカルなものこそ本領を発揮する。

このコンサートでは、プログラム構成の上手さもさることながら、西山のトークの魅力も一役買っていた。プログラムを的確に進行しつつも、笑いを取ったり、和ませたり、かといってトークが主になるわけでもなく、あくまで演奏が主体。あらすじを紹介するところなど、おそらく朗読の基礎があるのであろうと思われ、こうしたものすべてひっくるめて演奏会の聴き手の満足度は形成されるのだろう。これからの演奏家は、演奏の技量だけでなく総合力が問われるようになる。大変な時代になったものだ。

(2021/5/15)

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The World of Benjamin Britten Extra Concert
Portrait of a Witty and Intelligent Composer Living in the U.K. in the 20th Century

Cast
Program Planner / Piano / Navigator:Masanori Kato
Baritone:Masumitsu Miyamoto
Mezzo Soprano:Mutsumi Hatano
Violin:Tomoko Kawada,Tomoko Yoshimura
Viola:Sachiko Suda
Cello:Kazuhisa Ogawa
Contrabass:Hiroshi Ikematsu
Recorder:Minoru Yoshizawa, Junko Ikeda, Tomomi Nakamura
Percussion:Yoshiko Kanda
Organ:Mari Mihara

Program
Benjamin Britten:
 Alpine Suite
 Prelude and Fugue on a Theme of Vittoria
 A Charm of Lullabies op.41
  The Highland Balou, Sephestia’s Lullaby, A Charm
 Songs and Proverbs of William Blake op.74
  Proverb II: Prisons are built,,,The Chimney-Sweeper
  Proverb V: The tygers of wrath…The Fly

–intermission–

Concert Piece for Jimmy for Timpani and Piano
Lecture of “Noye’s Fludde” with musical demonstrations
Simple Symphony op.4 (String Quintet Version)

[ Encore ]
Britten:They Walk Alone Prelude

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Italia -Passionate Journey to the Baroque

Cast
Cembalo & Baroque Harp : Marie Nishiyama
Tenor : Makoto Sakurada
Violin : Anna Kodama、Shiho Hiromi
Baroque Cello : Takashi Kaketa
Percussion : Tomoyuki Hamamoto

Program
Jacques Arcadelt(arr. by Trabaci): Ancidetemi pur, per l’Arpa
Sigismondo D’India:Piangono al pianger mio le fere, e i sassi
Giovanni Maria Trabaci:Toccata Seconda, & Ligature per l’Arpa
S. D’India:Tu mi lasci, o cruda, o bella!
Claudio Monteverdi:Si dolce è’l tormento
C. Monteverdi:Favola in musica “Orfeo”
 Toccata
 Prologo:Ritornello
 Atto Primo:Rosa del ciel, vita del mondo
 Atto Secondo:Sinfonia – Ecco pur ch’a voi ritorno
 Ritornello ~ Vi ricorda o boschi ombros
 Atto Quinto:Moresca

–intermission—

Rocco Greco:Sinfonia Terza à due viole in sol maggiore
Nicola Matteis:Diverse Bizzarrie sopra la Vecchia Sarabanda ò pur Ciaccona Ciaccona
Alessandro Scarlatti:Toccata in la minore – Balleto (Allegro)
A. Scarlatti:Ammore, brutto figlio de pottana