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「俊英指揮者 名歌手たちと盛り立てる 春たけなわの オペラティックな音楽会」|藤堂清

「俊英指揮者 名歌手たちと盛り立てる 春たけなわの オペラティックな音楽会」
NHK Symphony Orchestra April Concerts at Suntory Hall

2021年4月10日 サントリーホール
2021/4/10 Suntory Hall
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:NHK交響楽団

<演奏>        →foreign language
指揮:三ツ橋敬子
ソプラノ:森谷真理*
テノール:福井 敬**
管弦楽:NHK交響楽団

<プログラム>
モーツァルト/歌劇《魔笛》
 ─ 序曲
 ─ タミーノのアリア〈なんと美しい絵姿〉**
 ─ パミーナのアリア〈愛の喜びは露と消え〉*
モーツァルト/歌劇《コシ・ファン・トゥッテ》
 ─ フィオルディリージとフェランドの二重唱〈夫の腕の中に〉*,**
モーツァルト/歌劇《イドメネオ》
 ─ バレエ音楽 K. 367から〈パ・スル(1人の踊り)〉
 ─ イドメネオのアリア〈海の外なる胸の内の海は〉**
 ─ エレットラのレチタティーヴォとアリア
  〈ああ私の切望、怒り〉~〈血を分けたオレステよ〉*
——————-(休憩)——————
ヴェルディ/歌劇《シチリア島の夕べの祈り》
 ─ バレエ音楽〈春〉
マスネ/歌劇《ウェルテル》
 ─ オシアンの歌(ウェルテルのアリア)〈春風よ、なぜ私を目ざますのか〉**
マスネ/歌劇《タイス》
 ─ 鏡の歌(タイスのアリア)〈私を美しいと言っておくれ〉*
 ─ 〈タイスの冥想曲〉
プッチーニ/歌劇《蝶々夫人》
 ─ ピンカートンと蝶々夫人による愛の二重唱〈夕暮れは迫り〉*,**

 

終わりよければすべてよし。
プログラム最後の《蝶々夫人》の二重唱は出だしからオペラの舞台を思いおこすような演奏。森谷は2019年に東京二期会の公演で主役を歌っているし、福井も何度も舞台に立った役。それ以上に三ツ橋の棒が、歌手、オーケストラから熱気を引き出した。この一曲が聴けたことで満足。

NHK交響楽団が2020-21シーズンの定期公演を休止し、かわりに行っている公演。海外から指揮者・ソリストを招聘することが困難な状況が続いているため、積極的に若手日本人指揮者を招き、プログラミングも例年とは異なるものとなっている。
この日の指揮者、三ツ橋敬子もこの楽団初登場。国内・国外でさまざまなオーケストラと共演、オペラ公演も多数指揮してきており、「オペラティックな音楽会」を盛り上げるのにふさわしいとの判断か。歌手二人は国内で活躍しているソプラノとテノールのそれぞれトップといってよいだろう。多くの演目で主役を務めてきている。

NHK交響楽団のオペラ演奏の機会、新国立劇場、二期会、藤原歌劇団の公演でオーケストラ・ピットに入る他の楽団、東京フィルハーモニー管弦楽団、東京交響楽団、読売日本交響楽団などに較べれば少ないのは確かだが、年1回のコンサート形式の公演や東京・春・音楽祭のワーグナー・シリーズなどで、その実力を聴かせている。

まず前半のモーツァルト。
冒頭の《魔笛》、序曲は安全運転という印象。一部の管楽器のミスがあり、慎重になったのだろうか。これからオペラに入っていくという弾みが感じられなかったのが残念。
近年、古楽の分野にも進出している福井だが、この日のタミーノのアリアには違和感が。少し長めの音符では出だしの音量が保たれず、急激に減少してしまう。音符ごとにアクセントがあるような歌い方。他のモーツァルト2曲ではそのようなところはなかったので、なぜだったのか分からない。ドイツ語の子音を強くという意識の結果だろうか?
イドメネオのアリアはアジリタの技巧を聴かせるところがあるが、今の福井には荷が重い。三ツ橋が上手にオーケストラをコントロールし、彼の声をすくいあげていた。
一方の森谷、パミーナ、フィオルディリージ、エレットラの3役を歌った。エレットラの怒りが一番似合っていたようだ。アジリタが細かなところまで完璧とはいかなかったが、強い表情が声に合致。パミーナの嘆きを歌うには声の温度が高すぎるのかもしれない。このオペラであれば、夜の女王の怒りの方が彼女のものという気がする。

後半は、ヴェルディのバレエ音楽、マスネの歌劇、そして《蝶々夫人》。
福井の〈オシアンの歌〉、森谷の〈鏡の歌〉、そしてマロさん(篠崎史紀)の〈タイスの瞑想曲〉、各人の長所が聴けた。
福井のねばるような歌い口は、個人的には好みではないが、個性として認めるべきなのだろう。森谷のリズムの弾みと圧倒的な高音。マロのヴァイオリンの響きの美しさ。
最後の《蝶々夫人》で高揚した気分で帰路についた。

(2021/5/15)

—————————————
<Player>
Keiko Mitsuhashi, conductor
Mari Moriya, soprano*
Kei Fukui, tenor**
NHK Symphony Orchestra Tokyo

<Program>
Mozart / “Die Zauberflöte,” opera K. 620 — Overture,
  Aria”Dies Bildnis ist bezaubernd schön”(Tamino)**,
  Aria”Ach, ich fühl’s, es ist verschwunde”(Pamina)*
Mozart / “Così fan tutte,” opera K. 588 — Duetto”Fra gli amplessi”(Fiorgiligi/ Ferrando)* / **
Mozart / “Idomeneo,” ballet K. 367 — “Pas seul”
Mozart / “Idomeneo,” opera K. 366 —
  Aria”Fuor del mar ho un mar in sento”(Idomeneo)**,
  Recitative and Aria”Oh smania! oh furie!〜”D’Oreste, d’Aiace Ho in seno i tormenti” (Elettra)*
Verdi / “I vespri siciliani,” opera — “La Primavera,” ballet
Massenet / “Werther,” opera — Lied d’Ossian “Pourquoi me réveiller, ô souffle du printemps?”(Werther)**
Massenet / “Thaïs,” opera — Air de miroir “O mon miroir fidèle, dis-moi que je suis belle”(Thaïs)*, “Méditation”
Puccini / “Madama Butterfly,” opera — Duetto “Viene la sera” (Pinkerton, Madama Butterfly)* / **