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イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2 リッカルド・ムーティ指揮《マクベス》|藤堂清

イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2
リッカルド・ムーティ指揮《マクベス》(演奏会形式/字幕付)
Italian Opera Academy in Tokyo vol.2
Riccardo Muti Conducts “Macbeth”(Concert Style/With Subtitles)

2021年4月21日 東京文化会館 大ホール
2021/4/21 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会/撮影:増田雄介、青柳 聡
撮影:4月19日

【出演】        →foreign language
指揮:リッカルド・ムーティ
マクベス(バリトン):ルカ・ミケレッティ
バンコ(バス):リッカルド・ザネッラート
マクベス夫人(ソプラノ):アナスタシア・バルトリ
マクダフ(テノール):芹澤佳通
マルコム(テノール):城 宏憲
侍女(ソプラノ):北原瑠美
医者:畠山 茂
召使い:氷見健一郎
刺客:氷見健一郎
伝令:片山将司
第一の亡霊:片山将司
第二の亡霊:金杉瞳子
第三の亡霊:吉田愼知子
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:イタリア・オペラ・アカデミー合唱団
合唱指揮:キハラ良尚

 

引き締まった完成度の高い演奏。
さて、何から書き始めるべきだろう?
ムーティの指揮?オーケストラの完成度?合唱の精度?主役の歌唱?
どれもこの日の演奏の一断面。総体として圧倒的な感銘を受けた。

(c)東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

リッカルド・ムーティによるイタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2。2019年の東京・春・音楽祭で第1回《リゴレット》からスタート、昨年は新型コロナのため中止されたが、今年は第2回に予定されていた《マクベス》を一部歌手の変更はあったものの実施にこぎつけた。
2015年イタリア・ラヴェンナで始められたイタリア・オペラ・アカデミー、ムーティが若手指揮者を二週間という期間一つのオペラに集中して教育するもの。
東京でも基本は同じで、今年も4人の指揮者が選ばれ(うち2名は第1回と同じ)、4月10日~17日の間、リハーサルが行われている。今年はコロナ感染予防のため、聴講者は入れなかったが、ストリーミング配信され、より多くの人がムーティの指導の様子を知ることができた(1)

(c)東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

演奏に移ろう。
オーケストラは国内の各オーケストラからトップクラスの若手奏者が参加、12型の小規模なもの。このほかに舞台裏で吹く管楽器が20名ほど。合唱も各声部10名にしぼりこまれた構成。
出だしのオーボエからかなり早いテンポで吹かせる。続く魔女の合唱も響きを作るのが大変そうなスピード、だが皆しっかりと歌っている。それにしても、オーケストラの音がイタリアの、ムーティがシェフであった時代のミラノ・スカラ座のものといってもよい弾みと響きを持っていることに驚かされる。1週間という短い期間でこれほどの完成度に到達するのはすごいことだ。ムーティの指導方法によるものかどうか、それを判断するほどリハーサルを見ていなかったことを残念に思う。

(c)東京・春・音楽祭実行委員会/増田雄介

第1幕の歌唱、マクベスを歌うルカ・ミケレッティはデビュー3年目という若手だが、言葉さばきが見事。ベテランのバス、リッカルド・ザネッラートとの掛け合いでも主導権を握っている。声そのものでは、マクベス夫人のアナスタシア・バルトリ(2)に大きな将来性をみた。低い音域から高い音域までなめらかにつながり、美しい。細かな動きも難なくこなす。ヴェルディ自身が夫人役に望んだ「きたない声」ではないが、リリコ・スピントの役にふさわしい声。ミケレッティもバルトリもムーティが選ぶ歌手にはずれはない。
第1幕フィナーレ、ダンカン王の暗殺判明後のアンサンブル、第2幕フィナーレで皆がマクベスに不信の念をいだく場面などの重唱、それを支えるオーケストラ、ここでのダイナミクスの大きさは指揮者によるものだろう。
第3幕ではカットされることが多い魔女のバレエ音楽も演奏され、舞台がないにもかかわらず、曲想やリズムの変化、多彩な音色で飽きさせない。ここでもオーケストラの充実が聴けた。
第4幕のマクベス夫人のアリア、最後の高音の弱声の伸びは欠いたが、「狂乱の場」にふさわしい歌い口、つづくマクベスのアリアもスタイリッシュなもの。

(c)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

多くの歌手の充実(一部の役に不満をおぼえることはあったが)、そして全体としてオーケストラの細部までイタリアの血が通ったような演奏。イタリア・オペラには、この熱気が欠かせない。ムーティのいうイタリアの伝統はこのアカデミー参加者には十分に伝わったことだろう。
今年80歳となるムーティ、円熟と教育への熱意を強く感じたコンサート。
来年は《仮面舞踏会》が予定されている。彼の指導をその場で体験できるようにコロナの状況が変わっていることを期待したい。もちろん演奏も楽しみたい。

(註)

  1. 成果発表として、オペラの抜粋が20日にミューザ川崎で上演されている(「リッカルド・ムーティ introduces 若い音楽家による《マクベス》」)。受講者である指揮者4名が交代で指揮台にのぼり、若手歌手が歌う。ストリーミングがあり視聴できたが、マクベスの青山貴、マクベス夫人の谷原めぐみのひきしまった歌には、ムーティの指導が感じられた。指揮の湯川紘恵、チヤ・アモス、ヨハネス・ルーナ、高橋達馬もそれぞれ個性を残しながら、わかりやすい棒を振っていた。
  2. アナスタシア・バルトリは、名歌手チェチーリア・ガスディア(現アレーナ・ディ・ヴェローナ・ジェネラルマネージャ兼芸術監督)の娘。

(2021/5/15)

(c)東京・春・音楽祭実行委員会/青柳 聡

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<Cast>
Conductor:Riccardo Muti
Macbeth(Baritone):Luca Micheletti
Banco(Bass):Riccardo Zanellato
Lady Macbeth(Soprano):Anastasia Bartoli
Macduff(Tenor):Yoshimichi Serizawa
Malcolm(Tenor):Hironori Jo
Dama di Lady Macbeth(Soprano):Rumi Kitahara
Medico:Shigeru Hatakeyama
Servo:Kenichiro Himi
Sicario:Kenichiro Himi
Araldo:Masashi Katayama
Apparizioni 1:Masashi Katayama
Apparizioni 2:Toko Kanasugi
Apparizioni 3:Machiko Yoshida
Orchestra:Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra
Chorus:Italian Opera Academy Chorus
Chorus Master:Yoshinao Kihara