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究極の室内楽|西村紗知

究極の室内楽~気鋭の若手実力派による弦楽四重奏~
ULTIMATE CHAMBER MUSIC

2021年3月5日 王子ホール
2021/3/5 OJI HALL
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)

<演奏>        →foreign language
関朋岳、戸澤采紀(ヴァイオリン)
島方瞭(ヴィオラ)
佐藤晴真(チェロ)

<プログラム>
ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番 ホ短調 「クロイツェル・ソナタ」
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番 変ホ長調 Op.12
シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D810 「死と乙女」
※アンコール
バーバー:弦楽四重奏曲第1番 第2楽章

 

筆者は音楽の本懐は不和の方にあると思っている。堅牢な形式感をもつ古典派の作品でも、ポップでかわいいCMソングでも。何故って、音が合わさるということ自体に喜びがあるのだから。
音にきちんと音程があって、しかも他人同士がそれぞれ音を出したらそれが合わさるというのだから、音楽というのはなんてすばらしいのだろう。
それに、音楽は時間芸術であるという。時間というのは、実のところ、得体のしれないめんどうなものだ。音楽はめんどうなものと無邪気に戯れているんじゃないのか。そんな気がしている。
はてさて、今の若い人にそういう形而上学はもう古いのだろうか。高度な技術から繰り出される眩しい音の数々を聞きながら、茫然としていたらいつの間にか演奏会が終わっていた。

ヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」。こんなに行儀の良いコンサートピースだっただろうか。どこか、セリフのないメロドラマといった感じの、妙な設計思想に基づいたソナタなのだと思うのだけれど。順番に回ってくるソロは聴衆に向けた傍白のようであろうし、ふとした停滞から急に事態が動き出す様子であるとか、さながら映像作品のようなものではないのか。なんにせよ既存の弦楽四重奏曲の枠には収まりきらない要素がそこかしこに点在していると筆者は思う。誠に折り目正しい演奏だとは思うけれど、奇妙さがあまり聞こえてこなかった。

メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番。
全員の縦の線が揃って演奏するときは、はつらつとしている。フレーズの減衰も他のパートとぴったり息が合っている。
第一楽章の展開部など、フレーズの受け渡しが盤石すぎて、もっとハラハラするのかなと思えばそうでもなく、こういう安心感はあまりよいものではないように感じられた。第四楽章などテンポの速い楽章になると、互いの存在が邪魔になる場面だってあってもおかしくないのだけれど、なんの事故も起きず華麗に演奏されるばかりなので、真顔になってしまった。

シューベルトの「死と乙女」。
第二楽章、切り替わりのしっかりわかるメドレー的な形式感のところは面白かったように思う。なかなか長い楽章だが、退屈しなかった。

しかしながら、調和しかない調和の何が悪いのかと言えば、何も悪くないのである。悪い音楽など存在しない。演奏者がそれを欲するなら、聴衆として受け止めるところからやるしかないのだけれど、筆者にはそれができなかった。

(2021/4/15)

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<Artists>
Tomotaka Seki, Saki Tozawa(Violin)
Ryo Shimakata(Viola)
Haruma Sato(Cello)

<Program>
Leoš Janáček: String Quartet No.1 in E Minor, JW VII/8, “Kreutzer Sonata”
Felix Mendelssohn: String Quartet No.1 in E-Flat Major, Op.12, MWV R25
Franz Schubert: String Quartet No.14 in D Minor, D.810, “Der Tod und das Mädchen”
*Encore
Samuel Barber: String Quartet No.1 in D Major, Op.11 – 2nd Movt. “Molto Adagio”