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〈エスポワール シリーズ 12〉 嘉目真木子(ソプラノ) Vol.2 ―その国に生きて|藤堂清

〈エスポワール シリーズ 12〉
嘉目真木子(ソプラノ) Vol.2 ―その国に生きて
Espoir Series 12, Makiko Yoshime(Sop) Vol.2

2021年3月13日 トッパンホール
2021/3/13 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大窪道治/写真提供:トッパンホール

<出演者>        →foreign language
嘉目真木子(ソプラノ)
北村朋幹(ピアノ)

<プログラム>
ベッリーニ:3つの未刊のアリエッタ[イタリア]
Ⅰ 熱烈な願い
Ⅱ 私のフィッレの悲しげなおもかげ
Ⅲ 銀色の淡い月よ
ラロ:ミュッセの詩による3つの歌[フランス]
Ⅰ 花に
Ⅱ バルべリーヌの歌
Ⅲ ラ・ズエッカ
クィルター:3つの歌 Op.3[イギリス]
Ⅰ 愛の哲学
Ⅱ 真紅の花びらがまどろめば
Ⅲ 金のワインでグラスを満たせ
マルティヌー:1ページの歌曲集[チェコ]
Ⅰ 露
Ⅱ たった一言で開けるんだ
Ⅲ 愛しい女への道
Ⅳ 小道
Ⅴ 母ちゃんのところで
Ⅵ 聖なるマリアの夢
Ⅶ ローズマリー
—————–(休憩)—————–
オブラドルス:スペイン古典歌曲集 第1巻[ペイン]
Ⅰ 私の、ただ一人のラウレオーラ
Ⅱ 愛の神に
Ⅲ 心よ、お前はどうして
Ⅳ 嫉妬深いマホ
Ⅴ 母さま、私は恋を抱いて
Ⅵ 一番細い髪の毛で
Ⅶ 花嫁はおちびさん
グリーグ:イプセンの詩による6つの歌曲 Op.25[ノルウェー]
Ⅰ 吟遊詩人
Ⅱ 白鳥
Ⅲ 小句集
Ⅳ 睡蓮とともに
Ⅴ 亡き人
Ⅵ 鳥の歌
シマノフスキ:スウォピエヴニェートゥヴィムの言葉に寄せる歌 Op.46b[ポーランド]
Ⅰ ことさくら
Ⅱ あおき言の葉
Ⅲ 聖フランチェスコ
Ⅳ ガマズミの館
Ⅴ ヴァンダ
チャイコフスキー:6つのロマンス Op.73[ロシア]
Ⅰ 私はおまえと一緒に座っていた
Ⅱ 夜
Ⅲ この月夜に
Ⅳ 太陽は沈んだ
Ⅴ 暗い日に
Ⅵ 再び、前のように、ただひとり
————–(アンコール)—————
ドヴォルジャーク(詩:A.ハイドゥーク):わが母の教えたまいし歌 Op.55-4
クィルター(詩:P.B.シェリー):音楽は、優しい声が消えても Op.25-5

 

若手音楽家に演奏機会を提供するトッパンホールのエスポワール・シリーズ、12人目として初めての声楽家、ソプラノの嘉目真木子が登場。2019年4月の第1回は日本歌曲、第2回のこの日は「その国に生きて」と題し、8つの国の作曲家のそれぞれの言葉による作品を取り上げた。単独の曲を並べるのではなく、曲集のようなまとまりを持った形でプログラミングしており、一人の作曲家の作品で国を代表させることになる。ロシアをチャイコフスキー、フランスをラロ、スペインをオブラドルス、ポーランドをシマノフスキといった具合である。ヨーロッパの東から西、南から北まで広い地域を網羅しているだけでなく、モラヴィア方言を用いたマルティヌーの歌曲集のようにローカル色の濃い作品も選ばれている。その選択に嘉目の様々な国や地域への興味や憧れがうかがえ興味深い。

演奏でまず惹きつけられたのは北村のピアノ。
最初のベッリーニ、少ない音の単純な音型で始まる。だが、その一つ一つの打鍵で生み出される音の美しさ、透明感、一気に彼の音楽の世界に引き込まれた。
作曲家ごとに異なるリズム感の表出、音色の多彩さ、弱音の響きがダイナミクスの幅を大きくしていることなど、技術的な部分が優れていることはもちろん、すべてが音楽の骨格を明確にすることに寄与している。
マルティヌーの短い曲、その一曲一曲の性格をピアノの短い前奏であきらかにしていく。必要なところでの強い打鍵は豊かな響きを生むが、歌を邪魔することはない。

形のがっちりとした北村のピアノに寄り添われ、また包まれるように歌う嘉目。テンポやリズムの変化は最小限に抑えられているが、曲の構成を彼に任せることで、歌詞や声に注力できたのだろう。取り上げられる機会の少ない作品も多いが、どの曲も良く仕上げられている。嘉目自身が書いているプログラムノートの記述――曲の概要――に頷く部分が多かった。中音域のやわらかな響きはピアノと溶け合い、ホールをうめた。
後半のグリーグ、シマノフスキの歌唱、言葉の点では筆者には妥当かどうかわからなかったが、この両者での表現はより踏み込んだものであった。
嘉目の歌にさらに求めるとすれば弱声における表情付けだろう。小規模なホールでリサイタルを行う場合、ピアニシモで響きが薄くなる点は改善していった方がよいだろう。弱声で聴衆を引き付け、ダイナミクスの幅を確保しておけば、無理に強い声を張り上げる必要もなく、フォルテでの声のパレットを増やすことも可能となる。
歌曲の場合、詩の世界をどうやって表現するかということが大きなポイントとなる。かつてこのホールで行われたマーク・パドモアのマスタークラスで、「ルール1」として挙げていたのは「テキストを読む」ことであった。彼は言う、「言葉を伝えることを意識してください。サウンドは後から付いてきます。」と。今回のように多言語で多様なプログラムの場合、どれほど困難かはわかる。だが、「言葉を伝える」ために有効な手段を工夫することも必要だろう。
だいぶ注文をつけてしまったが、嘉目のプログラムづくり、北村とのデュオの演奏の完成度は高いものがあった。
第3回も同じ組み合わせで、ドイツリートを聴かせてくれることを期待したい。

(2021/4/15)


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<Performer>
Makiko Yoshime, Soprano
Tomoki Kitamura, Piano

<Program>
Bellini: Tre Ariette inedite
Il fervido desiderio
Dolente immagine di Fille mia
Vaga luna che inargenti
Lalo: Trois mélodies sur des poèmes d’Alfred de Musset
A une fleur
Chanson de Barberine
La Zuecca
Quilter: Three Songs Op.3
Love’s philosophy
Now sleeps the crimson petal
Fill a glass with golden wine
Martinů: Písničky na jednu stránku
Rosička
Otevření slovečkem
Cesta k milé
Chodníček
U maměnky
Sen panny Marie
Rozmarýn
Obradors: Canciones clásicas Españolas Vol.1
La mi sola, Laureola
Al Amor
¿Corazón, porqué pasáis
El majo celoso
Con amores, la mi madre
Del cabello más sutil
Chiquitita la Novia
Grieg: Sex Digte af Henrik Ibsen Op.25
Spillemænd
En svane
Stambogsrim
Med en vandlilje
Borte
En fuglevise
Szymanowski: Słopiewnie – Word Songs to words by Julian Tuwim Op.46b
Słowisień
Zielone słowa
Św. Franciszek
Kalinowe dwory
Wanda
Tchaikovsky: Shest’ romansov Op.73
Mï sideli s toboy
Noch
V etu lunnuyu noch
Zakatilos solntse
Sred mrachnïkh dney
Snova, kak prezhde, odin

<Encore>
Dvořák: Kdyz mne stará matka Op.55-4
Quilter: Music, when soft voices die Op.25-5