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イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ|藤堂清

イザベル・ファウスト&アレクサンドル・メルニコフ
Isabelle Faust (Violin) & Alexander Melnikov (Piano)

2021年1月27日 王子ホール
2021/1/27 Oji Hall
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<出演者>        →foreign language
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)

<曲目>
シューマン:幻想小曲集 Op.73
バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Sz76
—————-(休憩)—————–
シューマン:3つのロマンス Op.94
ブラームス:クラリネット・ソナタ 第1番 ヘ短調 Op.120-1(ヴァイオリン版)
————-(アンコール)————–
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 イ短調 WoO 27 より 第3楽章

 

イザベル・ファウストのヴァイオリンとアレクサンドル・メルニコフのピアノのコンサート、筆者にとってほぼ一年ぶりの来日演奏家によるもの。「不要不急」として演奏会などがすべて中止されてきたなか、ようやくの復活。世界トップクラスの演奏家の力を実感することができた。

この日演奏された曲でヴァイオリンとピアノがオリジナルの組み合わせの作品はバルトークのみ。他の3曲はクラリネットあるいはオーボエのために書かれている。

プログラムの最初、シューマンの《幻想小曲集》はクラリネットとピアノのための作品だが、ヴァイオリンまたはチェロで演奏してもよいとされ、チェロで聴く機会も多い。ピアノのあたたかな響きに引き出されるようにヴァイオリンが歌い始める。この曲でのメルニコフのピアノは、まるで歌曲におけるそれのよう。ピアノ・パートが曲全体をがっちりと構築し、その上でヴァイオリンが言葉こそないがのびのびと歌い、踊る。ピアノに多用されているフォルテピアノの表情記号をメルニコフは大きなダイナミクスの幅をつけて弾きだす。それをファウストは、発止と受け、打ち返す。クラリネットという楽器の特性上細かな指定がないということもあるだろう、ヴァイオリンで弾くとなれば表情付けの自由度が大きくなる。同じ音型でもさまざまにふくらませることが可能で、変化を楽しませてくれた。1曲3分程度の短さも歌曲をイメージさせる。3曲目の「急いで、情熱を込めて」と指定のある冒頭での、ファウストのダイナミクスを大きくとり熱い演奏、メルニコフも反応し、客席をも熱気につつんでいった。

続くバルトークは、オリジナルのヴァイオリン・ソナタということ、この日唯一の20世紀作品ということがあってか、演奏者二人の集中が際立っていた。モルト・モデラートの第1楽章、出だしのピアノの強い打鍵、負けじとヴァイオリンも強奏するが、すぐに音量を絞り込む。細かなパッセージも揺るがしにしないファウストの音楽づくり、ヴァイオリンの多様な奏法と大胆に踏み込んだ表現、楽譜に書かれた以上に強い、あるいは柔らかな表情を聴かせる。それをまた粒ぞろいの音で支えるメルニコフ、ハッとするほど美しく繊細な音。二人の会話が聴き手を惹きつけてはなさない。
アレグレットの第2楽章、ピッチカートが印象的な冒頭、民族舞曲が形をかえ展開する中間部、最後に消えていくような弱音が長く引き伸ばされ、ヴァイオリンは高音域へと消えていく。

聴くことができたコンサート、その一つ一つが貴重な時間であり、多くのことを与えてくれていたことを思う。
国内の演奏家のコンサートは数カ月前から復活しているし、若い力を感じることもあった。でも、世界的に一流と認められる人々による演奏は、引き出しも多く、なるほどと思わせてくれることがある。ファウスト&メルニコフはそれを証明してくれた。

記録としてこの日の演奏会の経緯を書いておこう。
本公演に出演を予定していたトゥーニス・ファン・デァ・ズヴァールト(ホルン)は、14日間待機を前提に1月8日に来日を予定していたが、この日から首都圏に緊急事態宣言が発令、さらに海外からの変異型ウイルスの流入を阻止するための新たな入国制限が開始となり来日を断念。すでに来日し待機に入っていた二人によるコンサートが、当初予定されていたブラームスとリゲティのホルン三重奏曲から曲目を変更して行われた。
ヨーロッパ各地では、感染拡大をうけコンサートといった人の集まるイベントは中止されており、演奏活動は日本での方が可能という現状である。
国を越えた移動の制限がいつまで続くかはコロナ次第だろうが、今後もトップクラスの演奏家の来日を楽しみにしたい。

(2021/2/15)

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<Performers>
Isabelle Faust (Violin)
Alexander Melnikov (Piano)

<Program>
Schumann: Fantasiestücke Op.73
Bartók: Violin Sonata No.2 Sz 76
————–(Intermission)————-
Schumann: 3 Romances Op.94
Brahms: Clarinet Sonata No. 1 in F minor, Op.120-1 (arr. for Violin)
—————–(Encore)—————-
Schumann: 3rd Movement from Violin Sonata No.3