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東京文化会館オペラBOX《アマールと夜の訪問者》|藤堂清

東京文化会館オペラBOX《アマールと夜の訪問者》
Tokyo Bunka Kaikan Opera BOX: “Amahl and the Night Visitors”

2020年8月30日 東京文化会館小ホール
2020/8/30 Tokyo Bunka Kaikan Recital Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

《アマールと夜の訪問者》(全1幕/原語(英語)上演・日本語字幕付)
台本・作曲:ジャン=カルロ・メノッティ    →foreign language

第1部 オープニングトーク&セッション
【出演】
お話:園田隆一郎、岩田達宗
ナビゲーター:朝岡聡
メゾソプラノ:富岡明子(1) *第1回東京音楽コンクール声楽部門第3位
バリトン:寺田功治(2) *第6回声楽部門第2位
ピアノ:高橋裕子

【曲目】
メノッティ:オペラ《泥棒とオールドミス》より〈Bob’s Bedroom Aria〉(2)
バーバー:オペラ《ヴァネッサ》より〈Must the winter come so soon〉(1)
メノッティ:《遥かなる歌》より〈ペガサスは眠る〉(2)
バーバー:〈聖母の子守唄〉(1)

第2部 オペラ《アマールと夜の訪問者》
【出演】
指揮:園田隆一郎
演出:岩田達宗

アマール:盛田麻央 *第12回声楽部門第2位
母親:山下牧子 *第1回声楽部門第1位
カスパール王:小堀勇介 *第16回声楽部門第2位
メルヒオール王:高橋洋介 *第9回声楽部門第2位及び聴衆賞
バルタザール王:久保田真澄
従者:龍進一郎 *第5回声楽部門入選
羊飼いたち・村人(合唱):コーロ・パストーレ
リトルシェパーズ(児童合唱&ダンス/ワークショップ参加児童)
ピアノ:高橋裕子
チェロ:水野優也 *第13回弦楽部門1位及び聴衆賞
クラリネット:須東裕基

【スタッフ】
美術:松生紘子
照明:大島祐夫〔株式会社アート・ステージライティング・グループ〕
衣裳:増田恵美〔モマ ワークショップ〕
振付:鷲田実土里
舞台監督:伊藤潤(ザ・スタッフ)
コレペティトール:高橋裕子
児童合唱指導:田中美佳
演出助手:橋詰陽子
ヘア&メイク:株式会社丸善

良い公演であった。

オペラの舞台上演、首都圏では2月末からすべて中止、あるいは延期となっていた。もともと4月の予定だった藤原歌劇団の《カルメン》が8月15~17日に上演され、これが復活の第一歩となった。この日の舞台はそれに続くもの。
演出には、舞台の狭さだけでなく、今年はソーシャル・ディスタンシングを考慮することが求められた。抱き合う、キスをするといった接触をともなう場面は避けられ、それに応じて歌詞の一部を変更。客席通路で歌う場面もあったが、マウスガードを装着し飛沫拡散の防止が図られている。
「東京文化会館オペラBOX」のシリーズにはいくつかの特徴がある。

  • 東京文化会館小ホールという狭い舞台を使う
  • ワークショップ「オペラをつくろう!」を通じ、オペラの登場人物になる、舞台美術の一部を作成する、オペラ制作を勉強する
  • 東京音楽コンクール入賞・入選者を積極的に出演させる
  • 主催者に上野中央通り商店会が加わる。

オペラの上演だけでなく、啓蒙・普及、そして新人演奏家や舞台制作に関わる人材の育成といった役割も果たしている。
今回も、コロナ禍の制約の中、小・中・高の生徒9名が稽古を重ね、合唱、ダンサーとして舞台に立った。
商店会がこのようなイベントを主催することも、上野という文化の町ならではだろう。

オペラ《アマールと夜の訪問者》は、アメリカの作曲家ジャン=カルロ・メノッティが1951年にテレビ・オペラとして作曲したもの。ストーリーがイエスの誕生を祝うために東方から来た3人の博士(王様)と、脚が不自由な少年アマールとその母をめぐるものであり、初演(放送)はクリスマスに行われた。その後10年以上にわたり同時期に放送されたほか、英国などでも繰り返し放送されている。日本では、1幕もので演奏時間が短いこともあり、初演後間もない1954年から、他のオペラとともに上演されるといった形も含め、オペラ団体から市民オペラまで幅広く取り上げられてきている。

アマールを歌った盛田は第12回声楽部門第2位、安定した響きを持ち、言葉もクリア。それほど声量があるわけではないが、イエスの誕生を告げる星を見つけての興奮、3人の王の訪問を受けての驚き、王たちのものを盗んだ母への許しを請う真剣さなど、細やかな歌い分けを聴かせた。その母の山下は、ヘンデルからワーグナー、ヴェリズモ、さらに現代のライマンまでさまざまなオペラに出演しているベテラン。アマールの言葉を疑い、強い口調で叱責する場面、息子のためにと金に手を出してしまうまでの葛藤、心の大きな揺れを描き出した。カスパール王の小堀は、昨年の日本音楽コンクールの優勝者でもあり、ロッシーニなどのベルカント・オペラに欠かせないアジリタと高音を特徴とする歌手。ここでは、役のとぼけた味わいを見事に表現した。メルヒオール王は彼らの旅の目的、みどりごイエスに会いにいくことをアマールの母に教える。それを聞いた彼女は、アマールこそその子だと、でも誰も彼を貧乏から救ってくれないと嘆く。高橋と山下のやり取りはすれ違ったまま。高橋の声は安定感があり、今後の活躍が期待できそう。
王たちへのおくりものを携えて村人が集まってくる。羊飼いたちは踊りを披露し彼らを歓迎する。ワークショップで練習してきた子供たちが舞台上で躍動した。村人たちは入場するときは客席の複数のドアから分かれて入ってくる。小ホールの舞台裏は狭いので、もともとの演出プランであったのだろう。プラスチックのフェイスガードを使っている人も、鼻から口元そしてあごの下までの長い「マスク」を着けている人もいる。歌うにしろ踊るにしろ、楽ではないだろうが、これから数年間は必要かと。
王様たちが村人らに感謝し眠りについた後、母親は彼らの金に手を出してしまう。従者に見つかり、責められる彼女をアマールは必死にかばう。王たちは彼の思いを受け止め母を許し、旅立とうとする。イエスに捧げるものがないと嘆く彼女に、アマールが自分の松葉づえを届けようというと、奇跡がおこり彼は歩けるようになった。そして王たちとともに彼の杖を届けに出発していく。

この日は、ピアノとクラリネットとチェロの器楽の演奏、園田隆一郎の指揮で行われた。園田の緻密な音作りが声とのバランスをとり、オペラの流れをいきいきと描き出した。
久しぶりの舞台上演、出演者の間の感染リスクを低減するための演出上の配慮、観客同士の距離をとること、出演者と観客の接触を抑えることなどを、きちんと実施しながらも、制約を感じさせないものであった。演出の岩田達宗の引き出しの多さによるのだろうが、美術、振付といったスタッフの共同作業の結果と評価したい。

オペラに先立ち「オープニングトーク&セッション」として、朝岡の司会で園田隆一郎、岩田達宗の二人による、メノッティとこの時代のアメリカのオペラについての説明が行われ、このあと上演される作品へと聴衆を導く。
メノッティの《泥棒とオールドミス》からのアリア、歌曲をバリトンの寺田、メノッティと長年パートナーであったサミュエル・バーバーの《ヴァネッサ》ほかをメゾソプラノの富岡が、高橋裕子のピアノに伴われて歌った。両者とも30代後半で、さまざまな場面で名前をみるようになってきており、その成長ぶりをうれしく感じた。

第1部、第2部を通じ、音楽的にも演出面でも一本筋の通った公演。
この日のように若手の育成やより広い層への啓蒙活動の重要性は以前から指摘されているが、コンクール、ワークショップ、地元の支援がしっかりとかみ合い、成果を生んできている。海外から演奏家を招致することがまだまだ困難な状況であることを考えると、国内での地道な仕組みを整備し、維持していくことが重要であろう。
感染拡大予防のための運営スタッフの取り組みも含め、安心して音楽に浸れる環境を用意したいただいたことに感謝したい。

(2020/9/15)

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<Program>
Amahl and the Night Visitors (Opera in 1 Act/Sung in English with Japanese surtitles)
Libretto & Music:Gian Carlo MENOTTI

<Performers>
Conductor:SONODA Ryuichiro
Production:IWATA Tatsuji

<First Part>
Opening Panel

<Panelists & Artists>
Panelists: SONODA Ryuichiro, IWATA Tatsuji
MC: ASAOKA Satoshi

Mezzo-soprano: TOMIOKA Akiko(1) *3rd Prize of Voice section at the 1st Tokyo Music Competition
Baritone: TERADA Koji(2) *2nd Prize of Voice section at the 6th Tokyo Music Competition
Piano: TAKAHASHI Yuko

<Music>
Menotti: Bob’s bedroom aria from the opera The Old Maid and the Thief(2)
Barber: “Must the winter come so soon” from the opera Vanessa(1)
Menotti:“Dorme Pegaso”from Canti della Lontananza(2)
Barber: A slumber song of the Madonna(1)

<Second Part>
Opera “Amahl and the Night Visitors”

Amahl: MORITA Mao *2nd Prize of Voice section at the 12th Tokyo Music Competition
Mother: YAMASHITA Makiko *1st Prize of Voice section at the 1st Tokyo Music Competition
Kaspar: KOBORI Yusuke *2nd Prize of Voice section at the 16th Tokyo Music Competition
Melchior: TAKAHASHI Yosuke *2nd Prize and Audience Award of Voice section at the 9th Tokyo Music Competition
Balthazar: KUBOTA Masumi
The Page: RYU Shinichiro *Finalist of Voice section at the 5th Tokyo Music Competition

Shepherds and villagers (Chorus):Coro Pastore
Little Shepherds (Participants of the workshop “Let’s Create Opera!”)

Piano: TAKAHASHI Yuko
Cello: MIZUNO Yuya *1st place and Audience Award of String section at the 13th Tokyo Music Competition
Clarinet: SUDO Yuki

Creators
Stage design: MATSUO Hiroko
Lighting design: OSHIMA Masao [Art Stage Lighting Group Inc.]
Costume design: MASUDA Emi [Moma Workshop]
Choreography: WASHIDA Midori
Stage director: ITO Jun [The Stuff]

Korrepetitor: TAKAHASHI Yuko
Children’s chorus instructor: TANAKA Mika
Assistant director: HASHIZUME Yoko
Hair & Makeup: Maruzen Inc.