シャイニング・シリーズVol.7 東京音楽コンクール入賞者による「テノールの響宴」|藤堂清
シャイニング・シリーズVol.7 東京音楽コンクール入賞者による「テノールの響宴」
Shining Series Vol.7: The gorgeous tenors of the Tokyo Music Competition winners
2020年6月28日 東京文化会館 大ホール
2020/6/28 Tokyo Bunka Kaikan
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀田力丸(Rikimaru Hotta)
<出演者> →foreign language
テノール:村上敏明 *第3回東京音楽コンクール声楽部門第3位
与儀巧 *第6回声楽部門第1位及び聴衆賞
宮里直樹 *第10回声楽部門第2位〈最高位〉及び聴衆賞
小堀勇介 *第16回声楽部門第2位
ピアノ:江澤隆行
<曲目>
第1部
ロッシーニ:《泥棒かささぎ》より<おいで、この腕の中に>(小堀)
ドニゼッティ:《愛の妙薬》より<人知れぬ涙>(与儀)
マスネ:《マノン》より<やっと1人になった~消え去れ、やさしい面影よ>(宮里)
ジョルダーノ:《アンドレア・シェニエ》より<ある日、青空を眺めて>(村上)
チレア:《アルルの女》より<ありふれた話(フェデリコの嘆き)>(与儀)
プッチーニ:《ラ・ボエーム》より<冷たき手を>(宮里)
ドニゼッティ:《連隊の娘》より<ああ友よ、今日はなんと素晴らしい日>(小堀)
ヴェルディ:《トロヴァトーレ》より<ああ、美しい人~見よ、恐ろしい炎を>(村上)
第2部
ブロドスキー:ビー・マイ・ラブ(宮里)
ベッリーニ:追憶(小堀)
レオンカヴァッロ:朝の歌(与儀)
デ・クルティス:帰れソレントへ(村上)
忘れな草(与儀)
ビクシオ:マリウ、愛の言葉を(宮里)
カルディッロ:カタリ・カタリ(つれない心)(村上)
ララ:グラナダ(小堀)
ヴェルディ:《リゴレット》より<女心のうた>(全員)
〈アンコール〉
プッチーニ:《トゥーランドット》より<誰も寝てはならぬ>
ディ・カプア:オー・ソレ・ミオ
会場に響く人の声の美しさをこれほどに感じたのはいつ以来だろうか。
4カ月間電子機器を通じての鑑賞しかできなかった、本当に久しぶりの生の声、体が会場を埋める振動そのものを喜んでいる。
東京音楽コンクールは、東京文化会館など4者の主催で「芸術家としての自立を目指す可能性に富んだ新人音楽家を発掘し、育成・支援を行うことを目的」として、2003年から毎年行われてきている。この日は第3回から第16回までの声楽部門の入賞者からテノールの4名、年齢でいえば30代前半の2名と40代後半の2名の登場。
プログラムの前半はオペラ・アリア、各人が2曲づつ歌った。
ベルカント・オペラで活躍している小堀は、ロッシーニとドニゼッティの技巧的で高音が続く曲。アクロバティックな部分も安定しているのだが、低音域も充実しており、それが音楽の幅をひろげている。
もう一人の若手、宮里は高音域のパワーと輝きがすばらしい。<冷たき手を>でのハイCは広い大ホール全体を震わせる圧力があった。声だけではなく、《マノン》と《ラ・ボエーム》の歌い分けもしっかりとしていた。圧倒的な高音域と較べると低音域の響きが少し薄いように思えるが、強みを活かしつつ、幅を拡げて行ってもらいたい。
ベテランの一人、与儀は、コンクールの本選で《道化師》のアルレッキーノのアリエッタを大アリアのように歌い優勝している。その後も名前は聞くことが多いが、おおきな舞台で主役を歌うという機会には恵まれていない。声も安定していて、歌のスタイルもしっかりしているのに、彼でなければという魅力に欠ける。宮里のような輝きがないことが制約になっているのかもしれない。
もう一人のベテラン村上は、この日はMCも務めた。デビューしたころと較べると声は厚みを増し、ドラマティックなレパートリーを歌うようになってきている。前半の最後にはマンリーコのカヴァティーナとカバレッタを余裕を持って披露した。
コロナの感染拡大を防止するためにという自粛のもと、多くのコンサートが中止や延期されてきた。緊急事態宣言の解除後、オーケストラなどが少しずつ活動を始めていたが、声楽分野ではこの日がトップバッターとなった。もっともこのコンサート自体、5月28日に予定されていたもの。日程を1カ月延期し、会場も小ホールから大ホールへ変更して行われた。声楽の場合、飛沫の飛散が楽器の演奏に較べると大きいといわれていることに配慮し、ピアノや歌手の立つ位置を普段より舞台の後方に下げるとともに、舞台に近い座席4列は利用しないようにしていた。また観客同士の距離を保つため、各列も1席ずつ空けて座るという形とされた。舞台側からみると、市松模様状に斜めに客席が埋まっているようにみえた。
後半のプログラムは多くのテノールがリサイタルで取り上げることの多い歌曲が並ぶ。
前半がフォーマルな服装での登場であったのに対し、後半はカジュアルな外出着で歌った。歌声もそれとマッチするように少しリラックスし、のびやかな音楽を作りだしていた。
「ブラーヴォ」は禁止と言われていて、それを破る聴衆はいなかったが、会場の拍手はそれを補う盛り上がりを見せた。
プログラムの最後は全員が登場、舞台上で2.5~3mの間隔をあけて一列に並び(ソーシャル・ディスタンシング!)、次々と歌い継いでいった。
アンコールは、パヴァロッティ、ドミンゴ、カレラスが3テノールのコンサートで競って歌い挙げた曲。この日は4人がそれぞれの声に合ったヴァリエーションを加えながら歌った。歌手の歌う喜び、聴衆がその声に包まれる幸せ。このような時間の大切さをともに味わうことができた。
4カ月前までは当たり前のように感じていた劇場という場での出会い、それがこれほどまで困難なこととなり、場合によってはふたたび遠ざかってしまう可能性がある。演奏者の側も、聴衆の側も、コロナの第2波、第3波が予想される中、今後のコンサートの姿について考えていかなければならない。
(2020/7/15)
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<Artists>
Tenor:
Toshiaki Murakami(1) *3rd prize of Voice Section at the 3rd Tokyo Music Competition
Takumi Yogi(2) *1st prize and Audience Award of Voice Section at the 6th Tokyo Music Competition
Naoki Miyasato(3) *2nd prize (Top prize) and Audience Award of Voice Section at the 10th Tokyo Music Competition
Yusuke Kobori(4) *2nd prize of Voice Section at the 16th Tokyo Music Competition
Piano: Takayuki Ezawa
<Program>
Rossini: “Vieni fra queste braccia” from La gazza ladra (4)
Donizetti: “Una furtiva lagrima” from L’elisir d’amore (2)
Massenet: “Je suis seul!…Ah! fuyez, douce image” from Manon (3)
Giordano: “Un dì all’azzurro spazio” from Andrea Chénier (1)
Cilea: “È la solita storia del pastore (Il lamento di Federico)” from L’Arlesiana (2)
Puccini: “Che gelida manina” from La Bohème (3)
Donizetti: “Ah! mes amis, quel jour de fête!” from La fille du régiment (4)
Verdi: “Ah si, ben mio ~ Di quella pira l’orrendo foco” from Il trovatore (1)
——————–(Intermission)————————-
Brodsky: Be my love (3)
Bellini: La ricordanza (4)
Leoncavallo: Mattinata (2)
De Curtis:Torna a Surriento (1)
De Curtis:Non ti scordar di me (2)
Bixio: Parlami d’amore, Mariù (3)
Cardillo: Catarì, Catarì (Core ‘ngrato) (1)
Lara: Granada (4)
Verdi: “La donna è mobile” from Rigoletto (1~4)
———————–(Encore)—————————-
Puccini: “Nessun dorma” from Turandot (1~4)
Di Capua: ‘O sole mio (1~4)