Menu

撮っておきの音楽家たち|ヘルムート・ヴィンシャーマン100歳|林喜代種

ヘルムート・ヴィンシャーマン100歳(指揮者・オーボエ奏者)
Helmut Winschermann 100 years old

Photos & Text by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
1980年8月 第1回草津夏期国際音楽フェス&アカデミー
2010年9月30日 すみだトリフォニーホール

J.S.バッハ演奏の権威であるヘルムート・ヴィンシャーマンが今年2020年3月22日100歳の誕生日を迎えた。自宅のあるドイツ・ボンでの100歳の祝賀会は新型コロナウイルスの問題の影響で中止になったという。報道によるとヴィンシャーマンはこのコロナ禍を「芸術的充電が出来るまたとないチャンス」として捉え充実した日々を過ごしてほしいと舞台に立てない若い音楽家にエールを送ってきたという。
ヴィンシャーマンは1920年3月22日ルール地方ミュールハイムに生まれる。エッセンとパリで学び、エッセン放送交響楽団、コンセルトヘボウ管弦楽団等のソロ・オーボエ奏者を務めた。バッハを始めとするバロック音楽の普及に努めるかたわら教育にも力を入れてきた。1956年デトモルト国立音楽大学の教授として、ハンスイエルク・シェレンベルガー、宮本文昭、インゴ・ゴリツキー、ギュンター・パッシンらの優秀な後継者を輩出した。1960年ドイツ・バッハゾリステンを創立。以来50年芸術監督としてこの室内オーケストラを特にバッハ演奏に於いて世界的権威を誇る演奏団体に育て上げた。1962年初来日。日本にはたびたび来日している。
ヴィンシャーマンはオーボエを手にしても指揮棒を持ってもステージに立つ時は常に「明晰に、生き生きと、喜ばしく」というモットーを貫いてきた。「バッハは最高の長寿薬。音楽をやり続けることが私の生涯の挑戦だ」という。
1980年、第1回草津夏期国際音楽フェスティヴァル&アカデミーのオーボエ・クラスの講師を務めた。当時のレッスン室は町の公民館の畳の部屋だった。全員あぐら姿で熱心に受講する様子を写真に撮った。40年前のことでヴィンシャーマン60歳の時である。通訳はみどり・ヴィンシャーマン。このアカデミーでJ.S.バッハに関して特別講演を行なっている。
2007年水戸室内管に於いてバッハ(ヴィンシャーマン編曲)のゴルトベルク変奏曲全曲版を日本初演。ヴィンシャーマンの90歳を祝して2010年9月30日東京に於いて日本の有志の音楽家たちとJ.S.バッハの『マタイ受難曲』がヴィンシャーマンの指揮で演奏された。感動的な演奏に大きな拍手。写真はこの時のマエストロ90歳の指揮ぶりである。
CD、レコードは複数のレーベルから100枚以上リリースされている。なお、バッハ・ゾリステン結成以前にバロック・オーボエも演奏し、ドイツで最初のバロック・オーボエによるレコード録音を行なっている。
長年の文化的功績が称えられ、ドイツ政府より最高の一等功労勲章、エディソン賞(2回)、グスタフ・マーラー賞、ドイツ・ヘンデル賞、など受賞。1992年ロンドン王立アカデミー委員会で満場一致で「名誉会員」の称号を授与された。2013年テレマンの生地マグデブルク市より「ゲオルク・フィリップ・テレマン賞」を贈られた。また著書として『J.S.バッハに至る私の歩んできた道』をドイツで出版している。

(2020/6/15)

1980年、第1回草津夏期国際音楽フェスティヴァル&アカデミー