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東京二期会オペラ劇場公演 ヴェルディ:《椿姫》|藤堂清

東京二期会オペラ劇場
ジュゼッペ・ヴェルディ:《椿姫》(新制作) 
オペラ全3幕 日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
Tokyo Nikikai Opera Theatre / LA TRAVIATA
Presented by Tokyo Nikikai Opera Foundation 
(Opera in three acts, Sung in the original (Italian) language with Japanese supertitles)

2020年2月20日 東京文化会館
2020/2/20 Tokyo Bunka Kaikan
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:2月18日(ゲネプロ)

<スタッフ>        →foreign language
指揮:ジャコモ・サグリパンティ
演出:原田 諒
装置:松井るみ
衣裳:前田文子
照明:喜多村 貴
振付:麻咲梨乃
合唱指揮:佐藤 宏
演出助手:菊池裕美子
舞台監督:村田健輔
公演監督:大野徹也

<キャスト>
ヴィオレッタ:谷原めぐみ
フローラ:藤井麻美
アンニーナ:磯地美樹
アルフレード:樋口達哉
ジェルモン:成田博之
ガストン:下村将太
ドゥフォール;米谷毅彦
ドビニー:伊藤 純
グランヴィル:峰 茂樹
ジュゼッペ:吉見佳晃
仲介人:香月 健
ダンサー:千葉さなえ、玲実くれあ、輝生かなで、栗原寧々、鈴木萌恵
     岡崎大樹、上垣内 平、宮澤良輔、谷森雄次、岩下貴史
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

 

東京二期会オペラ劇場の《椿姫》、注目は初来日となるイタリアの若手指揮者ジャコモ・サグリパンティ。イタリア、ドイツからスタートし、近年ではイギリス、アメリカ、ロシアでもオペラを中心に活躍の場を拡げている。40歳間近という年齢だから、20代で注目を集めている若手指揮者、バティストーニ、ヴィオッティより10年ほど年上ということになる。

サグリパンティ(2月12日)

公演に先立ち12日に、彼を迎えてのトーク&コンサートが自由学園明日館で行われた。そこで語られたことは、彼の音楽を理解する上で参考となった。
「指揮はやりながら学ぶもので、誰かから教えてもらうことはできない。」
「《ラ・トラヴィアータ》は社会の問題を突いた作品。ヴェルディには、人間や社会に対する探究心があった。」
「クリティカル・エディションは机上の作りもので、90%は作曲家の考えたものとは違う。指揮者として勉強することは必要だが、演奏のための選択は指揮者が行う。」
楽譜だけに従う音楽作りというより、劇場におけるイタリアのオペラの実践を受け継ぎ、それにより作曲家に迫っていこうという姿勢を感じた。

この日の演奏は、「イタリアの伝統を日本に演奏家に教えていきたい」と語った彼の意図がよく分かる演奏であった。
「言葉の発音や切り方を指導している」という発言もあり、二期会の歌手たちに対してもイタリア語で歌うための基礎の再確認を求めたようである。
オーケストラの音も、普段意識することが少ないアクセントが浮き上がってきたり、この時代ヨーロッパを席巻していたワルツがあちこちで聴こえたりと実に新鮮。東京都交響楽団の硬質な音が、サグリパンティの指揮のもと柔軟な響きとなる。
「イタリアの伝統」は演奏する曲にもあらわれた。ヴィオレッタの第1幕、第3幕のアリアはともに繰り返しはなし、ジョルジョのカバレッタは歌われた。現在の劇場でおこなわれている標準的なカットだろう。

この日のヴィオレッタ、谷原めぐみは、小さな役《ナクソス島のアリアドネ》エコーや《蝶々夫人》ケートなどでは舞台に立っていたが、このような大きな役は初めて。歌はそんなことを感じさせないしっかりとしたもの。弱声をきちんと響かせることができるのは大きな強みで、表現の幅が拡がる。第2幕第1場と第2場で声の色合いを変えたのも効果的であった。
樋口達哉は2009年の二期会公演でもアルフレードを歌っている。今回はピンチヒッターとしての登場となったが、10年ほど前に較べると余裕の歌唱。高音にも安定感があるし、低音域もしっかりとしている。第2幕のアリア、カヴァティーナでの表情づけ、カバレッタの切れ味、楽しませてもらった。
ヴィオレッタの谷原めぐみ、アルフレードの樋口達也、二人の歌唱は、音楽と歌詞が調和し、イタリア語の文が自然に聴こえてくるものであり、指揮者も満足しただろう。
他の歌手では、フローラの藤井麻美が少ない場面だが、声、演技で存在感をみせた。

演出は原田諒、宝塚歌劇団の演出家。椿の花をイメージした白い花弁に囲まれた舞台に最初は黄色いオシベの束が置かれている。物語の進行にしたがって、花びらは減っていき、オシベは見えなくなる。第1幕と第2幕第1場、第2幕第2場と第3幕という二幕仕立てで公演は行われ、後半では舞台中央をうつす鏡がつるされた。客席のどこに座ったかで、この鏡にうつるものはまったく違うだろう。上の方の階からは一階の客席だけが見えたのではないだろうか?
舞台装置、衣装、照明といった見た目は美しいし、歌手の歌うときの向きなどの演技面での指導は徹底していた。一方、近年の演出では必ず存在するドラマトゥルグがなく、台本に忠実ということが基本であったようだ。その点でいささか拍子抜けという感じ。

音楽面での成果に較べ、演出面は訴えかけるものが少なく、オペラ総体としてはいささか疑問が残るプロダクションと感じられた。

(2020/3/15)

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<STAFF>
Conductor: Giacomo SAGRIPANTI
Stage Director: Ryo HARADA
Set Designer: Rumi MATSUI
Costume Designer: Ayako MAEDA
Lighting Designer: Takashi KITAMURA
Choreographer: Rino MASAKI
Chorus Master: Hiroshi SATO
Assistant Stage Director: Yumiko KIKUCHI
Stage Manager: Kensuke MURATA
Production Director: Tetsuya ONO

<CAST>
Violetta Valery: Megumi TANIHARA
Flora Bervoix: Asami FUJII
Annina: Miki ISOCHI
Alfredo Germont: Tatsuya HIGUCHI
Giorgio Germont: Hiroyuki NARITA
Gastone: Shota SHIMOMURA
Barone Douphol: Takehiko MAIYA
Marchese d’Obigny: Jun ITO
Dottor Grenvil: Shigeki MINE
Giuseppe: Yoshiteru YOSHIMI
Commissionario: Takeshi KATSUKI
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra