東京芸術劇場シアターオペラvol.13 ヴェルディ/歌劇《ラ・トラヴィアータ》|藤堂清
東京芸術劇場シアターオペラvol.13 全国共同制作オペラ
ヴェルディ/歌劇《ラ・トラヴィアータ》(椿姫)全3幕
(日本語字幕付原語上演)
Tokyo Metropolitan Theatre Opera vol.13
Giuseppe Verdi opera “La Traviata”
(Opera in three acts, Sung in the original (Italian) language with Japanese supertitles)
2020年2月22日 東京芸術劇場
2020/2/22 Tokyo Metropolitan Theatre
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<スタッフ> →foreign language
指揮:ヘンリク・シェーファー
演出・振付:矢内原美邦
<キャスト>
ヴィオレッタ:エカテリーナ・バカノヴァ
フローラ:醍醐園佳
アンニーナ:森山京子
アルフレード:宮里直樹
ジェルモン:三浦克次
ガストーネ:古橋郷平
ドゥフォール男爵:三戸大久
ドゥビニー:高橋洋介
グランヴィル医師:ジョン・ハオ
ジュゼッペ:三浦大喜
フローラの召使:杉尾真吾
使いのもの:井出壮志朗
俳優・ダンサー:青木萌、内藤治水、原田理央、松井壮大、柳生拓哉
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団
13回目となる全国共同制作オペラ、演目はヴェルディの《ラ・トラヴィアータ》。今回の開催は3都市(白河市、金沢市、東京)となり、2015年の《モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』 ~庭師は見た!~》の10都市を思うとずいぶんと縮小したなという印象である。とはいえ、めったにオペラの上演のない都市での公演は、その近辺の人にとっては貴重な鑑賞機会であるし、新たな聴衆を生む場所ともなるだろう。
同じキャストで全国をめぐり演奏の質を確保してきたこと、それまでオペラとはあまりつながりのなかった演出家を起用し話題性の高い舞台を作ってきたことが評価されここまで継続されてきたのであろう。
今年は演出にパフォーミングアーツ・カンパニー「ニブロール」代表矢内原美邦をむかえての公演。昨年の《ドン・ジョヴァンニ》もダンサーによる演出であった。異分野からの参入は今後も増えていくだろう。
公演も演出面が評価の中心となる。
時代設定は現代ということだろう。登場人物はスマホやタブレット片手にあらわれ、それぞれが画面から目をはなすことなく、自分の思いを歌っていく。他の人との会話があるわけではなく、SNSや送られてきたメッセージに集中する。
第2幕第1場の冒頭、アルフレードがヴィオレッタとの愛の生活の喜びを歌っているとき、彼女は舞台の離れたところで彼に背を向けテレビゲームに興じている。歌われている内容とはうらはらな状況。
一方、第2幕第2場でアルフレードがヴィオレッタに札束を投げつけるといった事件が起きると、ワッと集まり写真を撮る。SNSに投稿するために・・・・
今の日本で起こっていること、日常的に目にすることを再現し、ヴィオレッタの時代にあった疎外、差別、無視といったことは現代でもある、そう強く訴えかけていた。
すべての設定がうまくいっていたわけではなく、手紙をわたす、手紙を届けるといった場面で、直接相手のスマホにメールを送らずに、他のタブレットやスマホに送られたものをわざわざ見せるという手間をかけていたが、さすがにこれは苦しい。
第3幕でも、ヴィオレッタとアルフレードやジェルモンが物理的に絡むことはない。通常の演出でも、男性2人の登場は死の間際のヴィオレッタの幻想とすることもあるから、特別ではないが、彼女への冷たい視線は全幕を通じて一貫している。
現代の「いじめ」や「ヘイト」と同じように、自分が「道を踏み外」さないために、他の人をターゲットとする。そのような構造をこのオペラから浮き上がらせていた。
指揮者ヘンリク・シェーファーのドイツ的な音楽作りは、音色やダイナミクスという点では堅実で無駄のないものであり、構成の確かさも十分。読売日本交響楽団は、今年はこの日一日だけのピットであったが、安定した演奏を聴かせた。
ヴィオレッタは、当初エヴァ・メイが歌うと発表されていたが、体調不良ということで、エカテリーナ・バカノヴァと交代した。バカノヴァはヨーロッパでこの役をたびたび歌っているが、それを納得させる歌を聴かせてくれた。各幕ごとに異なる声楽上の要請を自然にこなし、弱声から強声まできちんと使い分けた。今のメイより適役だったのではないか。
アルフレードの宮里直樹は厚い響きが魅力。ガンガン、声を飛ばし会場を埋め尽くす。この役だからそれも有りだろうが、バカノヴァの歌い方とは正反対でバランスはあまりよくない。
オーケストラや主役二人は、音楽的には一定程度の水準に達していたが、上に述べたように表現に統一感がなかった。一方、演出の目指した、現代にも通じる社会的な状況への問題提起はわかるが、指揮者の音楽からは離れていたように思う。
全国共同制作オペラ、地方での聴衆を増やすという重要な役割を担っている。今後も継続されることを期待したい。
公演の内容とは直接関係はないが、二点気になったことを挙げて置く。
この日、同じ時間に、上野の東京文化会館では二期会の《椿姫》が上演されていた。主催がちがい、長い期間かけて準備する必要があることは理解するが、同じ演目が同時期に取り上げられるということは、聴き手にとってもありがたいことではない。なにか工夫の余地はないだろうか。
公演プログラムが無料配布された。そのサイズがA5で、通常のオペラのプログラムのB5サイズよりかなり小さい。その上、情報を詰め込むためか、文字サイズもかなり小さい。だれもが読みやすいものを別途有料でもよいので用意していただけると助かる。
(2020/3/15)
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<Staff>
Conductor : Henrik Schaefer
Stage Director, Choreographer : Mikuni Yanaihara
<Cast>
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
Chorus: New National Theatre Chorus
Violetta Valery: Ekaterina Bakanova
Alfredo Germont: Naoki Miyasato
Giorgio Germont: Katsuji Miura
Flora Bervoix: Sonoka Daigo
Annina: Kyoko Moriyama
Gastone: Gohei Kohashi
Douphol: Hirohisa Sannohe
Marchese d’Obigny: Yosuke Takahashi
Dottor Grenvil: Hao Zhong
Giuseppe: Taiki Miura
Domestico di Flora: Shingo Sugio
Commissionario: Soshiro Ide
Actors and Dancers: Moe Aoki, Naomi Naito, Rio Harada, Morihiro Matsui, Takuya Yagyu