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高崎芸術劇場開館記念 パーヴォ・ヤルヴィ&NHK交響楽団 高崎公演|藤原聡

高崎芸術劇場開館記念 パーヴォ・ヤルヴィ&NHK交響楽団 高崎公演
Takasaki City Theatre Opening Ceremony Concert
Paavo Järvi & NHK Symphony Orchestra in Takasaki

2020年2月8日 高崎芸術劇場 大劇場
2020/2/8 Takasaki City Theatre Grand Theatre
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:高崎芸術劇場

<演奏>        →foreign language
ヴァイオリン:レティシア・モレノ
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
NHK交響楽団

<曲目>
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品19
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27

 

高崎芸術劇場は、さまざまな音楽や舞台芸術の大型公演に対応する2027席の大劇場、ライヴハウスや演劇・舞踊・能などの多様なパフォーマンスが可能なスタジオシアター(389~568席)、リサイタルや小編成のオーケストラ公演まで可能な412席の音楽ホール、そしてリハーサルやレッスンのための9つのスタジオを擁する複合型の芸術劇場として昨年9月20日に開場したばかり。
クラシックファンはご存知の通り、高崎には群馬交響楽団が長年本拠地としてきた群馬音楽センターがある。アントニン・レーモンドの設計になるこのホールも独特の雰囲気と味わいのある名建築だが――余談ながらレーモンドに学び東京文化会館や神奈川県立音楽堂を設計したのが前川國男である――、多様な形態の公演への対応、そしてより優れた音響効果を持ったホールの必要性といった観点で高崎芸術劇場が新たに造られたのだ。
高崎駅東口から劇場開館のために整備されたというペデストリアンデッキを歩くこと約5分(西宮北口駅から兵庫県立芸術文化センターへのアクセスイメージに近い)、今回公演が開催される大劇場(2階)に直結するのでアクセスは極めて良好。その2階ホワイエ部分(大ホール入場口の前)は上層部が大きく吹き抜けとなっていて開放感があり、外側はホール内部ホワイエ共々大きくガラスを活用していてふんだんに自然光が降り注ぎ、非常に心地良い空間が拡がる。そして大ホール内部は栗梅色を基調として極めて落ち着いた雰囲気。
今回は大ホールしか訪れられなかったものの、劇場全体が外へ「開かれている」印象が強く、それは恐らくこの劇場を高崎の新たなランドマークとし高崎市民はもちろんのこと、他所からも様々な人々を迎え入れるような施設にせんとする意思のようなものを感じた次第。現段階では主催公演的な催しを行なうというよりは貸し劇場的な運営といったイメージを感じるが、企画の独自性を打ち出していくのはこれからというところだろうか。今後も大いに注視したい。

さて、その高崎芸術劇場にこのたび開館記念公演ということでパーヴォ・ヤルヴィとN響がやってきた。プログラムはこの直前のサントリーホールB定期と同じプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番とラフマニノフの交響曲第2番。前者でソロを務めるレティシア・モレノは今回初めて聴くヴァイオリニストであるが、この人の特徴はしなやかな美音ときめ細やかな音楽性にあると思われた。技巧は確かながら音量は控え目であり、その表現にアグレッシヴさはほとんど感じられない。それゆえ、プロコフィエフ特有のシニカルさは幾分か減退しており、他方この曲の抒情性が前面に出る。
これをどう捉えるかだが、筆者はいささかの物足りなさを感じた。プロコフィエフの本質はモダニズム的側面と相反するようなロマン性のヒリヒリするような混合だと思うので、いまひとつの「棘」が欲しい。パーヴォのサポートはとりあえず非の付け所がないが、ソロに寄ったのかこちらもスタティックな感じで、より冴えた音彩が欲しいところ。

後半はラフマニノフの交響曲第2番。パーヴォの同曲は以前シンシナティ響との来日公演で接しているが、テンポの緩急とディナーミクの幅を大きく取って非常に先鋭的な演奏に仕上がっていた。ロシア的あるいはラフマニノフ的な憂愁というものはきれいさっぱり消し飛んでいたが、これはこれで大変に完成度の高い演奏だと感嘆したものだ(もとより筆者はこの曲にほとんど思い入れがないので、こういう演奏も大いに楽しんだ次第。コアなファンがどう聴くかは知らないけれど)。
そしてこの日の演奏、これは先のシンシナティの演奏ともまた違ったものに仕上がっていた。情緒というものがほとんど感じられなかったシンシナティに比べ、同傾向でありながら特に第3楽章において濃密極まりない歌い込みとそれに伴う情感の高まりが感じられ、これは指揮者とオケの信頼関係の賜物という感じがする(何もパーヴォとシンシナティに信頼関係がなかったということではないが…。あるいはアメリカのオケ一般の音楽性の問題もあるだろうか)。
順番が前後するが、第1楽章では表現が低回気味でオケも集中を欠き本調子ではなく、第2楽章では楽想にもよろうが俄然切れ味が増し音に輝きが出て来る。そして終楽章では様々な対旋律や旋律線が驚くべき明晰さで演奏されて見通しの良さは随一。それが故か全体として音は余り溶け合わずささくれ立った響きを時折聴かせる瞬間もありはしたが、それでもこの鮮明さはパーヴォとN響の水準の高さを示して余りある。湿った情緒とは無縁だが、これはこのコンビにしか成し得ない名演奏だったのではないか。
尚、ホールの音響は低音の豊潤な響きが心地良く、全体の分離も良い。高弦や金管で一部音の硬さも感じられたが、これは経年による変化で取れてくる類のものだろう(サントリーホールも東京芸術劇場もそうだった)。かなりドライであった群馬音楽センターに比べて明確に響きは豊かで、この音響を持つホールを本拠地として群響がこれからどのような音を作って行くのか大いに楽しみである(最後はパーヴォ&N響から離れてしまいましたが)。

(2020/3/15)

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<players>
Violin: Leticia Moreno
Conductor: Paavo Järvi
NHK Symphony Orchestra

<pieces>
S. Prokofiev: Violin Concert No.1 in D major Op.19
S. Rachmaninov: Symphony No.2 in E minor Op.27