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カルテット・アマービレ BRAHMS Plus〈1〉|藤原聡

カルテット・アマービレ BRAHMS Plus〈1〉
Quartet Amabile BRAHMS Plus<1>

2020年1月29日 Hakuju Hall
2020/1/29 Hakuju Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language

カルテット・アマービレ
  ヴァイオリン:篠原悠那
  ヴァイオリン:北田千尋
  ヴィオラ:中恵菜
  チェロ:笹沼樹
(ゲスト)
チェロ:堤剛
ヴィオラ:磯村和英

<曲目>
ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章
シェーンベルク: 浄められた夜 op.4
ブラームス:弦楽六重奏曲 第1番 変ロ長調 op.18
(アンコール)
ドヴォルザーク:弦楽六重奏曲 イ長調 op.48〜第3楽章

 

今や若手〜中堅の弦楽四重奏団の中でも一頭地を抜く存在となったカルテット・アマービレ。2016年のARDミュンヘン国際音楽コンクール入賞という目覚ましい業績も、しかし今のこの団体には単なる通過点/過程に過ぎないのでは、と思わせるような今回の見事な演奏である。もちろんコンクール時の演奏を聴いた訳ではないけれど、この日は以前に何度か接したアマービレの演奏から確実に進化した演奏が披露されたと思う。ちなみに本コンサートは白寿ホールにて始動したアマービレの室内楽シリーズ第1回目、ゲストに同団体と縁の深い堤剛、磯村和英両御大が登場。今後同シリーズではブラームス作品を主軸に据えるとのこと、実に楽しみである。

まずはアマービレの4人のみでウェーベルン。まず惹きつけられるのは4人のこの上ない音色の美しさである。非常に美麗ではあるが、しかしその歌い回しには節度があり、フレージングは端正そのもの。こういう上品さはアマービレの素晴らしい美質だと思うのだが、それがこの甘美極まりないウェーベルンの若書きの作品を大変に高貴なものとして聴かせることに成功している。より濃厚な演奏も考えうるだろうが、このビタースイートなテイストを湛えた演奏の抑制美により惹かれるものがある。しかも、美しくはあるがいささか平面的であった以前の演奏とは違った楽想の掘り下げがある。

堤剛と磯村和英が加わっての『浄められた夜』。ここで耳を引いたのがアマービレとゲスト2人の音色的対比である。先に記したように美しく端麗な音色を持つアマービレと、木綿豆腐(適切な比喩か分からぬがそういうイメージなのだ)のようなややざらついて物質的な引っかかりを感じさせる存在感を放つ音を持つ剛と磯村(それで言うならアマービレは絹ごし豆腐?)。このコントラストが極めて有効に活き、全体として厚みを伴った非常に雄渾な音楽が展開されながらも、中/低声部が茫洋として響かずに明晰さをつねに保つ。フレージングの統一や縦線の一致はもちろんのことだから、この音色の相違はむしろある種の「スパイス」として非常に効いている。表現としては特に第2部のモルト・ラレンタンドのパートで楽想の抉りが活きていて素晴らしかったと思う。名演。

休憩をはさんでのブラームスにおいてもシェーンベルク同様、6声部の自律性と全体の統一性が見事な融合をみせる表現が素晴らしい。中でもこころもち「溜め」を効かせたコクのある表情が秀逸な第2楽章、及び力感の変化に敏感に反応した第3楽章が特に良い。これもまた特筆すべき演奏だったと言いうる。

アンコールはドヴォルザークの弦楽六重奏曲から第3楽章。快速調のフリアント舞曲であるこの楽章、言うまでもなくローカル色とは無縁でニュートラルな演奏ではあるが、その活きの良さは随一。

この日のプログラムはアンコールも含めると全4曲、本稿の最初に記したように、ここでのカルテット・アマービレの演奏は以前と比較して表情がより豊かになり、表現の起伏というかコントラストが明確となり、結果スケール感が増したように思える。六重奏曲では剛と磯村が加わったことによる触発効果があったとは言えようが、最初のウェーベルンにおいても以前の一面的な「美しさ」からの脱却が感知できる。ここ数年で着実に演奏に厚みが増しているのは明らかであろう。今後この団体の演奏をフォローしていくのが楽しみだと思わせられたコンサートであった。

(2020/2/15)


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<players>
Quartet Amabile
 Violin: Yuna Shinohara
 Violin: Chihiro Kitada
 Viola: Meguna Naka
 Violoncello: Tatsuki Sasanuma

(guest)
Violoncello: Tsuyoshi Tsutsumi
Viola: Kazuhide Isomura

<pieces>
A.Webern: Langsamer Satz
A.Schönberg: Verklärte Nacht Op.4
J.Brahms: String Sextet No. 1 in B-Flat Major, Op. 18
(encore)
A.Dvořák: String Sextet in A Major, Op. 48, 3rd movement