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NHK交響楽団 第1932回 定期公演 プログラムB|藤原聡

NHK交響楽団 第1932回 定期公演 プログラムB
NHK Symphony Orchestra 1932th Subscription Concert Program B

2020年1月22日  サントリーホール
2020/1/22 Suntory Hall
Text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
NHK交響楽団
指揮:ファビオ・ルイージ
ソプラノ:クリスティーネ・オポライス
コンサートマスター:ライナー・キュッヒル

<曲目>
ウェーバー: 歌劇『オイリアンテ』序曲
R.シュトラウス: 4つの最後の歌
R.シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』作品40

 

少なくともファビオ・ルイージは日本において過去2度『英雄の生涯』を指揮している。2009年のシュターツカペレ・ドレスデンとの来日公演時、そして2017年の読売日本交響楽団への初登壇時。筆者はそのうち後者を聴くことが出来たが、初共演の読響から実に確信に満ちた生気溢れる音楽を引き出していて感銘を受けたものだ。前者は未聴ではあるが、同じドレスデンのオケを指揮しての録音を聴くかぎり、恐らくは実演も大変に見事なものであったのではないか。そしてこの度のN響との演奏。もはやルイージの十八番ともいいうる『英雄の生涯』だけに、2001年から度々共演を続けるN響との組み合わせは期待するしかあるまい。

その『英雄〜』の前に2曲、まずは『オイリアンテ』序曲であるが、冒頭からいかにも急速調のテンポながらまるで上滑りしないしなやかなフレージングによる音楽的な呼吸の良さに驚かされる。音楽の生理を完全に把握しているルイージと、それを現実の音として完璧に表現しうるN響の力量。この曲の冒頭数小節を聴いただけでこれが大変な演奏だとたちどころに理解できるだろう。そして甘美なからも節度と禁欲的な趣のある第2主題の歌もルイージならでは。沸き立つリズムも鮮やかで、文句のつけようのない名演とはこのようなものではないか。

次なる『4つの最後の歌』においてもルイージとN響の演奏は精妙極まりなくほとんど理想的とすら言えるのだけれど、オポライスのソロには若干の留保がつく。なるほど美声の持ち主ではあるが、ディクションが不明瞭な箇所が散見され、かつオペラティックに過ぎるのではないか。それゆえ、曲の抑制美が後退してあからさまに官能的な様相を呈する。この辺りに違和感がないと言えば嘘になろう。もっとも、それをして評価する向きもあろうが。

そして『英雄の生涯』。いきなり畳み掛けるようなテンションで開始されたそれは、ルイージが猛然とオケをドライヴして極めてハイテンションな音楽が作られて行く。こういう熱に浮かされたかのような集中はルイージの音楽からしばしば感じ取れる特性だが、それゆえ聴き手は一気にルイージおよび楽曲の世界に引きずり込まれる。しかし、ハイテンションとは言ってもオケの音色は完全に統制され声部間のバランスも最良、力づく一辺倒ではない表現の多彩さがある。この両立がルイージをルイージたらしめている美点であろう。その音楽は拡散型ではなく凝縮型とでも言えようか、それゆえスケールは必ずしも大きくはないが、ともすると饒舌感がついて回る『英雄の生涯』をシャープに仕上げることに成功している。
最初の「英雄」の熾烈さ、スタッカートとマルカートを徹底した「英雄の敵」、甘さよりも峻烈さが際立つ「英雄の伴侶」(ここでのキュッヒルのソロも恐ろしくアグレッシヴで強面、より柔和さとの対比を活かして欲しくはあったが…。技術的にも安定を欠いていた)、先に記したルイージのファナティックな面が炸裂した突っ込みまくる「英雄の敵」…。楽曲終結部はルイージが一貫して取り上げる静かに終わる初稿版を用いていたが、この「英雄の引退と死」は進撃のルイージとはまるで異なる内部に沈滞して行くような非常に内省的な表現力を発揮し、この日の演奏の白眉となる。没入による進撃と沈滞というルイージの持ち味が万全に活かされた名演奏と評価すべきだろう。

(2020/2/15)


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<players>
NHK Symphony Orchestra
Conductor: Fabio Luisi
Soprano: Kristine Opolais
Concert master: Rainer Küchl

<pieces>
Weber : “Euryanthe,” opera Op. 81 – Overture
R.Strauss : 4 letzte Lieder
R.Strauss : “Ein Heldenleben,” tone poem Op. 40