《大地の歌》~紀尾井ホール室内管弦楽団によるアンサンブルコンサート 5|藤堂清
紀尾井ホール室内管弦楽団によるアンサンブルコンサート 5 (紀尾井マーラー・セレクション II)
Kioi Hall Chamber Orchestra – Ensemble Concert 5 with the member of Wiener Philharmoniker
室内オーケストラ版 マーラー《大地の歌》~ウィーン・フィルのメンバーを迎えて
Das Lied von der Erde for chamber orchestra version
2020年1月17日 紀尾井ホール
2020/1/17 Kioi Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)
<演奏> →foreign language
ミヒャエラ・ゼーリンガー(メゾ・ソプラノ)(4)
アダム・フランスン(テノール)(4)
ライナー・ホーネック(第1ヴァイオリン)、野口千代光(第2ヴァイオリン)(1)
安藤裕子(ヴィオラ)、ゼバスティアン・ブル(チェロ)(1)
助川龍(コントラバス)(4)
カール=ハインツ・シュッツ(フルート)(3)
蠣崎耕三(オーボエ)(4)
勝山大舗(クラリネット)(3)
ソフィー・デルヴォー(ファゴット)(4)
日橋辰朗(ホルン)(4)
武藤厚志(ティンパニ)、安東友樹子(打楽器)(4)
津田裕也(ピアノ)(1)
西沢央子(ハルモニウム&チェレスタ)(2)
<曲目>
ヨハン・シュトラウス2世:入り江のワルツ op.411 (シェーンベルク編曲サロン・アンサンブル版)(1,2)
ヨハン・シュトラウス2世:シュトラウス:酒、女、歌 op.333 (ベルク編曲サロン・アンサンブル版)(1,2)
ヨハン・シュトラウス2世:皇帝円舞曲 op.437 (シェーンベルク編曲サロン・アンサンブル版)(1,3)
———————–(休憩)————————–
マーラー:大地の歌(シェーンベルク&リーン編曲室内オーケストラ版)(1~4)
アルノルト・シェーンベルクが1918年に設立し、演奏機会が少ない当時の「現代」音楽を多くの人に聴いてもらう目的で開催したウィーンの会員制サロンコンサート(私的演奏協会)、1921年にオーストリアの経済的危機により活動を休止するまで117回の演奏会を催し154作品を取り上げたという。ヨハン・シュトラウス2世による最初の2曲は、1921年5月21日のコンサートで演奏されたもの。後半の《大地の歌》も私的演奏協会での演奏を目指して、1921年にシェーンベルクが編曲を始めていたが完成には到らず、1980年代になってライナー・リーンが補筆し演奏が可能となった。
2016年11月に名称変更前の紀尾井シンフォニエッタの団員とパリ管弦楽団のメンバーにより、マーラーの交響曲第4番を核とする室内楽版によるコンサートを行っている。また、2018年12月にはブルックナーの交響曲第7番をバイエルン放送交響楽団のメンバーとともに室内楽版で演奏した。この日のプログラムはそれを引き継ぐもの。
前半の3曲は奏者6人または7人と小編成。フルートとクラリネットの加わる〈皇帝円舞曲〉ではあまり感じなかったが、彼らの作り出す音楽がホールの大きさにのみこまれている、そんな印象を受ける。このホールで弦楽四重奏を聴いていてホールサイズに疑問を感じることはないので、編曲によるものであろうか?
個々人の音楽への踏み込みも後半ほどではなく、多少不満の残る演奏であった。
後半に演奏された《大地の歌》はもともと3管編成の大きなオーケストラのために書かれた曲。室内楽版は、管楽器はフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、各1名ずつで、必要に応じ持ち替えを行う。弦楽器は弦楽四重奏+コントラバス。ピアノとハルモニウムが加わる。独唱者はテノールとメゾソプラノ。
交響曲(出版譜には記載)ととらえれば6楽章の作品ということになるが、6曲の歌曲という見方も有り得る。マーラー自身がピアノ版の楽譜を同時並行で作成しており、こちらは歌曲として演奏されることを想定していたと考えられる。楽譜はアルマ・マーラーが所持していて、長いこと演奏される機会がなく、世界初演はヴォルフガング・サヴァリッシュのピアノで1989年に東京で行われている。
オーケストラ版では、その厚い音に歌手が苦労する場面がみられることが多い。とくに第1曲はテノールにとってたいへん厳しい。室内楽版はダイナミクスの取り方や管楽器の重ね方などオーケストラ版を意識して作られているが、小編成ということもあり、それほどまで極端な影響は受けない。
この日の演奏、各パート一人ずつ14人の器楽奏者、二人の独唱者という室内楽としては大きな編成。ライナー・ホーネックが全体をよく束ね、オーケストラ版に匹敵するような豊かな表情を描き出した。常設の団体でも指揮者なしでまとめるのはたいへんだろう。それを考えると奏者たちの力量がわかる。ウィーン・フィルから参加した管楽器奏者、フルートのカール=ハインツ・シュッツ、ファゴットのソフィー・デルヴォー、紀尾井ホール室内管弦楽団のオーボエ蠣崎耕三、クラリネット勝山大舗が多様な音色を響かせる。それに加え、西沢央子のハルモニウムの音がなつかしさを感じさせる。
独唱者のうち、メゾ・ソプラノのミヒャエラ・ゼーリンガーの歌う偶数楽章、〈秋に寂しき人〉〈美しさについて〉〈告別〉は、どれもゆったりとしたテンポで歌い出される。彼女はそれを力みのない響きで始め、ヴィブラートも控えめに進めていく。盛り上げ強い声で歌うところでも音程のゆれは少なく、歌詞が明瞭に聞きとれる。早く歌う場面でも言葉の扱いが丁寧で、全体としてこの曲の歌曲的側面をよく表現している。
テノールのアダム・フランスンの担当した奇数楽章、〈現世の愁いを歌う酒歌〉〈青春について〉〈春に酔う人〉では、ダイナミクスの大きな表情が際立つ。高音域での強い声、高音から低音、あるいはその逆といった変化も要求される。演奏時間はメゾ・ソプラノよりよほど少ないのだが、負荷という意味ではあまり差がないだろう。とは言うものの、彼の歌には言葉の点でも音程の面でも粗さを感じる場面が多かった。ゼーリンガーがドイツ語圏のオーストリア出身であるのに対し、フランスンはデンマーク生まれということが差となったかもしれない。
ただ、歌手の歌が中心となる編成、演奏で、テノールに多少のキズはあったが、大地の”歌“を聴いたという満足感があった。
(2020/2/15)
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〈Performers〉
Michaela Selinger (Mezzosoprano)(4)
Adam Frandsen (Tenor)(4)
Reiner Honeck (1st violin), Chiyoko Noguchi (2nd violin)(1)
Yuko Ando (viola), Sebastian Bru (cello)(1)
Ryu Sukegawa (contrabass)(4)
Karl-Heinz Schütz (flute)(3)
Kozo Kakizaki (oboe)(4)
Daisuke Katuyama (clarinet)(3)
Sophie Deraux (bassoon)(4)
Tatsuo Nippashi (horn)(4)
Atsushi Muto (timpani), Yukiko Ando (percussion)(4)
Yuya Tsuda (piano)(1)
Nakako Nishizawa (harmonium & celesta)(2)
〈Program〉
Johann Strauss(Sohn): Lagunen Walzer op.411(1883)
for Piano, Harmonium and String quartet arranged by Arnold Schönberg(1921) (1,2)
Johann Strauss(Sohn): Wein, Weib und Gesang op.333(1869)
for small Ensemble arranged by Alban Berg(1921) (1,2)
Johann Strauss(Sohn): Kaiserwalzer op.437(1888)
for Salon-Ensemble arranged by Arnold Schönberg(1925) (1,3)
—————(Intermission)—————
Gustav Mahler : Das Lied von der Erde for chamber orchestra version(1921)
by Arnold Schönberg, completed by Rainer Riehn(1983)(1~4)