ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル|藤堂清
♪ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル—イタリア風に
Jean Rondeau – Harpsichord Recital “In The Italian Taste”
2019年10月31日 王子ホール
2019/10/31 Oji Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
<演奏> →foreign language
ジャン・ロンドー
(使用楽器:ミートケモデル・Jan Kalsbeek,2000年製作)
<曲目>
J.S.バッハ;プレリュード《リュート組曲 ハ短調 BWV997》より
:ファンタジア ハ短調 BWV906
ドメニコ・スカルラッティ:ソナタ
ソナタ ハ長調 K.132
ソナタ イ短調 K.175
ソナタ イ長調 K.208
ソナタ ニ長調 K.119
J.S.バッハ:アダージョ《協奏曲 ニ短調 BWV974》より
(Transcription of oboe concerto in D minor of Alessandro Marcello)
ドメニコ・スカルラッティ:ソナタ
ソナタ ヘ長調 K.6
ソナタ ヘ短調 K.481
J.S.バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
J.S.バッハ/ブラームス編曲:シャコンヌ
《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004》より
———————(アンコール)————————
F.クープラン:神秘的なバリケード
:お気に入り
ロワイエ:スキタイ人の行進《クラヴサン曲集第1巻》より
♪ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル
クラヴサン奏法~フレンチ・プログラム
Jean Rondeau – Harpsichord Recital
L’Art de Toucher le Clavecin ~ French programme
2019年11月3日 東京文化会館小ホール
2019/11/3 Tokyo Bunka-kaikan Recital Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏> →foreign language
ジャン・ロンドー
(使用楽器:ミートケモデル・Jan Kalsbeek,2000年製作)
<曲目>
ラモー :
プレリュード イ短調
組曲 イ短調 (抜粋) – 新クラヴサン組曲集
アルマンド
クラント
サラバンド
3つの手
ガヴォットと6つのドゥーブル
———————–(休憩)————————–
フランソワ・クープラン:
プレリュード 第1番 ハ長調 – クラヴサン奏法より
クラヴサン曲集 第3組曲より
暗闇(アルマンド)
陰鬱(サラバンド)
お気に入り(2つのシャコンヌ-ロンドー編)
ロワイエ:
敏感
スキタイ人の行進
———————(アンコール)———————–
F.クープラン:神秘的なバリケード
ラモー:未開人
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲より アリア
ジャン・ロンドーは1991年パリ生まれのチェンバロ奏者、2年ぶりの来日に二つのプログラムで臨んだ。一つは”イタリア風に”と題し、当時先端であったイタリア音楽の要素を取り入れたJ.S.バッハとドメニコ・スカルラッティの作品によるもの。もう一方は”クラヴサン奏法~フレンチ・プログラム”、ラモー、フランソワ・プークラン、ロワイエといった、王政の絶頂期にフランス・ヴェルサイユ宮殿で活躍した音楽家の曲を集めたもの。最初のプログラムは、豊田、札幌、兵庫でも演奏された。
この10月にはフランスのチェンバロ界の大物二人が来日していた。クリストフ・ルセとピエール・アンタイである。ルセは単独ではなくヴィオール奏者とのジョイント・リサイタルであったが、アンタイは彼のチェンバロ単独のリサイタルであり、その曲目はJ.S.バッハ、D.スカルラッティの作品という点で近いものがある。ラモーの一部は共通している。
さらに10月19日にアンタイが使用したチェンバロと、今回ロンドーが弾いたのはまったく同じもの。調律方法は、演奏者、演奏曲目により変わっているだろうが、似たような条件で聴き較べができるというのは、まことに贅沢な話(ルセは別のチェンバロであった)。
“イタリア風に”のプログラムは休憩を入れることなく通して演奏された。
バッハの曲の前に手をならすためかパラパラと弾いていて、ごく自然に《リュート組曲》へ入っていく。
冒頭のバッハ二曲からスカルラッティのソナタに移ったとき、一気に音の輝きが増した。短調から長調へと変化したのだから明るく感じるというだけでなく、一つ一つの音の粒立ちがより明確になり、聴き手に迫ってくる。曲が変わっても印象は変わらない。
スカルラッティの短いソナタの中でも、テンポの変化をつけたり、細かな装飾を入れる、一瞬ごとに変わっていくようで聴衆も集中を高めて聴いている。もちろん、一曲一曲の表情も違う。
最後にふたたびバッハに戻り、<イタリア協奏曲> と<シャコンヌ>。前者は鍵盤楽器用の曲でもちろん素晴らしかったが、後者におおいに魅了された。無伴奏ヴァイオリン・パルティータからの編曲だが、編曲者はブラームス、右手が不自由になったクララ・シューマンのために左手用に書いたもの。当然ピアノで弾かれることが想定されている。筆者の席からは確認できなかったが、最初はブラームスの書いた通り左手だけで弾いていたようだが、次第に右手もまじえたアレンジを加えていった。一気に目の前が開けていくように思えた瞬間。ヴァイオリンでは味わえない、ロンドーのオリジナルの音世界といってよいだろう。
<シャコンヌ>が終わりしばしの静寂、彼が手をあげたのを確認して、この日初めて拍手が始まった。休憩なしとはアナウンスされていたが、80分のプログラムをまったく間を開けることなく弾ききった彼の集中力に感服。聴衆も抑えていた感動を大きな拍手であらわした。
アンコールのF.クープランの《神秘的なバリケード》やロワイエの《スキタイ人の行進》は別の日の”クラヴサン奏法~フレンチ・プログラム”への期待を高めてくれた。スキタイ人の行進が一旦遠のいたとき拍手が入ったのは残念だったけれど。
“クラヴサン奏法~フレンチ・プログラム”は、ラモーが前半、フランソワ・クープランとロワイエが後半という構成。前後半ともに<プレリュード>から始まる。初日のときと同様に試し弾きをするようにしつつ曲に入っていく。ラモーの曲もアンタイのリサイタルで聴いたばかりなのだが、彼は骨太な音でガッチリと構築していたのに対し、ロンドーはより自由度の高い音楽を聴かせてくれた。装飾の付け方やテンポの変化は演奏するごとに違ったものになるのではという印象をうける。聴く側にもそれを受け止める準備がいるのかもしれない。
ラモーの《組曲 イ短調》からの<サラバンド>や<3つの手>では、チェンバロの響きがホールという限界を越えて拡がっていくような気分を味わった。ピアノに較べれば減衰が早いのは間違いないが、優れた奏者が響きを重ねていけば音色も多様になるし、前の音の残響を拡大するようにも感じられる。この日の会場は、前回王子ホールのほぼ3倍の収容力のある東京文化会館小ホール、会場がチェンバロの音で埋め尽くされた。
彼自身、アンコールの前に日本が好きと言っていたが、是非たびたび来てほしい。
アンコールの最後はバッハの《ゴルトベルク変奏曲》から<アリア>。
このまま弾き続けてくれればいいのにと思ったが・・・・
ロンドーはソロ以外にも、リュートのトーマス・ダンフォードの結成したアンサンブル「ジュピテール」、バロック・カルテット「ネヴァー・マインド」といったアンサンブルでの活動も積極的に行っている。バロックだけでなく、ジャズ指向の音楽を演奏する「Note Forget」というグループも立ち上げている。
ジャンルを越えてさまざまな挑戦をしているロンドー、「あなたは音楽に何を聞きたいの?」と問いかけてくるよう。生半可な知識など、軽々ととばされてしまう。先達の築いてきた基盤を踏みしめ、新たな地平を切り開いていく彼の今後が楽しみ。
彼が演奏会でチェンバロに向かうときの服装や容貌もまったく独自のスタイル、ということは付け加えておこう。
関連評:ジャン・ロンドー チェンバロ・リサイタル|大河内文恵
(2019/12/15)
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Jean Rondeau – Harpsichord Recital “In The Italian Taste”
2019/10/31 Oji Hall
〈Performer〉
Jean Rondeau
〈Program〉
J.S.Bach : Prelude from the Suite for luth in C minor BWV 997
: Fantaisia in C minor BWV 906
Domenico Scarlatti :
Sonata K. 132 in C Major
Sonata K. 175 in A minor
Sonata K. 208 in A Major
Sonata K. 119 in D Major
J.S.Bach : Adagio from the Concerto in D minor BWV 974
(Transcription of oboe concerto in D minor of Alessandro Marcello)
Domenico Scarlatti :
Sonata K. 6 in F Major
Sonata K. 481 in F minor
J.S.Bach : Italian Concerto in F Major BWV 971
J.S.Bach/J.Brahms : Chaconne from the Violin Partita n°2 in D minor BWV 1004
——————(Encore)——————
F.Couperin : Les Barricades Mystérieuses (from “Pièces de Clavecin” Livre II)
F.Couperin : La Favorite (Chaconne à deux tems – Rondeau)
P.Royer : La Marche des Scythes (from “Premier Livre de Pièces pour Clavecin”)
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Jean Rondeau – Harpsichord Recital
L’Art de Toucher le Clavecin ~ French programme
2019/11/3 Tokyo Bunka-kaikan Recital Hall
〈Performer〉
Jean Rondeau
〈Program〉
Jean-Philippe Rameau (1683 – 1764)
Prélude en la mineur
Suite en La (extraits) from Nouvelles Suites de Pièces de Clavecin (1728)
Allemande
Courante
Sarabande
Les Trois Mains
Gavotte avec les Doubles de la Gavotte
François Couperin (1668 – 1733)
Premier Prélude en Do Majeur from L’Art de toucher le clavecin
Pieces de clavecin Book1: 3rd Ordre
La Ténébreuse (Allemande)
La Lugubre (Sarabande)
La Favorite (Chaconne à deux tems – Rondeau)
Pancrace Royer (1703 – 1755)
Premier Livre de Pièces pour Clavecin
La Sensible
La Marche des Scythes
——————(Encore)——————
F.Couperin : Les Barricades Mystérieuses (from “Pièces de Clavecin” Livre II)
Rameau : Danse Des Sauvages (from “Les Indes Galantes”)
J.S.Bach : Aria (from Goldberg Variationen)