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ピエール・アンタイ チェンバロ・リサイタル|藤堂清

ピエール・アンタイ チェンバロ・リサイタル
Pierre Hantaï Cembalo Recital

2019年10月19日 ハクジュホール
2019/10/19 Hakuju Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
ピエール・アンタイ
(使用楽器:ミートケモデル・Jan Kalsbeek,2000年製作)

<曲目>
ラモー:クラブサン小曲集より
    アルマンド、クーラント(1728)、内気(1741)、
    三つの手、サラバンド(1728)、つむじ風、ロンドー形式のジーグ(1724)
J.S.バッハ:アリア(《イタリア風のアリアと変奏 イ短調 BWV989》より)
ヘンデル:序曲(《忠実な羊飼い》より、P.アンタイ編曲)
ヘンデル:組曲 ニ短調(《ボ―トンハウス所蔵の筆譜」より 》)
      プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、変奏曲とメヌエット、ジーグ
———————(休憩)——————–
D.スカルラッティ:ソナタ イ短調 K.3
         ソナタ イ長調 K.208
         ソナタ イ短調 K.175
J.S. バッハ:パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830
    トッカータ、アルマンド、コレンテ、アリア、サラバンド、
    テンポ・デ・ガヴォッタ、ジーグ
D.スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.87
——————(アンコール)—————–
J.S.バッハ: プレリュード(《リュート組曲 ト短調 BWV995》より)
J.S.バッハ: ジーグとドゥーブル(《リュート組曲 ハ短調 BWV997》より)

 

ピエール・アンタイのこの日のプログラムは、4人のほぼ同時期に生まれた作曲家の作品で構成された。最初に登場するジャン=フィリップ・ラモーは1683年生まれ、他の3人、ヨハン・セバスティアン・バッハ、ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル、ドメニコ・スカルラッティはともに1685年の生まれ。活動した国は異なるが、18世紀前半の音楽の歴史にそれぞれ大きな足跡を残している。

アンタイは、2017年にスキップ・センペと二人でのデュオ・リサイタルで、ラモーのオペラやバレなど様々な作品から選び編曲した”二台のチェンバロのためのシンフォニー”を聴かせている。
今回のラモーは一台のチェンバロのために書かれたもの(<内気(1741)>は合奏曲の自身による編曲)。
アンタイの音はどの音域でも厚みが感じられる。弦を弾いて振動を起こすというこの楽器の発音方法を考えると驚異的と思える。音色も多彩だが、ストップの変更を頻繁に行っているようには見えず、タッチによるコントロールが主体と見えた。鍵盤を押し下げる速度や手を放すタイミングにより振動の継続時間をコントロールする技術があるのだろうか。
ラモーはオペラのように言葉があるものの方が楽しいというのは筆者の好みでしかないが、アンタイのラモーからは舞曲としての形式だけでなく、物語が聴こえてくるように感じられる。かなり装飾音を加えていることも、同じことの繰り返しといった印象を与えないためであろう。

ヘンデルは期待ほどにははじけたものではなく、おとなしやかな演奏。音の強弱の幅や音色の面が変わるわけではないが、ラモーで聴けた音楽への没入感がうすいように思う。

休憩をはさんで後半はスカルラッティとバッハ。
アンタイは近年、D.スカルラッティのソナタ集を録音中で、第6集まで発売された。2018年にはラ・フォル・ジュルネTOKYOに来日し、彼のソナタを集めた“ソワレ・スカルラッティ”を二公演行っている。その時の曲数と較べれば4曲というのは少ないし、王女のための練習曲として書かれたという曲の成り立ちもラモーなどとは異なるが、彼の打鍵のスピード、鍵を放すタイミング、それによるダイナミクスの幅、運指の技術といった技巧の卓越は十二分に聴き取れる。なによりアンタイのスカルラッティへの想いの強さが短いソナタから感じられた。

バッハのパルティータ第6番の演奏が始まるとアンタイの表情が変化する。楽器を弾いているというより、もっと大きな力に突き動かされているように。テンポの揺らぎ、音色の変化、多彩な装飾には、あちこちでハッとさせられるが、それ以上に彼の音楽にグイグイと引っ張られていく。アンタイだけでなくわれわれ聴衆も大きな渦に巻き込まれていった。

胸に手を当て、拍手に応え「バッハ」とだけ告げてアンコール。ゆっくりと現実世界に連れ戻してくれた。

(2019/11/15)

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〈Performer〉
Pierre Hantaï

〈Program〉
Rameau: Pièces de clavecin
   Allemande, Courante(1728), La timide(1741), Les trios mains, Sarabandes(1728),
   Les Tourbillons, Gigue en rondeau(1724)
J.S.Bach: Aria alla Maniera a Italiana BWV989
Händel: Ouverture from Il Pastor Fido (transcription by P.Hantaï)
   : Suite in D minor from ‘Boughton House Manuscript’
     Ouverture, Allemande, Courante, Sarabandes, Menuet with variations, Gigue
—————(Intermission)————-
D.Scarlatti: Sonta in a minor K.3
     : Sonta in A major K.208
     : Sonta in a minor K.175
J.S.Bach: Partita No.6 in c minor BWV830
   Toccata, Allemande, Corrente, Air, Sarabandes, Tempo di gavotte, Gigue
D.Scarlatti: Sonta in b minor K.87
—————–(Encore)—————–
J.S.Bach: Prelude from “Lute Suite in g minor, BWV 995”
J.S.Bach: Gigue and Double from “Lute Partita in c minor, BWV 997”